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見捨てられた令嬢。竜の花嫁として捧げられましたが、黙って従う気はありません─連載版─  作者: みこと。@ゆるゆる活動中*´꒳`ฅ


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14.自由な空へ

 揉み手をせんばかりの愛想笑いで、玉座に近寄って来たのは、父だった男、ロストン子爵。

 彼は誰の許可もないまま、勝手に話し始めた。



「新しい国王陛下にご挨拶申し上げます。──マルティナ、ワシは鼻が高いぞ。イェルク山の竜王様(・・・)に気に入られるとは、自慢の娘だ」



 締まりのない、おもねるような笑みに、私は冷ややかな気持ちになる。


 その言葉を数ヶ月前に聞けていたら。

 私の心の真ん中が、ぽっかり空いている時に言ってくれていたら。


(遅かったです、お父様。私はもう、あなたを必要としない──)




「あの男は()()?」


 察しているだろうに、エルマーが問う。

 "今後の距離を決めていい"と、私に(ゆだ)ねてくれたのだ。



「さあ。うっかりと忘れてしまいました。どなただったかしら」


 "知らない"というには、他の貴族たちの名を挙げ過ぎた。


 たちまちロストン子爵の顔が、怒りに染まる。

 私の態度がお気に召さなかったらしい。


「っ!! マルティナ、お前、育ててやった恩を忘れたのか!」



(自分がしたことを忘れたのは、お父様のほうでは?)


 私はひとつ息を吸うと、決別の意を込めて言い切った。


「……私はかつての家族から縁を切られたようです。いま私の家族は、ここにいる夫だけ。()の方は(ひと)しく他人。そう思っています」


「なんっ……!」


 顔を真っ赤にして、子爵が口を(つぐ)む。いま話したらきっと、いつもの癖で悪口雑言を吐きそうだったのだろう。



 そしてたった今、それを見たばかりのはずだったのに。


 もうひとり、歩み出て来た。


「いかがでしょう、イェルク山の竜王、エルマー様。わたくしもエルマー様の花嫁に、加えていただけませんか?」


 聞き慣れた声に、ドキリと心臓が跳ねる。


 豪奢な白金の髪を揺らしながら、ウットリとした目で見上げてくるのは義妹のナディアだった。



「何だ、お前は?」


「マルティナの義妹(いもうと)で、ナディア・ロストンと申します。お見知りおきくださいませ」


 華やかなドレスを手で広げ、深く優雅に腰をかがめるお辞儀は、花が咲くように美しい。


 "縁が切れた"と伝えたにも関わず、"義妹(いもうと)"を強調してきたのはエルマーへのアピールだと想像がつく。

 私は思わず、この席にはいない人物のことを尋ねた。


「婚約中の御方はどうしたの?」


「ティバルト様は領地視察で本日はご不在なので、事後承諾となりますが。ヴルカンの新国王、エルマー様のお役に立ちたいわたくしの気持ち、ティバルト様もわかってくださるかと存じます」


 ティバルト様より、エルマーのほうが顔も好みで力も大きいから乗り換える。

 そういうことらしい。

 あんなに執着して、ついには奪ったのに。


義姉(あね)はエルマー様の花嫁として選ばれましたが、その人選は偶然のようなもの。エルマー様におかれましても、他の女性を見てから選ばれたほうが、より充実した夫婦生活を送れるものと愚考いたします」


 チラリ、と絶妙な角度で色っぽい視線と、胸元を主張してくる技術(テク)はさすがと言わざるを得ない。

 そして私は、決定的なことに気がついた。


(……! そうだわ。エルマーは、他の貴族女性を見てなかったんだった!)


 もし、彼が目移りしたら?

 気が変わるということも、ひょっとして有り得るの……?


 エルマーは私に、"誠実である"と誓ってくれた。


 "心変わりはない"と信じながらも、バクバクと脈が暴れ出す。


 ナディアの甘やかな声は続いている。


「わたくしでしたら、あなた様をもっとご満足させることが出来るかと──」


「お前から、たくさんのオスのニオイがする」


「──え?」


 ナディアの笑みが、強張(こわば)った。

 顔からサッと、血の気が引いている。


「何かの間違いです。私はまだ婚約中の身でした。殿方に近づいたことなど」


「嘘つきは嫌いだ。口を閉じろ。竜が望むのは、"ケガレナキ乙女"。そして気高く、美しく、聡明なマルティナが来た。希望以上で、他は()らん。(よこしま)な野望は、(いだ)くだけ無駄だと忠告してやろう」


 冷たく見下ろすように言ったエルマーの声が、凄味を増す。


「……お前だな? マルティナを陥れた義理の妹というのは」


「あ、義姉(あね)がエルマー様に何を吹き込んだかは存じませんが、(いわ)れのない非難を受けるような覚えは……」


 ナディアの反論は早かった。しかし。


「あるだろう。謂れも覚えも。何より。誰が我が名を呼ぶことを許した?」


「……あ……っ」


 上位者の名を許可なく口にすることは、不敬にあたる。

 これまで美貌で許されてきたナディアの行為を、エルマーは現行の無礼だと指摘した。


「極めて不快だ」


 ジュワッ!!


 一瞬の出来事。

 エルマーが手を一振りしただけで、広間中央が溶け落ちる。


 ロストン子爵とナディアの背後に、熱に歪んだ大穴が穿(うが)たれていた。


「きゃあああああ! ひ、火が!!」


 穴近くにいたナディアのドレスの裾は、火が燃え移って勢いよく燃えていた。

 消そうと慌てるナディアと子爵に対し、エルマーの言葉がさらに追う。


「二度と今回のような振舞いは許さない。もし忘れそうなら、いつでも思い出せるよう、その顔を焼いてやる」


「や、いやあっ」


 顔を焼かれてはたまらないと、ナディアが自慢の美貌を指で(かば)う。



「それと。マルティナに直接手を下したヤツ。そいつらは俺が直々に厳罰を下してやる。後で俺の元まで名簿を持ってこい。どう八つ裂きにするか、じっくり考えておく」



 代王はじめ、広間の貴族たちはもう、言葉なく立ちすくんでいた。

 宰相は泡を吹いている。


 大理石の床すら消え失せる、あの火力を自分たちに向けられたら。

 知覚するより先に、この世と別れているだろう。


 それを実感させられたかのような、蒼白な顔面だった。


 特にユルゲン伯爵は、青を通り越して白くなっている。もはや死相では?



 人格者で通していたロストン子爵は、真っ先に新王に(へつら)った。

 ナディアの今日の行動も、ティバルト様の耳に入る。何より、オルラウ伯爵の目の前だ。


 今後彼らはどう立ち回るのか。


 驚くほど関心が沸かない。



「さて、マルティナ」


 声の調子を変えて、エルマーが私を見る。


「俺たちは新婚だ。こんなくだらない連中がいる場所じゃなく、イェルクの愛の巣で過ごしたいと思うが、どうだ?」


「私も同じ思いです、陛下(・・)


 ゆるやかな笑みを作って、答えた。



 ここはエルマーに乗っかっておく。

 抑制は大事。それがこの国で学んだことだから。



「決まりだな」


 エルマーが玉座から立ち上がると、背丈が抜かれていた。


(……!!)


 逞しい長身に頼もしいような、残念なような、複雑な気持ちになる。


(はわわわ。ドキドキしてるのはびっくりしたせいよ。頬が紅潮したのも、負けて悔しいからで……、すごくカッコイイとか思ったわけじゃ……。……いきなり反則過ぎでしょ!!)



 私の内心の大騒ぎを、知ってか知らずか。


「では、当面、代王に国を任せる。堅実に励め。イェルクから見ているからな。──あ、名簿を忘れるなよ」


 言うとエルマーはまたも私を抱き寄せ、私たちはゆったりと広間を出た。

 外ではすぐに巨大な竜翼が広がって。


 私は彼の背に乗って、大空に舞い上がったのだった。




 今話はほぼ短編版と同じ。次話をガフッと付け足しまして、それで完結予定です。


 ティバルト様ですが、領地視察と言いながら視察そこそこにイェルクに赴き、マルティナに一目会いたいとウロチョロするも山に入れず、麓のクヴェレでお酒を飲んでいるというダメンズぶりです。

 うむ。彼は何がしたいのでしょうか。

 偶然再会して、きっぱりと別れを告げられ、エルマーとのラブっぷりを見ると良いと思います。

 挿絵(By みてみん)

 イェレクの宮殿は、イタリアのポンペイをイメージしたのですが、あそこは歴史が凄惨なので、トルコの地下宮殿(イェレバタン・サライ)(2008年写真)混ざりで。


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『【連載版】冤罪で投獄ですって?! 地下牢の地縛霊に身体を譲って、逆転を狙った公爵令嬢のお話。』
― 新着の感想 ―
[一言] もうね、国王の許可なくベラベラする時点でアウトよね(;'∀')
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