第6話 川と洗濯と温風と
イオリは動きだした当日に川を見つけた。……なんで? 今までに僕がやってきたことって、いったいなんだったんだろう。水の心配を、長期的に見ても、しなくて済むようになったのは、すごくよいことなのだけれど、素直に受け入れられない僕は、なんともまあ複雑な気持ちだった。
問題はどうやって火を起こすかだ。
さすがに、生水を飲むことには抵抗がある。これにはイオリも、すぐには妙案が浮かばなかったようで、長らく苦戦していた。……え、僕? やだな、ちょっとは考えたさ。全部、却下だったけど。
最終的には、二人の魔法を、至近距離まで近づけて使うと、火になるという仕組みを発見したので、あっさりと解決してしまった。簡単に火を扱えるようになったので、僕らの生活水準は大きく向上するだろう。
イオリにとっては、洗濯を行えるようになったのが、一番の収穫らしい。これまでにも、定期的に服を替えていたのは知っている。もちろん、僕らの荷物は高が知れているので、着替えると言っても、イオリには制服とジャージしかない。一方の僕は私服が一着あるのみだ。
この世界の特徴なのか、あまり服が汚れないので、僕は気にしていなかったのだけれど、これからは頻繁に洗濯するということらしい。洗うのはイオリの担当だ。もちろん、僕に衣類を触らせないためだよ。……ということは、乾かすのは自然と僕の担当になる。それは僕が温風を操れることからも、合理的な判断と言えたが、乾かしている最中は、衣類を絶対に見るなとのお達しだ。魔法の操作がうまいイオリと違って、僕は温風を遠隔で使うことなんてできない。ために、僕は死に物狂いで、魔法の練習をさせられるのだった。
「そんなに着替えなくてもいいんじゃない? 気分の問題なんでしょう?」
どれだけ修行をしても、僕の魔法技術は全然上達しない。ために、嘆くように言ってみれば、イオリが無表情な顔を僕へと向ける。
「アウトって、デリカシーがないよね」
……ついでに、着替える服もないよ。
まさか、そんな僕の冗談が、通じたわけではないのだろうけれど、いつの間にか、イオリは自分で着替えを作っていた。手先が器用なのだろう。
蔓と葉とが主たる材料のようだったが、中には丈夫な木の繊維も見える。どうやってそんなものを手に入れたのかと、僕が不思議がっていれば、光の魔法を集約して切断したとのことだ。そんなことができるなんて驚きである。いよいよ本当に、僕が要らない子となる日も近いだろう。僕は必死で魔法の練習をやった。
その頑張りが、認められたわけではないのだろうけれど、遠隔でも、難なく温風を扱えるようになった頃に、僕はイオリからお手製の着替えをもらった。洗濯している間、いつも服がなくては不便だろうと、そういう気遣いからだった。
「ありがとう!」
そううれしがって僕がさっそく着てみれば、粗雑な作りのようで、やたらと体中が痛かった。棘でもあるんだろうか。……ねえ、イオリ。明らかに僕のだけ手を抜いていない? いいけどさ、別に。
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