プロローグ
短いですが、次話が長いので、キリの良い箇所で区切りました。
「リア、置いていかないでよ」
ベソベソと泣きながら後を突いてくるのは、乳姉弟であり主であるフリッツだ。
アウレリアから数ヶ月後に生まれた少年はとても泣き虫で、些細なことで泣いてはスカートの裾をギュッと握り締めたまま後ろをついて歩く。
とても可愛いけど、もうすぐ王子としての教育が始まるのに、いつまでも自分の後をついてまわるようではいけない。
「いい加減、自分の足だけでちゃんと立ちなさい」
厳しい言葉は弟分を思ってのこと。
たかが乳母の娘で伯爵家の娘が口にするのは不敬でも、言う必要があれば言わなくてはならない。
「でも……でもリアとはなれるのはイヤだよ」
イヤと言っても、これからは王族としての教育を受けるフリッツと、令嬢としての教育を受けるアウレリアでは、いままでのようにずっと一緒というのは難しい。
(いきなりは離れるのは難しいから、少しずつ傍にいない時間を作らないと)
幼いなりに弟分の将来を考えての行動だったが、アウレリアの姉心は通じなかったようだ。
「やだ! ぜったいにリアとはなれないもん!!」
「フリッツはしかたないなあ。りっぱな王様になれないよ?」
嫌だと言われてしがみつかれると、駄目だとわかっていても手を振りほどけない。
「リアがいないと王様になれないもん!」
そう言って、更に大きく泣き出した。
泣かれるとどうしょうもなく可愛がりたくなって、つい甘やかしてしまう。
「わかったから泣かないで。ずっといっしょにいるから」
「ほんとうに? やくそくだよ、ぜったいだからね!」
涙目のまま必死に縋るフリッツが可愛いい。
「うん、ぜったいだよ」
頭を撫でながら約束する。
アウレリア、フリッツ共に五歳の春だった。