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4章 そんなもん関係あるか!(1)

第22話 ウチは教えるの上手いらしい

★★★(テスカ)



 もうすぐテストや。


 ウチらの寺子屋では年5回テストがあって、その総合点次第でさらに上の学校への推薦が決まったりする。

 無論、そんな子はざらにはおらん。

 ヒカリさんは十分射程範囲内や思うけど、ウチはどうかな?

 国語、算術、理科、国土、国史の5教科で、毎回490点以上取るのが目安、なんて言うてるのを聞いたことあるけど。


 ウチやと相当頑張らんとそこに到達できへんわー。

 ウチ、調子よい時で490点がギリギリのラインやからな。


 上の学校って奴に興味はあるんやけど、ウチみたいな一般家庭、推薦でも取らん限り、そんなところに進学は無理やもん。

 ヒカリさんはどうなんかな?


 ヒカリさんは推薦狙える上に、お家もお金持ちやし。

 色んな意味で射程範囲内や。


 行きはるんやろうか?


 もしそうなら、ウチも一緒に通いたい。


 別に、好きな人やから一緒に居たい、ってことだけやなしに。


 ウチな、最近思うねん。


 寺子屋でやってる勉強っていうものは、この世界の真理に近づくための道標なんやないかな、って。


 成績上げるためにガリガリ勉強してるときに、ふと気づいたんや。


 よく「寺子屋での勉強なんて社会で役に立たない」って言われてるけど。

 そんなところに寺子屋の勉強の神髄があるんちゃうと思う。


 最終目的は「空の彼方にある、世界の真理」に手を伸ばす事。

 寺子屋の勉強はそのための初歩の初歩なんや。


 多分ヒカリさんはその真理に手を伸ばしたら届く位置まで登れるお人や思う。

 ウチもその位置に行きたいんやけどなぁ。


 真理に手を触れることが出来る人間から見える景色って、どんなもんなんやろうね?




 そんなことを寺子屋で、休み時間にヒカリさんと話していたら。


「ヒカリちゃん。あとテスカさん」


 お金持ちのお嬢さん……確かヨシミさん……が話しかけて来た。

 別のクラスやのに何の用なん?


「どないしたんですかヨシミさん」


 ウチが訊いたら、傍に控えてたお付きの使用人のクローバさんが


「お嬢様はおふたりに折り入ってご相談があるのです」


 ……相談?



「国土と国史の勉強を見て欲しい?」


「国土と国史だけヤヴァイの」


 ヨシミさんはそう言ってウチらに頼み込んできた。


 そらまー、ヒカリさんは成績1番やし。ウチかて2番やからな。

 勉強はできるわけやけど……


「家庭教師つければいいんと違うの?」


「父の方針で、男の家庭教師は付けないことになってて」


 よさげな家庭教師、男性ばかりなのよ、とヨシミさん。


 そーゆーことかいな。


 ようはお父上が「娘が家庭教師と言う名のケダモノと二人きりになる状況は許容できん」と。

 そういうわけなんやね?


 ええところの家も色々大変なんやなぁ。


「私が教えて差し上げても良いのですが、人に教えられるほどのものかと申しますと、疑問符が付きますので……」


 と、クローバさん。


 なるほど。分かりました。


 けど……


 ウチはええんやけどね。他人に教える過程でウチも復習できるしな。

 ヒカリさんはどうなんやろう……。


 ちらり、と様子を伺ったら


「良いけど、条件があるわ」


 人差し指を1本、立てて言いはったわ。


「アイスだいふくを1つずつ奢って」




 ひょっとして、ウチがアイスだいふくが大好きなのを覚えててくれはったんかなぁ?

 ヒカリさんが交換条件にアイスだいふくを提示してくれはったの。


 こないだお泊まりに行ったとき、お風呂上りにアイスの話をして。

 ウチが一番好きなのがアイスだいふくやと言うたんよ。


 アイスだいふく、それなりに高級菓子や。

 ひとつ300円もするさかいに。

 大好きなんやけど。


 誕生日に2つほど買うてもろて、お祝いで食べさせてもらうのが普通。

 気軽に毎日食べられるお菓子ちゃうからなー。


 その日、布団の中で今日の事を考えながら。

 ウチは、ヨシミさんにどう教えようかを色々と考え巡らせてた。


 お礼を要求する以上、手ェは抜かれへんもんね。




 そして当日。


 ウチはヒカリさんと一緒に、ヨシミさんの家にお伺いをしたんや。


 ……さすが大店の家や。


 立派な、お屋敷やったわ。



★★★(ヨシミ)



 今日は新しいお客さんが来る。

 ちょっと前に知り合った女の子だ。


 あのときはウチの使用人が失礼な真似をして、悲しい思いをさせてしまったけど。

 彼女はその事を許してくれた。


 そんな、優しい子。


「お邪魔します~」


「お邪魔します~」


 ヒカリちゃんと一緒にやって来たその子。

 テスカ・トリポカさん。


 小柄で、髪の短い女の子。


 テスカさんはウチの家が珍しいみたいで、見回してた。


「さすが大店のお屋敷……」


 そんなことを言っていた。

 まあ、私としてもお父ちゃんがヒカリちゃんのお母さんのお陰で商売当てるまでは、こんな家に住むことになるとは思ってなかったんだけどね。


「いらっしゃい。早速約束のアイスだいふくを……」


 言って、食卓に案内しようとしたら。


「待ってください。まだ約束を果たしてませんよ」


 ……テスカさんに言われてしまった。


 真面目な子なんだろうか?

 勉強を教えていないのに、報酬は受け取れないと。


 そう言いたいらしい。


 うーん。

 真面目なのは良いと思うけどね。


 アイスだいふく、ほっとくと溶けるお菓子なんだけどなぁ……


「アイスだいふくは作るの、保存するのが手間だから、アイスだいふくの都合に合わせた方が良いよ」


 そう思っていたら、そっとヒカリさんが助け舟を出してくれた。

 作ってから溶けないように保存しなきゃいけないし。

 そのための時間は短い方がいい。


 こっちはヒカリさん、テスカさんが来る時間に合わせて、アイスだいふくが出来るように調整して手配してたから、ヒカリさんの気遣いは嬉しかった。


 そう言われて、テスカさん


「なるほど……分かりました」


 納得してくれた。



★★★(テスカ)



 報酬前払いか……


 それ、ウチとしてはキツイねんけど、事情説明されたら受けざるを得えへんよなぁ。


 確かにアイスだいふくは溶けるもんな。

 その辺、全然気にしてなかったわ。


 いつもは、フラワーガーデンのお店に行って、アイスだいふくを注文して、出てくるのを待つだけやったもん。

 その辺の感覚があれへんかった。


 ……でも、そうすると。


 アイスだいふくって、すごいお菓子なんやね。

 それを考案したヒカリさんのお母上のクミ・ヤマモトってすごい人なんやなぁ。


 テーブルに案内されて、席を勧められて。


 席について待ってたら、1人1つずつ。

 ヨシミさんの分を合わせて、計3つのアイスだいふくが出て来た。


 ウチの大好きなお菓子。


 大福餅と冷たいアイスの食感が最高なんや、


 確か、大福餅の方もアイスだいふく用に色々工夫してるんやったかな。


 フラワーガーデンの看板商品。


 やっぱり最高や。


 十分堪能させていただいて、熱い渋茶もいただいて。

 感無量。


 さて……


「ごちそうさまでした。ほな、勉強を開始しましょか」


 お礼を先に貰ってしもたからね。

 絶対に、国土と国史のヨシミさんの成績を上げやんと。




「漁業は海辺の町で無ければ盛んにはならないですし、戦争もいきなりは起きないんですよ」


 ウチらはヨシミさんが苦手やいう国土と国史についてそう解説した。


 覚える内容に理由があるんや。

 そう言う風に、関連付けて覚えるのがコツなんやね。


 国土はゴール王国の土地と産業に関する教科で。

 国史は国の歴史に関する教科やね。


 2つとも暗記科目やけど、覚える内容はな、別に単語の羅列ちゃうからな。

 ちゃんと意味を理解して覚えて行けば、暗記するのはそんなに難しない。


「乱はその戦乱で体制が何も変わらなかったときに。変は変わったときにつける言葉です。そう言う風に理解して覚えるのが大切なんです」


 何の意味も理由もない言葉をただ沢山覚えるのはそら大変やわ。

 そうやないようにするのが、この科目の攻略の糸口やね。


『……アンタ教えるの上手いね』


 ウチとヒカリさんしか見えてへんけど。


 テツコのやつがヒカリさんの身体から出て来て。


 ウチの事を褒めてくれた。


『アタシの相方も勉強を教えるの上手かったよ』


 懐かしそうに、そう、言いながら。

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