第2話 ちとせの変貌
「は?」
今まで優しい雰囲気しか出してこなかったあのちとせが、恐ろしくドスの利いた低い怨嗟の声を出した。
その事実に頭の理解が追いつかない。
一方ちとせの目からは光が消え、口元はなぜか微笑んでいる。
そのちとせがこちらをじっと見据え、口を開く。
「お姉ちゃんと邦彦が付き合うために、私と政信が利用されたってことだよね?」
「そういうことだな。」
「結果として私達は浮気されたと。」
「そう。」
「で、お姉ちゃん達はそれを悪いと思ってないと。」
「悪く思ってたらあんなポンポンと悪口は出てこないだろ。」
「ふーん、お姉ちゃん達にはちょっと制裁が必要かな?」
そう言ったちとせの目がなぜか爛々と光っているので、恐る恐る聞いてみる。
「制裁って、何するつもり?」
「さすがに殺しちゃまずいから、とりあえず社会的に抹殺してやろうかしら?」
「厳しくしたいのは俺もだが、やりすぎは良くないぞ。もう少し穏便にな。」
「じゃあどうするの?」
「そうな、少なくとも学校のやつが全員こいつらは浮気してもなんとも思わないクズ野郎だ、って知ってる状況にしたいが。」
「充分ヤバいこと考えてるじゃん。」
「さすがに学校で留めてあげようとは思ってるけど。」
「そっか、じゃあ私よりはマシか。」
「自分がやばいこと言ってる自覚あるんだ。」
やっぱ恐ろしいわ。
この娘ったら、浮気したやつを(社会的に)殺そうとするみたい。
これは気をつけて対応しないと、あとあと恐ろしいことになりそう。
「取り敢えず、まずは証拠集めから動けばいいかな?」
「そうね、とりあえず音声と画像と、できれば動画も欲しいけど。」
「徹底して追い込むか。」
「じゃないと反省しないでしょ。仕方ないじゃない、二人揃って頭の中お花畑なんだから。あのクズどもには思い知らせてやるんだから。」
クズって。
姉に対して使う言葉か?
ようは、それだけ頭にきてるってことなんだろうけど。
「一応は血が繋がってる相手にクズって言っていいの?」
「いいでしょ、だって事実なんだから。」
その背後に立ち上がる黒く大きな炎。
絶対にちとせを怒らせないと神に誓う俺だった。
とにかく、二人揃って復讐という名の鉄槌を下すことに合意したので、ここからは具体的に話し合っていくことに。
「さて、どのようにして復讐してやろうか。」
「とりあえず証拠集めが先でしょ。ボイスレコーダーとカメラが必須じゃない?」
「カメラは身に着けててもバレないタイプがいいと思う。」
「じゃあ、買いに行こっか、秋葉原に。」
「なぜに秋葉原?」
「秋葉原行けば何でも揃ってるの。カメラはどうせならメガネ型を買えばいいし。」
「でも二人してメガネかけてるよね?」
「コンタクトにすれば良いでしょ。私は愚姉と同じ顔だからコンタクトにしたら騒がれそうだけど。」
「なるほど。昔コンタクトつけてたし、その案に賛成。」
「ならさっさと実行しましょ。どうせクズどもは今日は帰ってこないだろうし。」
念の為スマホを見ると。
『今日は用事があるから家にも帰れない。ごめんね、明日は一緒に学校行けないね。』
クソ女からのメッセージが届いていた。
「みたいだね。善は急げ、さっさと買いに行くか。」
その後。
電車に揺られること1時間。
「えっと、ここを曲がってこっち行って2つ目の角を右に曲がればあるみたい。」
俺たちは秋葉原に降り立ち、とある店を目指していた。
駅から歩くこと5分。
「なんというか、昭和の電気屋って感じがする。」
「ほんとね。でもここで正解だと思う。」
俺たちの目的地にあったのは、こじんまりとした電気屋さん。
中にあるのは電源タップ、メガネ、照明、ドローン……
だが、名札にはすべて〇〇型カメラと記載されていた。
そう。
ここのお店はカメラの専門店なのである。
というわけで、2話です。
取り敢えずは復讐の準備です。
3話は5月10日(火)に投稿します。