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見捨てられた令嬢。竜の花嫁として捧げられましたが、黙って従う気はありません─連載版─  作者: みこと。@ゆるゆる活動中*´꒳`ฅ


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12/15

12.竜、起きる





「っつ……」


 全身に痛みを覚え、目を覚ました。


 思えば寝ている間中、ずっと感じていたような──。


「!! なんだ!!?」


 地下宮殿の竜は、目を覚ますと同時に戸惑いの声をあげた。


 身体を起こすと毛布がずり落ち、ぴったりだったはずの服から長く伸び出た自身の手足に驚嘆する。


(どうりであちこち骨が痛いと……。背が伸びたのか)


 苦しいのは、サイズが合わない服のせいもあったろう。


 背が伸びた、だけでは片づけられない程、成長したエルマーは、締め付ける服を脱ぎつつ、ハッとその手を止める。


(いやいやいや、裸はまずい。マルティナが慌てる)


 いまやしっかりと育った自分を、服の代わりに毛布で隠しながら、愛しい"ハナヨメ"がどこにいるか探る。

 どうやら寝ている間に急成長したらしい。


 人間と育ち方が違う竜にはあることで、一足飛びに少年から青年へ、その身体が移行する。


 つまり幼竜から、成竜へ──。


(成竜になった……!)


 体内に渦巻く竜の力が桁違いで、自分でも強く実感する。


(成竜になれた!!)


 きっかけは、おそらくマルティナ。

 石で指を切った彼女の血を、舐めた時に()()()()()


 つまり"娘の血"が捧げられたことになる。

 そして単なる"娘の血"以上に。


 ──()()()の血は、竜に劇的な変化をもたらせる。──


 昔父竜から聞いた話が、記憶からほころび出る。


("運命"がマルティナを、俺の"(ツガイ)"と認めた! それにこれで──。マルティナに見合う体格になったはず!!)


 おそらく人間ならば十代後半。

 マルティナの身長は越したはずだし、しっかりとした筋肉が少年にはない力強さを湛えている。


 喜びと驚きを共有したくて、マルティナの気配を探し続けるも、宮殿内のどこにも見つからない。


「……? 外に出てる、のか?」


 そういえば、どのくらい眠っていたのか。

 ほんのうたた寝のつもりが、ずいぶんと深い眠りに落ちていた気がする。


 探る意識の範囲を広げ、イェルクの山全体に神経を張り巡らせる。が。


「──いない? なぜ??」


 まさかマルティナの寿命が尽きるまで眠り続けていたとは、考えられない。

 百年なんてことは──。


 ないとは思うが、不可能ではないのが竜。


(いいや。そう時間は経ってないはずだ。毛布や服が劣化してないし)


 おそらくマルティナがかけてくれたらしい毛布は、経った時間を感じさせない。


 あまりに眠り続けていればマルティナが起こしたはずだし、彼女の声ならきっと届く。

 ここ数日、所かまわず寝ては揺り起こされて、そしてそのたびに少しずつ育ってきていた。


(きっと、ついさっきのことで……)


 蒼白になりながら細かく気配を拾っていくと、前に石に込めた、自分の魔力痕跡が見つかる。

 マルティナと共に作った二色水晶は、あの時以来ずっと、彼女が身につけていた。


(山の外……?)


 危険度が跳ね上がる場所に、マルティナは出てしまったらしい。

 とりあえず、魔力が残る一番近い場所へ。


 毛布では、さすがに外で締まりがつかない。


 エルマーの意にそって、竜の魔力が立ち上り、ふわりとその身を包み込む。


 前にマルティナのドレスを染めようとした時、純朴に尋ねた彼女の顔を思い出す。

 ── "竜の魔術に何かあるの?"──


(魔術にはない。特殊能力にあるだけで)


 クスリと笑ったエルマーの全身は、育った身体に合わせた服で覆われていた。


 黒と紫の質の良い地に、あしらわれた銀の装飾が映えている。

 ラフにまとめたはずのそれは、竜の格から、さながら王侯貴族のような長衣となっていた。

 スリットからはシンプルな黒ズボンがのぞく。


(これがないと、竜は変化のたびに全裸だ)


 マルティナの前では彼女を緊張させないよう、なるべく人間(ヒト)と同じように振舞っていた。

 それで里で得た服を用いていたが、それらはすべて子どもサイズ。いまや使えない。


 元来、竜の変化には衣の生成も含まれている。

 自身に限るので、マルティナのドレスに付与することは出来なかったけれど。



 人身のまま翼を背に広げ、エルマーは空に滑り出た。


 魔力石の残滓を辿ると、山外の森で消えかけていた足跡を発見する。

 それが大きく多人数な男と、マルティナの小さな足跡で、争った形跡があると見て取ると。


 イェルクの竜は、即座に竜身に変わり、全身に怒りをたぎらせた。




 ◇



 

 エルマーに呼応するように揺れたイェルクの山に、国中の生き物が身を強張(こわば)らせた後。


 王都の城は、さらなる脅威に見舞われた。


 見張りが遠く飛び()る竜の姿を認め、報告するより早く、若き竜は王城の上空に届いて告げる。


 ──ヴルカンの王に伝える。早急に我が花嫁を返せ。その上でなら、申し開きを聞いてやる──


 


「りゅ、竜だ……!」

「なんだ、何を言っているんだ?」


 慌てる下級兵たちは、竜の花嫁ことマルティナが王城に捕らわれたことを知らない。

 とりあえずは脅威に備え、城の中庭に降り立つ竜に槍を向けるも、震えが穂先を小刻みに揺らしている。


「これは、これは、イェルク山の竜よ。本日はどういったご用向きで」


 着地とともに人型に変わったエルマーを、出てきた宰相が迎える。


「用は今述べた。俺の花嫁はどこにいる」


 口元に笑みを貼り付けた宰相とは対照的に、竜の目は微塵の冗談も許さない。

 鋭い殺気を前に、それでも言葉を重ねた宰相は、勇者と呼べたかもしれない。

 ……単に生命の危機に鈍かっただけかもしれないが。


「そ、そのことですが、こちらに手違いがありましたこと、お詫び申し上げねばなりません。イェルク山の竜よ」


「手違い?」


「は、はい。あなた様に捧げた娘ですが、実は国に反する罪人であることが判明いたしました。まったく我々の不徳といたしますところ。しかも不届きにも娘は、竜であるあなた様のところから逃げましたようで」


 視線がギロリと宰相を射貫く。


「逃げた、だと?」


「ええ、ですが我らが! 娘をしかと捕まえました。まったく竜の花嫁という栄誉に対し、とんでもない愚行でございます。娘はこちらで厳罰を下す所存です。つきましては改めて新しい花嫁と、お詫びとしてたくさんの供物を捧げたく、どうぞお納めくださいますよう──」


「どうやら身体ごと溶けたいらしい」


 低い声とともに、絶叫が上がったのは、エルマーを囲む兵たちからだった。


 彼らが構えた鉄の槍先が、まるで熟した柿のように赤く溶け落ちたのだ。


 グジュリと地面に落ちた形ない鉄は高熱で。

 跳ねたしずくが足にかかっただけで、かつてない激痛と一生ものの火傷が残る。


 槍が長く、身体から離れた位置に槍先があったことは、まだ幸運だと言えた。



 鉄をも一瞬で溶かす。

 しかも、なんの予備動作もなく。



 人間では抗えるはずもない力を前に、その場の全員が戦慄した。



「偽りのニオイはわかる。お前たちに出来ることは、速やかにマルティナを俺に返し、ひたすら許しを乞うことだけだ。──竜を遮るなら、国ごと滅ぶと思え」




 以前、全部で3万文字くらいと言いましたが、あれは……嘘です!!

(すみません、すみません、なぜかこんなことに!! でももう少しです)


 裏設定ですが、汗のニオイや脈動の変化も感じ取れる、ウソ発見器な竜です。


 12話は加筆の回でしたが、13話は短編のマルティナ回につながります(予定)。

 エルマーとマルティナ、再会します。引き続きよろしくお願いします(*´▽`*)/


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― 新着の感想 ―
[一言] おいおいおい(;゜Д゜) 溶ける前に消し炭になりそうな予感(;゜Д゜)
[一言] コレは教育やろなあ( ˘ω˘ )
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