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08. 婚約者候補

更新が遅れてすみません。

投稿前に見直したらがっつり修正が必要になって、大幅に修正していました。

「可愛い女の子だった……」


 自室に戻ったアウレリアは首周りを寛げながら、先ほど紹介されたクラーラの顔を思い出す。

 ふわふわした感じで、貴族の令嬢として真綿で包まれたまま、成長したような雰囲気を持っていた。


 (フリッツはああいう雰囲気の()が好きよね、私とは真逆の)


 アウレリアを姉のように慕う王太子は、一人っ子というより末っ子気質だ。甘え上手な反面、頼られるのが嬉しくて、庇護欲を掻き立てられる女の子に気持ちを持っていかれやすい。


 内面はしっかり者で、見た目が可愛らしい令嬢は好みではなく、本当に頼りないだけの女の子にフラフラとする辺りに問題がある。


 (困るよね、女性の好みに問題があるのも……)

 そう思いながら果実水を頼めば、僅かの時間を置いて頼んだ物と一緒に報告書が届けられた。王太子の視察に関する報告書と、関わった令嬢全員に対する調査書だった。一番上はクラーラだ。


 林檎の甘さと酸味を感じる水を飲みながら目を通す。

 書類は監査室からで、記録と周囲からの評価が列記されていた。

 報告書から対象者の人物像を浮かび上がらせ、要点を纏めて報告しろという指示だった。もしその中に問題のありそうな人物が混じっていた場合、合わせて指摘しなければいけない。


 二人の逢引内容が微に入り細に入るのは閉口したが、健全なお付き合いだったと知れたのは悪くない。どれほど深い関係になりたいと思っても、令嬢の名誉を汚す真似をしないのはフリッツの美徳だろう。


 クラーラの人物評は、関係者によってきっぱり真反対の二つに分かれていた。好印象と悪女というものだ。男性は皆が可愛らしくも(わきま)えていると思うのに対して、女性の場合は、男性の前だけで可愛らしく振舞うだとか、相手の身分によって態度が違い過ぎる、横柄で性格が悪いと散々な言われようだった。


 (私に対して態度が良かったのは、取り入るべきと思ったからかな?)


 さきほどのクラーラから感じたのは、大よそ男性陣の評価と同じで、可愛らしく甘え上手だが、我侭は控えめで可愛いだけの無害な雰囲気だった。


 (私を取り入るべき相手と認識していたから、好印象を与えようとしていただけだろうね、きっと。恋人を婚約者に引き上げるためには、派閥や政治的な駆け引きなど、令嬢や夫人が社交を行うだけなら知る必要のない知識も必要だけど、誰を推薦するかな……)


 滅多に王都に出てこないような辺境の伯爵令嬢のままでは、教養が足りなくて妃は務まらない。クラーラの父であるバウマン伯爵にも、娘に何が足りていないのか、全てを把握するのは難しいだろう。


 だったら判る人間が教師などを手配するのが手っ取り早い。誰を手配すれば良いのか検討するのに、白羽の矢が立ったのだ。


 逡巡の後、数人の女性の顔を思い浮かべる。

 アウレリアは推薦する人物の名前を挙げると、自分の私情が入らないように気をつけながら、クラーラに関する報告書を纏め、果実水を頼んだときと同じように侍女を呼んで手渡した。




 昼休憩が終わって職場に戻ると、粗い上に箇条書きしかない書類の清書を再開する。部屋の奥では普段以上に、フリッツが仕事に集中していた。

 逢瀬の時間が足りなければ、時間を捻出するために頑張るのだ。


「終わった!!」

「好きな方ができる前から、これくらい集中力があれば楽なのにね」

 満面の笑みを浮かべるフリッツに、アウレリアは苦笑した。


「私だってやればできる!」

「頑張らなくてもできるようになってね」

 茶々を受け流しながら、あっという間に机の上を片付け「後は任せた!」と言い置いて、元気よく退出した。


 ……まったく調子が良いのだから。

 後姿を苦笑で見送り、また書類に目を落とす。


 一刻ほど後、完成した書類を関係部署に持って行くと、そのまま声をかけられて別の場所に連れて行かれる。通された別室には王が待っていた。


「バウマン家の娘はどうだ?」

 監査室に提出した報告書が、どう使われる誰が目を通すのか、アウレリアに知る権利はない。

 だが過去の経験から宰相や両陛下が読む場合があるのは知っている。


「報告書の通りにございます。裏表が激しいようですが、一通りの教養はありそうです」

 男女によって接し方が著しく違う。自分にとって利があるかどうかでも態度が違うと書いて提出した。大体、女性の評価に沿ったものだ。


 同時に王太子妃候補に名を連ねられる可能性があるとも書いた。少なくとも今までフリッツが連れてきた令嬢の中で、唯一家柄に問題が無い。


「教育係はどうやって選んだ?」

 監査室から届けられた書類を纏めるようにと指示を受けたとき、同時にクラーラに不足する知識や、必要となる教師の推薦もするようにと指示があった。


「アルブレヒト夫人は王妃陛下の元侍女であり、王城特有の作法にも精通している上に、一定の発言力を持っていらっしゃいます。何より宮廷事情に精通した御仁です。書物では学べない事柄も多く学べるでしょう。着飾るだけでは王妃は務まらないと教えてくださいます。友人候補ですが、アッドリート公爵家は貴族の筆頭にある家であり、クリステン様自身、素晴らしい教養を持っていらっしゃいます。間近で接して学ぶ必要があるべき令嬢かと。何よりフリッツ様の御世で社交界を牽引する可能性が一番高いのはクリステン様です。お付き合いは必須です。ほかの方々も王太子妃になる可能性が残っている方々ばかりを選びました」


 王妃陛下の名でクラーラに付ける王太子妃の教育係と、交友を持つべき令嬢の名を上げた理由を述べる。


「フリッツには嫌われる人選だな」


 クラーラにとって名簿に載っている令嬢たちとのお茶会は、絶対に居心地が良くはならない。

 でも政治に関わる家の出身というだけでなく、間違いなく十年後、二十年後には社交界の中心になる令嬢たちだ。味方につけられれば頼もしい。苛められたといって短絡的に排除するのは下策だ。


「手厳しくあしらわれて泣いて帰りそうな面子だな」

 社交は男女できっぱりと分かれている。国王であっても女性の社交の勢力図を把握してはいない。とはいえ家名を見れば大体のところは察しがついたのだろう。


「地方出身には厳しい洗礼になるでしょう。王太子殿下の権力を持ってすれば簡単に排除できます。しかし将来を見越せば甘んじて受けるべきものでございます」


 新参者の田舎娘だと侮られ、王都の厳しい洗礼を受ける様が目に浮かぶ。

 しかし味方に出来ればこの上なく頼もしい相手ばかりだ。苦労は並々ならないけど、得るものは大きい筈だ。


「できれば私ではなく王妃陛下の名で茶会などを催していただければ」

 クラーラが辛いとフリッツに泣きついたときに、私の推薦した人物であれば、もっとクラーラに好意的で評価の甘い相手に人選を替えるように言ってくるだろう。

 でも王妃陛下の名前であれば、妃として必要な相手だと押し切れる。


「要するにフリッツが排除できないように、王妃の名を使うというのか」

 面白そうに笑い声を上げた。


「御意にて」

 頭を垂れて言葉を待つ。


「儂としてはお主でも構わんのだがな」

 王の口調がガラリと変わった。為政者の声から、父親であり息子の友人に向ける優しいおじさんの声だ。

 ニヤリと笑っているのが見なくても判る。


「お言葉ですが、弟分としては見られても夫としては見られません」

「即答か!」

 堪えきれず、といった感じで笑い声が上がった。


「フリッツは甘え過ぎだな。もうちょっと頼りがいのある男に成長しないと見捨てられそうだ」

 (見捨てないけど……。血は繋がってないとはいえ弟だし)


「まあ良い、この書類は視察の随行員と、王妃の侍女から上がってきたものとして処理しよう」

「お心遣いありがとうございます」


 幼い頃は「フリッツのお父様」で「優しいおじさん」でしかなかった陛下だが、今となっては威厳ある国王陛下だ。軽い口調で言葉をかけられても、王城内に居る限り、同じように軽口を叩けはしなかった。

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