第488話 ビリンさんは自分で気にするほど落ちこぼれなんかじゃないよ。
「それではおやすみなさいませ。良い夢をご覧ください」と言って女将さんが部屋から出て行ったのがわかる。
ビリンさんが立ち尽くす私に「大丈夫だよ。変な事しねぇから」と言って布団に入っていく。
「うん。ありがとう」私はそう言って別々に布団に入ったがすぐにビリンさんの布団に入る。
「うぇ?」
「さっきの気になる話だよ。少しそのままね。神如き力…」
私はビリンさんの事を詳しく知る為に力を使って覗く。
成る程、そういう事か…。
「どうしたんだ?」
「ビリンさんの勘の良さが気になったのよ。
王様に似ているのに授かったアーティファクトにS級が無いから変だなって思ったの」
「へ?」
「王様と丸被りしてるから仕方なく「瞬きの指輪」と「強靭の腕輪」なんだってさ」
「え?」
「王様のアーティファクトは一点もののS級ばかりでしょ?
王様が生きているからと言うか箱庭に戻されていないから「瞬きの靴」も「万能の鎧」もビリンさんの所に行かなかったの。
代わりが何であの2つなのかは微妙にわかんないや。
「時のタマゴ」にしてもトキタマ君が別の「時のタマゴ」と浮気するなって力を使ったから箱庭でもビリンさんの手元に来ないようになっていたんだってさ」
私は見てきた情報を伝える。
「え?」
「だから、ビリンさんにはS級を授かれる才能があったのに王様が居るから授かれなかったのよ」
「嘘だろ?俺が?」
「本当、だから王様の子供の中でS級を授かれる可能性があったのはビリンさんだけなのかもよ。ヤグルさんはフィルさんが「紫水晶の盾」を装備しているから箱庭にあれば授かれるかも知れないけどね」
その言葉でビリンさんが嬉しそうに「俺が…」「S級?」「嘘だろ?」「本当なのか…」と声を出す。
多分コンプレックスだったのだろう。
「仕方ないなぁ」
「へ?」
私はビリンさんを抱きしめる。
浴衣なので恥ずかしいがまあ特別だ。
胸元にビリンさんの頭がくる。
「ち…チトセ?」
「こら、くすぐったいから暴れないの。
良かったね。ビリンさんは自分で気にするほど落ちこぼれなんかじゃないよ」
多分、今この人に必要な言葉はこれだ。
きっとA級ばかりを授かった兄や姉に負い目があったのだろう。
でもそんな事は無い。
「…おう。ありがとう」
暫くこうしていたが恥ずかしくなったので手を離して「手」と言うとビリンさんが「左?右?」と聞いてくる。
「好きなのは右。でも布団は左だよ」と言うとビリンさんが私を抱きかかえて右側にしてくれる。
「ありがとう」
「いや、お安い御用だ」
そのまま私はビリンさんの胸の中で夜の闇と静けさを感じながら話をする。
時間が無限にある気がする。ずっとこうしていられると思うと心が安らぐ。
「今度の修行さぁ、追体験なんてどう?」
「俺に出来るかな?」
「最初は手を引いてあげるよ」
「助かる。それで何を体験するんだ?」
「王様の戦い。リーンさんやフィルさん、ジチさんがどんな思いで王様と一緒に戦ったのかを見るの」
「えぇぇぇ?」
ビリンさんの嫌そうな声。
「嫌?」
「チトセとなら何処でもいいけど父さんのはなぁ、何となくもにょもにょする」
「じゃあウチのお父さんとルルお母さんの冒険でもいいよ」
「え?チトセは嫌じゃ無いのか?」
「嫌じゃないよ。ウチの本棚にルルお母さんがツネノリのために書いた冒険の本があるんだよ」
「嘘だろ?」
「本当だよ。今度読んでみなよ」
「ん、そうしてみる」
「じゃあガクさんとアーイさんの追体験にする?」
「ああ、あの2人なら安心して見れそ…」
だがそこで一個思い出す。
「あ、ダメだ。途中で王様が暴れるんだよねアレ」
「え?何やるの父さん」
「じゃあ少しだけお裾分けしてあげる。私は昔王様から「革命の剣」について教えてもらった時に感化されちゃってさ。王様が暴れた時を追体験に近い形で見ちゃったんだよね。目を閉じて」
「おう。こうか?」
ビリンさんが素直に目を閉じて私を待つ。




