追いかけていたのは君だった ~僕とアイドルちゃんのたまご~
だいぶ攻めた話のつもり……です。
R-15、残酷な描写については、保険です。
それでは、どうぞ。
『貴方がライブに来てくれる事を、楽しみにしています』
この手紙の送り主は、生放送配信サイトである『we ARE START』で活動している、アイドルのあの子からだ。
――これが、まさかの悲劇と惨劇の訪れになるとは思わなかった。
▪▪▪
僕の名前は、朱槻心。
極々普通の高校生。
趣味は、『we ARE START』でアイドルのたまごを観ること。
で、その日。
気になる子を見つけた。
その子の名前は、三ツ葉さおり。
さおりちゃんは、この日が初めての生放送だった。
「………うーん、やっぱり人が来ないですね……」
その生放送へ入ってみると、彼女が小声でそう言った。
「あれぇ?誰か来てくれたみたいですね。……こんばんは!来てくれてありがとっ!」
僕が入ったのを気がついてくれたのか、彼女がそう言った。
『初めまして。気になったので、来ちゃいました。』
僕がチャットでそう言うと、さおりちゃんがニッコリと笑顔を見せた。
「わぁ!ありがとうございますっ!!」
それから、少し話をしながら時間が過ぎていった。
「あれれ、もう放送終了のお時間ですね。ココロさん、ありがとうございました。」
1時間後、そう放送を切り上げた。
(………あの子、きっと成長する。)
さおりちゃんは、顔も性格も良い。歌も、上手かった。
……だからこそ、僕はそう確信した。
▪▪▪
それから、さおりちゃんの放送はなるべく観るようにはした。
少なからず、生放送を観る人が増えていった。
で、ここ最近。彼女が、僕のアカウントをフォローしたんだよね。
『we ARE START』のアカウントをフォローすると、お互いに個別チャットが出来るんだ。
何人か、アイドルちゃんにフォローされている。
そこまでは良かったんだ。
ある日の事、彼女から一通のチャットが来た。
『私、最近ね……視聴者さんから、誹謗中傷の発言があって。落ち込んでいるんだ。』
……僕が出来ること、それは。
『僕は、君の初めてのファンだ。何があろうとも、味方だよ。』
数分後、彼女から返信が来た。
『……ココロさん、見てくれてありがとう。』
▪▪▪
それから、だ。
その子から手紙が送られて来たんだ。
その時の内容は
『ずっと、観てくれますか?』
との一言だけだった。
―――どうして、さおりちゃんが僕の住所を知っているのか。
内容も内容で怖いんだけど、真っ先に思い浮かんだのはそれだ。
流石に怖くなったので、最初は親に伝えた。
「警察に、言ってみたら良いんじゃないか?イタズラにしても度が過ぎているしな。」
そりゃ、そうだよね。
で、その日のうちに警察へ届けようとした。
「一通だけでしたら、動けませんね。ある程度来たら、もう一回こちらの方へ来てください。」
そう、伝えられた。
動いてくれないのか、と傷心のまま家へ帰る。
そうしたらまた、彼女からの手紙が来ていた。
―――そう、それがあの手紙。それだったのだ。
▪▪▪
そのライブは、翌日の事だった。
浮かない顔をしながら、学校へ向かうと友人が話しかけた。
その友人も、僕と同じ趣味だったから……さおりちゃんの事を聞いてみた。
「あー、その子な。今日、学校の近くの劇場でライブするって話だよ。俺も行こうとしていたんだが、心も来るのか。」
僕は生返事をした。
「てか、その子さ。昨日の『we ARE START』の配信で、最初の配信から観ている人が、最近観てくれないって話をしてたぞ。……それって、お前の事じゃないのか?」
「……どうして、それを?」
「そのさおりって子、近くの別の高校の子でさ。……俺に、心の事を執拗に聞いていたんだ。もちろん、言わなかったが……」
それを聞いた瞬間、背筋が凍るのが分かった。
――そして、真相を突き止める為、あのライブに行くしかないのか。
▪▪▪
その日の夕方。
劇場へやって来た。
思いの外、繁盛している。
それから、ライブが始まったのだが……気になったこと。
彼女、俺の事を見ようとしないのだ。
……でも、気の迷いなのかも知れない。
そう思っているうちに、そのライブは終わった。
そして、その劇場を出た時。
劇場の関係者入り口付近で、警察官が何人か居た。
それに、出入り禁止のテープが張ってある。
「……ねえ、あそこの楽屋でアイドルが自殺したらしいよぅ。」
見物人の一人が、そう言った。
「おっかないわねぇ……」
もう一人が、そう応える。
――薄気味悪い。
そう思った僕は、そそくさとその場を去った。
で、家へ帰った時。
郵便受けに、手紙があるのを見つけた。
……あの子の名前だ。
急いで、部屋へ入って封を恐る恐る開けてみた。
その手紙には、こう書かれていた。
『拝啓 ココロ様へ
この手紙がきた頃には
私はこの世に居ない、と
思いますの
私は、貴方に振り向いて
良い姿を見せたかった
のに、振り向いて貰えなかった
……だからこそ、自ら命を絶って
貴方に、一生
自分のモノになりたいか……ら……』
その手紙に、封入してあったのは。
あの子の、薬指が入っていた。
『………ゼェッタイニ、ミウシ、ナイデ、ネ』
読んで頂き、ありがとうございました。