第487話 ははっ…ははは…お見通しかよ…
私達はお風呂に入ると別々なのをいい事に壁向こうに向かって好き勝手に話す。
「またよそ行き〜」
「悪い」
「いいけどさ〜。少しは肩肘張るのやめなよね〜」
「肩肘張ってないから大丈夫だよ」
確かにビリンさんの声に無理とかは感じない。
「どう?」
「凄いなここ、タツキアのおじさん達がムキになるのわかったよ」
「もう、余計な事をして」
「悪い」
「ここは建材から何から拘ってるんだよ?」
「そんな感じするよ」
「お風呂出たら散歩する?景色が綺麗なんだよ」
「チトセと居れれば何処もサイコーだけどな」
本当に恥ずかしげもなくそう言う事を言うので私はいつもの通り「ビリンさんの癖に」とだけ言う。
「酷え。じゃあ景色は明日にして部屋から見える景色も綺麗だったからソレを見ていたい」
「うん。いいよ」
「チトセ」
「なに?」
「お疲れ様。いつもありがとう。今度はいつも頑張るチトセの為に俺が稼ぐからな」
「ありがとう。でもお肉御殿にエテにってビリンさんの奢りご飯ばかりになっちゃうよ?」
「いいだろ?」
優しくビリンさんが甘えておけと言う感じで言う。
「むぅ…ビリンさんの癖に」
「酷え」
そう言って笑いながらお風呂を後にする。
今日の浴衣は綺麗な紅色だった。
珍しく髪をアップにして出るとビリンさんが着替えを落とす。
そんなビリンさんは深緑色の浴衣だった。
そういえば男物の浴衣も増やしたような話を聞いたなぁ。
「服、落としたよ?」
「うぇ?やばっ」
「どうしたの?」
「綺麗過ぎて見惚れた」
ビリンさんが真っ赤になって言う。
「ばか、照れるだろ」
「ごめん」
部屋に戻ると氷入りのほうじ茶と緑茶が置いてあってとても美味しかった。
そのまま日暮れまでお茶を飲んで他愛のない話をしながら景色を眺める。
その日の夕飯を私は忘れない。
「うわぁぁ〜、牛串だよ!どうしよう!お肉御殿より美味しいよ!」
「本当だ…凄いな。料理長さんが命がけってのも納得だな」
「うわっ!焼豚がトロトロだよ!センターシティの焼豚よりトロトロだよ!
「チトセ、肉の顔になってるぞ」
「だって美味しいんだよ!我慢できないよ!」
「そりゃあ良かった。次が来るぞ」
ん?
本当に焼き鳥の盛り合わせが来る。
「あれ?何でわかんの?匂い?」
「んにゃ。昔父さんも勘がいいって言われていたらしいけど似たのかもな」
ビリンさんは焼き鳥を食べながら普通に答える。
それがまた気になる。
「ビリンさん、寝る前に時間頂戴ね」
「はぁ?」
「気になったのよ」
「何だそれ?」
「いいから、今はお肉食べようよ」
「おう」
お肉に舌鼓を打ちまくって幸せいっぱいになる。
ビリンさんが食後のお茶を淹れにきてくれた女将さんに「このクオリティでこの量だと採算取れるんですか?」とか聞いている。
「いえ、エテは高いですが採算は度外視するように言われております。
お客様に非日常をお贈りするのが目的なのでお気になさらないでください」
「神様達ってすげぇのな」
「はい」
そして寝る前にもう一度ビリンさんとお風呂に行く。
「チトセ!星見えるか?」
「女湯からも見えるよ。ビリンさん、流れ星にお願い事をするんだよ」
「なにそれ?」
「日本のおまじない。流れ星に願いを言うと叶うんだよ」
「俺はなぁ…ああ、チトセとずっと居たいとかかな」
「それ、星に願うような事なの?自分の力で何とかしなさいよ」
私が呆れながら言う。
「うぇ、じゃあチトセの幸せくらいしか願い事がないや」
「まったく。じゃあ私はビリンさんの幸せを願ってあげるわよ」
「あんがとな」
「どういたしまして」
お風呂を出ると布団が敷いてあった。
人一人分だけ離して敷かれた布団になんだかなぁと言う気持ちになると女将さんが「代行様、聖母様、勇者様、神様と女神様にご確認させていただきました」と襖越しに伝えてくる。
「あは…あはは…はは…
布団までお父さんとお母さんとツネノリと東さんにジョマの許可制なのね…」
「俺、信用ねぇのかな?」
ビリンさんが引き気味に言う。
「違う!これは絶対に「千歳はああ見えて流されやすい性格だからこれくらいしないと…」とかお母さん辺りが言ってる気がするよ!」
「うぇ…チアキさんの考えなの?」
ビリンさんはお母さんの名前を聞いて何も言えなくなる。
お母さんは普段からの物腰で皆を黙らせるからこういう時に困る。
「ムカ!大丈夫だから布団くっつけよう。変なこと起きないもん!」
私がムキになって布団をビリンさんの隣にくっ付ける。
「はい。皆様そこまで想定されていました。女神様が布団をくっつけたら「信じているから好きにすれば良い」と伝えてくれと申しておりました」
襖越しの女将さんが笑った気がする。
「ははっ…ははは…お見通しかよ…」
私は情けなくなって笑ってしまう。