第51話 私は貴方を祝福します。
「今僕達の事態がハッキリした!」
そう言って王様が話し出した。
「僕達のゼロガーデンが複製の力で複製されてそこでギフテッド、テッドが生み出された。その先で僕達の世界は無残に壊された。チトセの見せてくれた世界。あの腐った空気の中で無残に散った命。
僕はそれを許さない!僕達の無念を僕たちの手で晴らしたい!」
王様が皆に向かって言うと皆が「当然だ!」「やろう!」と言ってくれる。
「だがチトセの心配ももっともだ、僕達がサードに乗り込むとその隙に除き変態趣味の神がガーデンの破壊に赴くのかもしれない」
「大丈夫、私が頑張るよ」と言ったのだが王様は私を見ない。
え?無視?何で?
こっち見なさいよ!
「だから僕達の中から1人だけサードに送り込む事にした」
え?誰?誰を送るつもり?ツネノリ?
私はツネノリの顔を見るとツネノリも驚いた顔で首を横に振る。
「さあ、来てくれ!」
そう言って王様の前に突然現れたのは…
「テッド…?」
「チィト」
テッドは私を見て嬉しそうに微笑む。
「あんた…何でゼロに居るの?え?サードで黒い王様に貫かれたって…」
私は思わずテッドに駆け寄る。
目の前のプラスタは以前とは違って私を見ても嫌悪感も怒りも出さずに優しく微笑む。
「チィト、ありがとう」
そう言って私に抱き着く。
「ふぇぇぇぇっ!?テッド?」
突然抱き着かれた私は驚き、後ろの皆からはどよめきが起こる。
「チィトが地球の神に相談をしてくれたおかげで死の間際に助けられた。そして尽きかけた命はチィトのくれた「神の力」で保っている。今俺がここに居るのはチィトのおかげだ。ありがとう」
「テッド…、それで助かったんだね。良かったよ」
王様に渡しておいた「神の力」は地球の神の提案でテッドの命にされていた。
後ろからビリンさん達のブーイングが聞こえるが今は幸せになる為に産まれてきたプラスタが使い捨てられずにここに居る事がとにかく嬉しい。
「テッド、僕に感謝は?」
「ああ、貴方にも感謝をしている」
「え?王様何かしたの?」
「地球の神様に頼まれてチトセがサードに行く直前からずっと内緒で同時進行だよ。0と1の間でテッドを保護して「神の力」を渡して命の代わりにして、地球の神様と事情を説明して。そして聞けばもう一人の僕に殺されたって言うから痛めつ…鍛えなおしていたんだから」
「そうなんだ…ありがとう…って私が聞いた時に知っていたって事!?」
「どういたしまして。まあ、秘密にしたのは地球の神様のお願いだったからね。でも流石に大変だったよ。ゼロガーデンの管理、防衛。0と1の間でテッドを殺さないように鍛えなおして、トキタマが呼ぶからチトセを助けるために次元に切れ目を入れて、それで世界中からまた皆を神殿に集めて事情を説明してさぁ…」
…マズい。
王様の方が私よりも同時進行は凄いかもしれない。
テッドは私から離れると皆を見てお辞儀をする。
「俺は生まれたばかりで何が何だかわからない。でも今はこの状況を作った超神を倒したいと思っている。だからサルディニスに戻って俺が超神を探す事を許してほしい。
後、俺の為に皆を巻き込んでしまって申し訳ないと思っている」
「謝んな、謝るなら俺のチトセに抱き着いた事を謝れ!」なんて声も聞こえたがみんなテッドに気にするなと声をかける。
私はもう一度テッドを見る。
「チィト」
「テッド、ギフテッド、テッド。貴方はプラスタです。幸せになる為に産まれてきました。貴方は幸せになる権利があります。あなたの幸せを見つけて。そして幸せになってください。私は貴方を祝福します」
私は思いのままを伝える。
ギフテッドなんて本人は望んで居ないだろう。
でもそれでもテッドはプラスタなのだ。幸せになって貰いたい。
「ありがとう、女神チィト。だが俺は女神チィトよりさっきまでの話し方の方に好感が持てるのだが…、それに今までの姿も0と1の間で見せて貰った。真剣な眼差しも言葉も全て女神のそれよりも今の方が良いと思うぞ」
「ぐっ…、折角女神として決めたのに…。恥ずかしいのにやってんだからありがとうとか言いなさいよ!」
「チトセに女神は無理があるって話だよね。チトセ、出来ないんだから無理しない方が良いよ?」
「ちょっとキョロ、チトセちゃんを悪く言わないの!」
「千歳さん!千歳さんは俺達の女神ですよ!自信を持ってください!!」
「そうだな、普段の千歳も十分に女神だな」
「チトセさん!今の姿も素敵だよ!!」
「そうだよな、チトセの女神姿も初めて見たけど良かったよな」
「ふむ、娘の晴れ姿を見れるとは思っていなかったが悪くない」
「ああ、俺達の娘は凄いんだよな」
「千歳、良かったわよ」
「千歳、普段のあの感じとはギャップが激しいな」
「ツネノリ様!しー…、後で怒られますよ!」
まったく外野が煩い!
「外野!うっさい!!」
「ははははは、チィトの周りは素敵な人たちだ」
「え?テッドが笑った…」
私はとても驚いてしまった。
「そうだな、一度死んで心が生まれたのかもしれないな」
その後、テッドはお父さん達の所に最初に行って「チィトのご両親…初めましてテッドです」と自己紹介をして私に助けられたと感謝をした。
そしてツネノリを見て「貴方のライトソードとエレメントソードを授かった。ありがとう」と言う。
ツネノリも「いや、その力で頑張って生きてくれ」と言う。
テッドはその後でマリオンさんの前に行って「バトルマスターと赤いライトソードはあなたと聞いた。ありがとう」とお礼を言う。
「いいよ、私の経験がアンタを生かすんだったら素敵な事だよ。その力で幸せになりなよ!」とマリオンさんが優しく言う。
最後にビリンさんに瞬間移動のお礼を言いに行ったら「お前、俺の女に抱き着くな」と言っていて「チィトのパートナーか?」とテッドは聞くしビリンさんは「おうよ」と言った所で皆が殺到して大騒ぎになる。
「チィトは無節操なのか?」
「違うわよバカ!!」
そしてこの先の話を少しだけした。
「テッド、君はまたサードに行ってクエストをしながら世界を回って怪しいポイントを見つけたらチトセを呼ぶんだ」
「え?私は?」
「チトセはお休みだよ。コピーガーデンで力を使いすぎてる。今日は一日寝るんだ」
「えぇぇぇぇ?何それ?」
ゴネる私にアニスさん達が「それならチトセさん、この後相談に乗ってくれ」と言われて私は一日休みになってしまう。
「テッド、最短で3日、チトセはサードに行かない。それはいいね?」
「わかった」
「チトセ、今から一瞬だけテッドをサードに送り届けて仲間に事情を話すんだ。そしてテッドに装備を与えるんだ」
「はいはい。おっけー」
なんか私のサードなのに私が蚊帳の外で面白くない。
ついつい雑な返事になる。
「チィト…一回休みになったからってその態度は子供じみていないか?女神として恥ずかしくないのか?」
「テッドうっさい!」
このやり取りで皆が笑う。
…なんか私の立ち位置が違う気がするんですけど?
そんな私はテッドを連れてサードに行く。
行く前にちょっと離れた所で自動翻訳をオンにしてテッドに「私は今から女神の話し方になります。変な発言は控えてくださいね」と釘を刺す。
「わかった。だがやはり変だな」
「失礼な発言は控えてくださいね(煩い!黙りなさいよ!)」
「あ」
「何ですか?何かありましたか?(何!?まだ何かあるの?)」
「チィトは千歳と言うのだな。その名前もチィトより素敵だと思う」
「あ…ありがとう」
教会では地球の神様から連絡を貰っていた戦神がネイとオプト、リリオを呼んで私を待っていた。
「テッドォォォ!!生きてた。良かったよテッド!」
テッドに飛びついて泣きじゃくるリリオ。
落ち着いた所で皆に経緯を説明する。
戦神は先に地球の神様から説明を受けていたようで黙って聞いてくれている。
「複製された始まりの地で生まれたプラスタ…」
「テッドさんはそんな経緯があったんですね、そして死の淵で助けられて始まりの地で助かったんですね。凄いです」
「テッドには女神の使いとしてこれからも仕事を頼むことになりました。
オプト、済みませんがこれからもテッドと戦神をよろしくお願いしますね」
「はい!お任せくださいチィト様!」
「ネイ、教会としてもテッドをバックアップして」
「わかりましたチィト様」
そしてテッドの方を向く。
テッドには未だにリリオが抱き着いて泣いている。
「テッド」
「チィト、こんな格好で済まない」
「いえ、これを使ってください」
そう言って私は剣と盾、それに軽装の鎧を授ける。
「これは?」
「始まりの地で奇跡の少女が身に着けた装備と同じものです。彼女の経験が宿ったあなたなら間違いなく使いこなせるでしょう。祝福の使いすぎに注意してこの装備も使ってくださいね」
「ありがとう」と言って装備を受け取ったテッドを見てから戦神に向かう。
「戦神、ごめんなさい。またあなたに頼ってしまいます」
「構わぬさ、千歳よ。しっかり休めて来い。だが抱え込み過ぎるな。仕方のない命もある。神になるお前もいいのかもしれないが私は半神半人で生きる千歳が好きだぞ」
「…ありがとう戦神。お見通しなのね」
「ああ、私以外の皆も全員だと思うぞ」
「それは困りました」
そう言って私はゼロガーデンに帰る。
「やっと帰ってきた」
私を待っていた王様は顔を見るなりそう言った。
「門限に遅れた娘に説教するオヤジみたいな事を言わないでよ」
私が返すと遠くでお父さんが「俺は言ったことが無いぞ!!」と言ってくる。
うん、お父さんは言わないな。
「まあ、今できる事はやったんだからチトセはゆっくり休みなよ」
「そうするよ」
「皆と話したけど外の事は今の所地球の神がサードや他のガーデンに異変があってもおかしいって思わないで済むようにしてくれているってさ」
「あ、それ助かるかも」
「それとねチトセ」
「何?」
そう言う私の傍に王様の顔が来る。
さっきキスをした顔を思い出して私は慌ててしまう。
「僕は君を神にしない。それはここに居る皆の総意だ」
王様はそう言うと皆を連れて帰って行ってしまった。
…バレてるなぁ…。
まあ、その時が来たら誰にも私を止められないからなるようになるだろう。
ひとまず家に帰ってからアニスさん達と相談をした。
アニスさん達の相談は私と全く同じで助かった。