二話【ゲーム世界でショッピング】
ライスボックスの二階に上がり、少しの待ち時間の後に二人同時に〈Colorful Bullet!!!〉の筐体に入った。前回遊んだのは日曜日で、今日で遊ぶのは四回目か。これだけ遊べばフルダイブVRにも慣れたもので、ゲーム世界への投影の際に意識が落ちるのも眠りに落ちるように心地よく感じるほどだ。
「――よし、到着」
アバターが中央広場に投影される。休日ほどではないにしろ、この日も多くのプレイヤーたちで賑わっていた。
「翔ちゃーん!」
「おっ、璃恩」
同じゲーセンの筐体から投影されたので璃恩はすぐに見つかった。璃恩の服装は丈の長いタンクトップにハーフパンツと非常にラフ。言い換えれば妙に露出多めの格好だった。こんな璃恩の姿は現実世界では一度も見たことはないが、ゲームの中だからはっちゃけているのだろうか。
「それで、今日は何する? 翔ちゃんに合わせるよ」
「いいのか?」
〈Colorful Bullet!!!〉は一プレイ五百円で、早乙女家の苦しい家計にも打撃を与えるはずだ。俺のやりたいことを優先するのも気が引ける。
とはいえ、璃恩も個人的に遊んでいるようだし、あまり遠慮すると逆に傷付けることになるだろう。ならば、お金のことは忘れて思い切り遊ぶのが一番だ。
「じゃあさ、ちょっと買い物に付き合ってくれないか? SPが貯まってきたから使いたいんだけど、ショッピングステーションに行くのは初めてなんだ」
「オッケー! それじゃ、フレンド登録済ませてから行こっか」
互いの左腕に装着しているマルチパレット――俺が最初スマートウォッチと勘違いしていた腕時計型の端末だ――を近づけることで、ピピッという効果音と共にフレンド登録が完了する。フレンド登録すると相手のプロフィールとログイン状況――今どこにいて、何をしているか――が分かるし、対戦中でなければ傍にワープすることもできる。
ちなみにフレンド登録時に知ったことだが、璃恩のプレイヤー名は『ハンサム』だった。笑ってやるべきだっただろうか。
〈Colorful Bullet!!!〉のエリアは三つに分けられる。
一つ目は中央広場。ログイン時に降り立つ広場で、多くのプレイヤーの憩いの場として機能している。俺のような学生には贅沢な話だが、中には対戦にはほとんど行かず、単純にゲーム世界の一員としてゆったり過ごすことに喜びを見出している裕福なプレイヤーもいるらしい。
二つ目はバトルステーション。十箇所あるカウンターで対戦の手続きを済ませることで戦場に転送される。それ以外の場所では戦えず、殴りかかったり暴言を吐いたりなど悪質なプレイを繰り返せば強制ログアウトされてしまう。
そして三つ目が、広場を囲むように店舗が並ぶショッピングステーション。要は円形のショッピングモールで、施設内には多くの店舗が入居している。メイン・サポート装備を扱う武器店、アバターの容姿を変えるビューティーサロン、ファッション装備を取り扱うアパレルショップが数店舗。今後もゲームのアップデートと共に店舗が増加していく予定だとか。
初めて行くショッピングステーションだが、施設内を練り歩く人々がちょっと派手な格好をしているという点以外は現実とあまり変わらない。ファッション装備の店舗の割合が大きいせいか、女性アバターが占める割合も大きく感じる。
「あまり時間を無駄にしたくないからね。翔ちゃんがよければ僕が案内するけど?」
「それは助かる。ハンサ……璃恩に任せるよ」
璃恩は俺のSP数と要望を聞くと、サポート装備の店舗と、男性アバター用ファッション装備を取り扱う二店舗を勧めてくれた。付き合いが長いだけあって、俺の好みに合った商品まで提案してくれるから下手な店員よりも接客が上手い。
商品を購入すると自動的にデータ上の倉庫に送られ、マルチパレットの装備ウインドウから選択することで装備される。ここはバトルフィールドではないのでファッション装備しかアバターには反映されないが、プラスチックの安っぽいゴーグルと、真っ白なだけのトップスを買い替えるだけでも初期アバター感が払拭された。もっとSPが貯まったら指輪やドッグタグなどのアクセサリー系を購入するのも面白そうだ。
最後に連れていかれたのがビューティーサロンだ。他のアバターを見て推察していたが、〈Colorful Bullet!!!〉の世界では髪色と瞳の色を自分の『色』に合わせるのが流行らしい。奈雲の髪色が鉛色だったのもそれが理由だったわけだ。
美容院とはいえ、現実とは違い何十分もかけて髪を染めたりするわけではない。装備品の購入と同じように好きな髪色や瞳の色を選択し、NPCの店員に注文するだけであっという間に変身完了。
高校生にしてようやく濃いめの茶髪に染めた俺には気恥ずかしく、何度も髪をいじっていると「そのうち慣れるから」と璃恩が先輩風を吹かせた。そんな璃恩の髪は現実と同じ黒髪なのだが、これは璃恩の色が『肌色』で、その通りに染めるとカッコ悪いのが理由なんだとか。気持ちは分かるが先ほどの言葉に説得力はなくなった。
「ありがとう、ハンサム先輩。それで、残り時間は十分弱だけどどうする? 今からじゃ試合もできないし、このまま他の店も見て回るか?」
「それも悪くないけど、せっかくログインしたなら思いっきり遊びたいじゃん! こういう時はバトルステーションで『プラクティス』を申し込むのがおすすめだよ。初心者なら特にね」
『プラクティス』は一人で、もしくはNPCや他プレイヤーと共にログアウト時間まで模擬戦を行える練習モードだ。
服装を新たにし、新しいサポート装備も購入した俺はすぐに試してみたくて賛同した。
「よっしゃ! プラクティスとはいえ本気で行くぞ!」
「ふっふっふ……僕の胸を貸してあげるよ、翔ちゃん!」