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魔道具博覧会 ー3ー


「すすす……すごい! これ、こここんな二五〇年も前の魔道具が綺麗な形で残っているなんて!」

「なんですか? これ」

「これはですね、オルレインが作った今の通信機の第一号です」

「こんな大きなものが⁉︎」

 

 私の背の丈までありそうな大きな箱を開けると、中には大きな陣がいくつも描かれ、何種類もの魔精石が埋め込まれていた。

 

「これは、持ち運ぶのも大変そうですね」

 

「そうですね。今は手のひらサイズで持ち運びに負担はありませんよね。この複数描かれている陣も簡略化されていますが、ただ、魔精石を作るのに高価すぎてご存知の通り一般市民には普及されていません。この魔精石自体を作り出すのに、時間と手間が膨大にかかりますしそのために必要な魔法石や素材も高価です。以前私も試作品を作ってみたのですが、手直しが多そうだったので、それから手をつけていなくて……。これを安価に作れたら国の発展は著しいでしょう……ね」


 そこで、はっとして顔を上げると、目の前にいた学芸員の女性が笑顔で固まっていた。


「す……すいません。私の説明合ってましたでしょうか……」


 プロを差し置いて偉そうに喋るなんて失礼極まりないと思いながら思わず愛想笑いを浮かべる。


「ええ。御令嬢の説明通りですわ。博識でいらっしゃいますね」


 にこりと微笑みながらも、ちょっとイラッとしているのが分かる。

 それもそのはず、この会場にいる女性達の視線は公子様に集中していた。


 騎士団の制服ではなく、真っ白な手袋に、貴族らしい紺のジャケットを着た彼に、誰もが見惚れ、いつ話かけようかと虎視眈々と狙っている。


 そんな、大臣達の奥様や娘達の視線を独り占めして、その彼にエスコートされると言うのは、思った以上に居心地が悪かったが、魔道具の魅力を前にそんなものもいつの間にか霧散していく……を先ほどから三回以上は繰り返していた。

 

 目の前にいる美人でナイスバデーな学芸員のお姉さまも、公子様に説明したかったことだろう。

 しかも彼女の仕事を奪っている状況だ。

 

「あの、公子様。もし私がうるさかったら……どうぞゆっくり回ってきて下さいね」

 

「とんでもない。貴女の説明はとても分かり易いですし、何よりパレンティア嬢が楽しんでいる姿を側で見られて嬉しいですから」

 

 

「それよりも俺がそばにいる事の方が気になりませんか? 気が散るようであれば離れて歩いても俺は構いませんが」


 アリシア様から私が男性が苦手という事を聞いたのだろう。

 彼にその話をした記憶はなかった。

 

 罷り間違っても、アリシア様のお兄様に舞踏会でのような恥をかかすわけにはいかないし、公子様が側にいることに前ほど不安や緊張はない。

 

 むしろ、横で楽しそうに話を聞いてくれて、質問してくれることがとても嬉しくて楽しかった。

 

「とんでもございません。もし、公子様さえ良ければ、『普通に』エスコートしていただければと思うのですが……」

「では……お手を」

 

 そう言って公子様が腕をそっと出してくれる。

 

「で、……では。失礼致します」

 

 そう言って、早鐘を打つ心臓の音を無視して、彼の左腕に震える自分の右手を乗せた。

 

 お兄様以外にエスコートされるのは初めてだわ……。

 

 こんな田舎娘に普通のエスコートをしろと言っている私もおかしいのかも知れない。


 そう思いながら、公子様に挨拶しに来られる各界のお偉いさん方や騎士団の上層部の人達と挨拶をする時、邪魔かと思い、そっと離れるも、優しく呼び戻される始末だった。

 

「はっはっは。遂にラウル様も身を固められるのですか?」

「そうなるといいのですが。ただいま絶賛求婚中です」

「はっはっ……、は?」


 冗談のつもりで振ったのだろうどこぞのお偉い様が固まり、「これに⁉︎」という目で私を見ていた。


 そうですね。


 貴方様の横にいらっしゃるご息女様の方が私も相応しいと思います……。


 そんなことを繰り返しながらも、私は挨拶以外は内覧会を楽しんでいた。

 

 会場の半分程度まで回ったところで、公子様が、主催者に呼ばれ、一緒に行くかと心配そうに言われたが、お仕事の邪魔はしたくないので「一人で大丈夫ですよ」と笑顔で送り出す。

 

 けれど、それがまずかった。


 誰とも知らない御令嬢や、大臣クラスのお偉方に、名前、家系、公子様との出会いから根掘り葉掘り問い詰められて、引きこもり歴の長い私としてはパニックを起こしそうになる。

 

 人に酔ったとその場を離れ、人気のない場所で休んでいた。


 会場から一本横の廊下は、少しひんやりとした空気で、昂った気持ちが凪いでいく。

 

 

「ティア? 何でここにいるんだ?」

 

 その声にビクリと反応して振り向くと、二度と会いたくないと思っていた、『彼』の姿に思わず体が竦んだ。

 

「ダレス……様」

 

 先日会った時とは異なり、今日は白衣を着て、アカデミーの関係者の札を付けていた。

 

 思わず足が一歩下がるも、グッと腕を掴まれて、体がさらに強張る。

 耳に響く鼓動の音がうるさい。

 


 不快な笑みを浮かべるダレスと目が合うと、……頭が、真っ白になった。




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