始まりは噂話から
――ねぇ、あなたはもう聞いたかしら。孤児の少女と、ある貴族のご子息さまとの素敵なお話を。
あるお屋敷で歌声の綺麗だったお嬢様が亡くなられました。家族にとって、それはもう深い悲しみに包まれた。ご子息である兄は、再び屋敷に明るさを取り戻したいと願い、同じ年頃の少女を探しはじめたの。
花びらが舞うような愛らしい笑顔と、周りを明るくするあの歌声。幸せそうに歌うその笑顔で、聴いている人の心をも幸せにする。
あの歌声を、もう一度取り戻したい。
探して探して、探して――。ついにご子息様の目に止まったのがまさにこの街、広場で歌っていた身寄りのない少女だった。
彼は孤児院へ何度も会いに行き、やがて少女を屋敷に連れて帰った。
みんなも喜ぶと思われましたが、父親は怒りました。ご子息様はゆくゆくは良家のご令嬢と結婚するのですから、家もわからない少女を連れてくるなど!。ご主人様が快く思わないのも当然だった。しかも生前も妹をとても大切にしていたご子息様は、連れて来た少女を同じように接し大切にするならなおさら。
これではいい縁談も寄り付かない。ご主人様は少女を部屋に閉じ込め、ご子息様のことはしばらく留学という体で屋敷から出し、二人を離れさせた。
その別れる前夜、ご子息様は少女に“必ず、戻るから。それまで待っていてくれ”と交わしたそうよ。いつかまた会えるその日まで、手紙のやり取りをして……。




