魔道具博覧会 ー1ー
それから一週間後、王都の素材店に注文に行くので、アリシア様に会えないかと連絡をとったところ、お茶をしましょうという事になった。
今日も麗しのアリシア様との会話を楽しんでいたのだが、帰る間際、気まずそうにアリシア様から爆弾を落とされる。
「ティア、急なのだけど……明後日、兄と一緒に魔道具博覧会に行けませんか?」
「博覧会……ですか?」
「ええ、魔道具博覧会開催の前日に、御前内覧会があるのはご存知でしょうか? 国王陛下を始め、宰相や国の重鎮達に公開されるのだけど、……当然王国騎士団長である兄も招待されているの。その際に一名ほど同伴できるのだけど、私は用事があるし貴方さえ良ければ行きませんか?」
「御前内覧会……」
魔道具博覧会とは、四年に一度、世界で作られた最新の魔道具から、貴重な魔道具を集めて一堂に展示される催しだ。
四年前は北のアラタリア帝国で行われ、あまりに遠くてとてもじゃないが行くことなど出来なかった。
そして今年の開催地が、我が国ソレイユ王国で、アカデミーでもこの開催に向けて力を入れていた。
開催国であるから、より素晴らしい魔道具を作ろうと、アカデミー、魔道具塔含めこの四年は大きな予算が割り当てられていると聞いている。
一般公開は各国から人が大勢押し寄せて来ることだろう。それも貴族から平民まで。
その御前内覧会となれば、招待客は限られているので、一つ一つをゆっくり見て回れるし、魔道具の説明も要人相手であれば、より詳しく聞くことが出来るだろう。
一般公開では人が多くてごった返すし、トラブルも多いはずだ。落ち着いて魔道具を堪能出来る気がしない。
とてもとても魅力的だけれど、……やっぱり『男の人と二人きり』というのに気が引けてしまった。
「とても嬉しいお誘いなのですが、多分私を同伴するとラウル様も気分が良いものではないと思うのです。間違いなく私が緊張して……変な雰囲気を出してしまいそうですし……」
「そんなことは無いわ! 兄は貴女と一緒に行けたらとっても喜びますし! ……というか、聞いてみてくれって言われたんです!」
「……」
でも、まだ婚約の返事もしていないし、やっぱり気まずい。
変な雰囲気になって、帰るのも嫌だし……。
「ティア、もし婚約の返事のことを気にしているのなら、兄に絶対そのことに触れないように言いますから」
「でも……」
「いいえ。貴女が楽しめるのなら兄に離れているように言いますし、というか兄のことなんて放っておいて、一人で好きなように見て回れるようにするよう伝えます」
それはあまりに自分勝手過ぎないかと、驚いてアリシア様を見つめた。
「……そんな失礼なことをする訳にはいきません」
「ええと、つまり、何が言いたいかと言うと……」
アリシア様は目を泳がせながら困ったように、諦めたように口を開く。
「つまり、兄は貴女に魔道具を見て欲しいだけなんです。貴女が四年前に行けなかったことも知っているし……、ただ貴女に好きなものに触れて、楽しんで欲しいだけで……」
少し困ったように、それでいて申し訳ないように微笑んだアリシア様の言葉に、胸の奥がキュッと締め付けられた。
四年前、魔道具科の生徒で遠い北国の魔道具博覧会に行く行事予定が組み込まれていたけれど、私はその直前に退学したため、行くことが出来なかった。
それを、こうして公子様が御前内覧会という特等席のような……、私にとってこれ以上ない機会を与えてくれた。
『――ただ、楽しんできて欲しい』
あんなに失礼な態度しか取っていないうえに、婚約の返事も未だにすることもなく逃げている私だけが、こんなに特別なものをもらっていい訳が無い。
「……貴女が楽しんでくれると、兄も楽しいと思いますから」
「……っ」
少し寂しそうに、それでも優しくこちらを見つめるアメジストの瞳が、公子様と重なった。
『ただ楽しんで欲しい』そう思ってくれる相手を無下に出来るほどの勇気は私には無い。
その優しさを踏みつける人間にはなりたくない……。
「……私でいいのなら、是非同伴させていただきたいです」
「ありがとうございます! ティア!」
「それから……是非、別行動ではなく……一緒に見て回りたいとお伝えいただけると嬉しいです」
「……え」
アリシア様が喜んだ顔のまま固まる。
「逃げてばかりではなく、公子様がどんな方か、少しでも……知ることができれば……と思って」
だんだんと声が小さく尻すぼみになり、顔も少し火照っているのを感じる。
けれど、誠実な人を知ろうともせず断ることは間違っているのでは……と思い始めずにはいられなかった。
もし私がアリシア様の立場だったら。
兄様の好きな相手には兄様のことを好きになって欲しいと思うだろう。
何としても兄様にチャンスを作りたいと。
兄様を知って欲しいと願うはずだ。
結果断ることになったとしても、きちんと向き合ってみてからでも遅くはない。
私の動揺が伝染したのか、アリシア様の顔もだんだんと赤くなり、「う、嬉しいわ……」と小さく呟いた。




