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才能

 朝、部屋で朝食を摂り、アリシア様を迎えにロビーまで行くと、挨拶と共に贈り物と差し出された箱に目を見開いた。

 

「これは?」

「とても綺麗だと仰っていたので……」

 

 綺麗に包装された箱を開けると、藤の花を模した、キラキラと輝く昨日の髪飾りがあった。


「私より、アリシア様の方がお似合いになられるかと……」


 そう言うも、アリシア様が箱から取り出して私の黒髪にあてがう。


「うん。とても素敵です」


 さっと、リアさんが差し出した大きめの手鏡に、映る自分を見つめると、彼女の瞳と同じ宝石が私の頭を飾っていた。

 

「貴方のシルクのような黒髪と、白い肌によく映えて、絶対似合うと思ったんです。こう言っては失礼ですが、あまり高い物ではないので、気軽に着けてくれたら嬉しいです」

 

「ありがとうございます。……友達からのプレゼントなんて初めてで、とても嬉しいです。……アリシア様は私にたくさんの『初めて』をくれますね」

 

 そう言って彼女を見上げると、アリシア様も目を見開いて微笑む。

 

「貴方こそ。私に沢山の初めてと初めての気持ちを沢山くれていますよ」

「え? 本当ですか? でもそう言ってもらえるととても嬉しいです」


 その時、ブランカが馬の準備が出来たと言うので、アリシア様と馬に向かった。


「……兄様ってば、ちゃっかり自分の目と同じアクセサリーを贈ったわね」

「頑張ってドレスを着られているのですから、それぐらいないとやってられないんではないですか?」


 なんて会話が少し離れた後方で繰り広げられている事など知る由も無かった。


 ***

 

 カポカポと、山道ではなく、馬の通れる獣道を迷うことなく登って行く。


「ティアは本当にこの森に慣れているんですね」

「ええ、もう本当に庭みたいなものですから……、あっ! ちょっと待ってもらって良いですか? あそこに、ゲンクク茸が!」


 ひょいとクルクから降りて、ゲンクク茸をそっと採って小袋に包む。

 それからいつものポーチに入れてから速攻で戻ってクルクに跨った。


「……何茸とおっしゃいました?」


「これは、ゲンクク茸と言って、この腕に嵌めている『姿を消す』魔道具の材料に使ったものの一つです。元々食べたら幻覚を見せるキノコなんですが、その作用を利用してまず粉末にして、魔法石を浸した溶液に三日浸けます。それから……ハッ。すいません。とにかく……材料の一種です。以前お話ししたように、あの腕輪と同じものを作れていないのでまだ色々と試行錯誤しているんです」


 また、専門的な説明を延々と続けるところだったと思い、自主的に話をまとめにかかると、クスクスと笑うアリシア様に「ティアは魔道具の話をしている時が特に可愛いですね」と言われた。


 「……ありがとうございます……?」


 そう返事をしながらも、なぜか不意に頬が熱くなり、何か別の話題は無いかと考えるも、

 

「え、えーっと。……オルレイン魔道具師ってご存知ですか?」


 と、考えた結果が結局魔道具の話で自分にがっかりした。

 

 それでも、アリシア様は嫌な顔ひとつせず笑顔で答えてくれて、ホッとする。

 

「もちろんです。確か歴史上最も多くの魔道具を開発した人ですよね? 例の王家のマジックボックスを作った人でもある」


「ええ、そうです。本当にすごいですよね。私も彼のようになりたいと思ってて、今彼の作った魔道具大全集を探しているんですが、貴重なものなので手に入らないんです。オルレイン魔道具大全集には彼が開発したものだけでなく、彼の未完成の作品も載っているそうで、どんなものを作ろうとしていたのか気になります。……本当に失敗ばかりで彼のような才能は無いけれど、生活を少しでも豊かに、誰かが喜んでくれるものを作りたいんです。……と言っても、娘の役割すら果たせず家の為に何もできていないんですけど……」

 

 きっと家族は私がいつか誰かと幸せになることを望んでくれていると思う。

 両親が恋愛結婚だったからか、姉や兄にも、敢えて婚約者を作らず、好きな人と幸せになってほしいと昔から言っていた。

 

 必ずしもそれが幸せで終わるかなんて保証はないけれど、人を愛する気持ちを大切にしてほしいというのが昔からの両親の意見だ。

 

 けれど、私はそれを全否定しているようなものだ。

 でも私の意見を尊重してくれる両親に、何か返したい。

 

 結果を出したい。


 魔道具製作は、失敗ばかりで嫌になることもあるけれど、『カーティス家の功績』と思われるものを、一つでもいい。

 

 形にしたい。


「私からしたら、ティアはあんなにすごい魔道具を沢山作っている時点で天才だと思いますけど……」


「いえ……祖父や、歴代の魔道具師の人たちから見たら、……特に才能も無い『平凡』だと思います」


 

「……才能はありますよ」

「え?」

 

 驚いてアリシアの顔を見上げると、ふわりと微笑んでこちらを覗き込んでいた。

 

「『好き』というのは才能ですよ」


「でも、好きだけでは……」


「好きでないと、どんなに努力したって、頑張った分の半分も成果に出ないかもしれません。結果が出なければ諦めることもあるでしょう。好きだから、もっと、もっとと貴方は知識を求め、研究をし、失敗しても努力をしようとお考えになるのでしょう。……貴女のそのひたむきさは、人の心を動かします」

 

 アリシア様のその言葉に、胸の奥が締め付けられる。

 

「好き」だけではどうにもならない事も分かっている。


 けれど、幼い頃初めて作った魔道具を見て、家族が喜んでくれたことがとても嬉しかったし、自分が何かを作るという事が嬉しかった。


「ありがとうございます。なんだか、もっと魔道具作りが好きになりそうです」


 そう微笑むと、アリシア様はほんのり頬を桃色に染め、照れたように「良かったです」と言って視線を逸らす。


 優しくて、綺麗で可愛いなんて天使なのかしら。と、彼女と出会わせてくれた神様に感謝した。


「あっ……」


 アリシア様が突然馬から降りて少し先の茂みでしゃがみ込む。


「アリシア様?」


 何か気になるものがあったのかと、彼女の背後から覗き込むと、アリシア様が苦笑いをしながら振り向いた。


「ゲンクク茸かと思ったら、何か違うキノコでした」


「あはは、それはチィ茸ですね。ここら辺はきのこがたくさん生えてるからゲンクク茸を見つけるのは難しいですよ。あれがマイマイ茸で……」


 そんなきのこ話に盛り上がりながら、目的地に向かって足を進めた。

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