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世界最強の結界師  作者: アーエル
第一章
6/15

6.顔より大きな腹を揺らしながら


それを知ったのは2ヶ月も過ぎてから。

ギルド長の発行した公式な文書だから誰が持っていったかは不明のままだと、国境を渡った国の冒険者ギルドで知った。

周辺各国の情勢などが集められた掲示板にそう書かれた文書があったのだ。

そのきっかけになった事件や被害者の情報は個人情報のため公表されていない。

ただギルドカードの偽造と横領が行われたこと。

それが魔物の凶禍と重なった上に混乱が起きたことから、近隣国の統括ギルドから派遣された職員が王都にたどり着いた頃には、罪を犯したギルド長と職員たちは王都から逃げ出していたらしい。

ギルドカードの偽造は年に数回起きている。

そのため僕のギルドカードが特別階級仕様で、それに付随する特権を行使してもその未解決騒動と結びつける人は誰一人いない。


「愚かだよな」

「ギルド長がギルドの金を横領して逃げたそうだぜ」

「中が空っぽだったから、建物(ギルド)を放棄したんだろ?」

「証拠隠滅か?」


事実を知らない冒険者たちは思い込みだけで話を進める。

それは裏取りがない、所謂ただの噂の域を出ない話だった。

しかし噂話ほど危険なものはない。

真実かも分からない情報がいつの間にか『真実』という名の仮面をかぶり、薄く、浅く……国境をも越えて広がっていく。


「横領がバレたギルド長が魔物の凶禍による混乱に紛れてギルドを封鎖して『所有権放棄』の貼り紙をした。そして正式に権利が放棄された建物(ギルド)と金庫に仕舞われていた統括ギルドの金を手に逃亡した」


瞬く間にそんな()()が世界中に広がった。

各国の統括ギルドによって、ギルド長が逃亡者と肩書きを変えて懸賞金がかけられ指名手配されるまでそう時間はかからなかった。

手配書に理由は公開されていないため、噂が噂を呼んでギルド長だった男を追い詰めた。

実際に横領をしていたこと。

それが統括ギルドで起きたこと。

主犯としてギルド長の名があがっているが、多数の職員たちも加担していたことが公になればギルドという存在自体も危ぶまれる。

すべての真実は闇に葬り去り、罪と責任は統括ギルドでギルド長をしていた男に背負わせる。

それが統括ギルドの代表者たちの会議によって決められた『公表されぬ真実』だった。


魔物の凶禍が落ち着くと、統括ギルドの元職員たちは次々に捕まった。

逃げ込んだダンジョンで冒険者や中には家族の手で王城に突き出されたのだ。

それでも2割の職員は逃げ延びた。

そのうちの、ほんの数人が逃げた先は……『死者の世界』。

僕の預かり知らぬうちに結界に触れて消滅していた。


「寝込みを襲ったんだ。自業自得だよ」


僕がほかの冒険者同様、無料開放地(キャンプ場)でテントを張っていたため襲撃してきたのだろう。

それも僕に対する罪が明るみになったことで、冒険者たちは真っ先に王都を捨ててダンジョンに潜った。

そのため国外へ向かう冒険者もテントを張っているのも僕ひとり。

王都に近い村ももぬけの殻だったから、無料開放地(キャンプ場)で数日泊まったんだけど……そこで襲われた、犯罪者となった職員たちに。

結界を張っているから魔物に襲われる心配はない。

僕に対する加害意識が少しでもあれば、人間も触れただけで消滅する。

消滅した職員たちに関しては、所持品も所持金もドロップアイテムとして僕のカバンに収納されている。


襲撃した相手に反撃されたことによる死亡。

それは本人の罪名を殊更重くし、遺された家族は慰謝料を支払う義務が起きる。

親が罪を犯して死に、慰謝料が支払えず遺された子が奴隷になることも少なくない。

同情されないのは、罪を犯した親は転生の()から外れて贖罪の道を辿り、奴隷になった子は親の罰を肩代わりしたということで徳がひとつあがり、来世は幸せになれる。

……そう信じられているからだ。


そして奴隷は下男や下女として働かされるものの、衣食住と給料に最低限の権利も与えられて人並みの生活を送る。

貰った給料から奴隷商に支払われた借金を返済する。

毎回の返済額に決まりはなく、完済すれば奴隷から解放される。

そのまま小間使いや召し使いとして働き続けることもできれば、市民として自由に生きることも許される。

解放後の生活のために給料の1割を貯金に残す奴隷もいる。

それが許されないのは、罪を犯した奴隷と貧困層(スラム)街に生きる一部の犯罪者たち。

奴隷制度とは更生を目的とした制度なのだ。

更生に失敗した、または更生不可能(できない)という判断が下されれば貧困層(スラム)街で監視下に置かれて死ぬまで自由はない。

奴隷たちに任せられない汚れ作業、廃棄物処理施設の有害物質の運搬から下水処理場の汚泥掃除、魔物を解体したあとの清掃。

それらを仕事とし、対価として食事と少額の賎貨か鉄貨1枚を与える。

奴隷でさえ与えられる『生きる権限』、それすら認められない彼らに回されるのは危険が伴う作業。

それでも生きるために働くか否か。

前者は貧困層(スラム)街とはいえある程度の自由で豊かな生活が認められ、後者は明日(あす)どころか数時間後の生存すら危うい日々を送る。


屋台を舞台にしよう。

前者なら一番安いものをためた鉄貨で購入できる。

賎貨しかない者も、貧困層(スラム)街と町の境界を管理する管理事務所で鉄貨と交換してもらえる。

屋台によっては最低額を賎貨で設定している飲食店もあるため、屋台主が賎貨の交換に来ることもある。

ちなみに鉄貨以上は100枚で上の貨幣にあがるが、鉄貨と賎貨の価値は国ごとに違う。

この国では賎貨20枚が鉄貨1枚に該当した。

そして後者の場合、購入するための賎貨もないため、屋台の周辺にこぼれている食材のクズを拾っては口にする。

腐っていようとかまわない。

空腹で、お腹を壊そうとも排出されるものは胃液以外何もないのだから。

何日も寝込む痛みや苦しみが待っていても、一時(いっとき)でも空腹が満たせられるならそれでもいい。

貧困層(スラム)街では貴族や国の慈善事業で炊き出しが配られるが、手に入れられるのはごく一部。

1,000人近くも住む貧困層(スラム)街に100人程度、下手したら80人分あるかないかという炊き出しで賄えると思っているのか。

……「賄える」というんだろうなぁ。

そして「してやった」と大きな顔をする、顔より大きな腹を揺らしながら。


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