第391話 この人はこうして私の知らない所でも努力を欠かしていなかったんだ。
私は帰宅して夕飯を食べながらお父さんとお母さんにシエナさんとザンネさんの結婚の話とネイを呼ぶ話をした。
「めでたいな。存分に力を尽くすといいぞ」
お父さんが嬉しそうに言う。
「へ?」
「おめでたい時には千歳の張り切りがいい結果になるからな。でも花火上げるとかはやめておけよ」
花火ダメなの?
「え?」
「千歳?まさかあなた…」
「あはは、考えただけだよぉ〜」
「もう。ビリン君は居なかったの?」
「なんで?」
「居たら止めてくれてたわよ」
「そうかな?まあ今は無理じゃないかな?」
私はあの真っ赤な顔を思い出しながら言う。
「どうした?」
お父さんが気にしたのでビリンさんが高速移動の練習をし過ぎて風邪を引いた話をした。
「アイツ、あの日休まずにサウスまで帰ってそのまま練習したのかよ…」
「そんな感じ。水曜の夜には風邪引いていたし。木曜はジチさんに聞いたらパルマさんに回復してもらって高速移動したら熱出して…、今日は王様に緩和してもらって高速移動して熱出してたよ」
「まったく、そうまでして急がなくても平気だろうに…」
「本当、慌てなくていいのにね」
「千歳、お見舞いはいいの?」
「へ?さっき帰る前にジチさんに頼まれて寝るように言ったよ」
「そうじゃなくて食べられなくて辛いとかないの?」
「あー、ゼロガーデンで風邪引くと辛いんだよな。お粥とか無いし」
「ああ、お米ないのか」
お父さんがしみじみと言う。
まあ、日本に逃げ帰ってもいいけど、向こうに行けば金色お父さんを追体験するから嫌でも味わうんだよな。
「もしかしたら月曜日に千歳が風邪をひかないようにしてくれたからかもしれないのよ?」
「え?嘘でしょ?」
「嘘なもんか。まったく…。なんか持っていってやれって」
「…うぅ。わかったよ」
私はそう言って食後に台所でお粥とジューサーでフルーツジュースを作って持って行った。
ビリンさんの部屋に着くとビリンさんはうとうとしながらうなされていて可哀想だった。
「俺の高速移動じゃ…まだ足りない。早く使いこなしてルルさんから残り2個を貰う。
万能の鎧は…手が足りない…でも対策は立てたし…後は行くだけ…」
うなされても黒さんを倒す事を考えているのかと私は驚く。
「ビリンさん?」
「ん…チトセか?その服も可愛いな。似合ってんぞ」
ビリンさんは私に気付いたのかいつもの挨拶みたいに私の服を褒める。
今の私は日本の服のまま来ていて薄手のトレーナーと短パンだ。
「寝なって。熱出しても戦う事を考えてるの?」
「熱のせいで幻見てんのかな?チトセが来てくれたなんて熱も悪くないな」
完全に熱のせいで夢と現実の違いがわからなくなっている。
「まあ、幻でもいいや。
チトセ、待ってろよな。俺がすぐに黒父さんに勝つからな。
もう後悔なんてする必要無いからな?
チトセが泣く事なんてないんだ…」
こんな時までそんな事を考えてくれていると知って驚きつつ申し訳ない気持ちになる。
「ほら、また泣きそうな顔してる…。
泣くなって。風邪だってすぐに治して1秒でも多く修行するから。
前にチトセの言った勝てないなら勝てるまで鍛えろって言葉を体現してやるからな」
確かに前は言ったが、それは軽い気持ちで言っただけで、それに怪我をして欲しくないからで無理をしろとは言っていないのだ。
「そんなのいいから治してよ!」
私は思わず声を張る。
「へへ、幻も本物そっくりだな。
あと少しで高速移動も使いこなせる。
そうしたら次はルルさんから残り2個を付けてもらうんだ。
勝てないのは手数の問題で…それもイメージは出来ていて解決するからさ。
なぁ…、今度爺ちゃんのところに一緒に行ってくれないか?」
「ドフお爺さん?」
「おう。爺ちゃんの好きなチトセを連れてって機嫌が良くて目尻の下がったところでちょっとお願いするんだよ。頼むな」
多分このお願いも戦いの為のお願いだ。
この人はこうして私の知らない所でも努力を欠かしていなかったんだ。
「うん。わかったから今は寝て?」
「寝てらんねえって。動くなって本物のチトセと約束したから動けない代わりに頭の中で黒父さんと戦ってんだよ…。
さっきもいい所まで行ったんだ。あと少しなんだ。休んでられない」
熱でうなされていても目の力は変わらない。
真剣な目でイメージトレーニングをすると言う。
「なんで?休んでよ」
「ダメだって。俺が黒父さんを倒す。
そして後悔で泣くチトセに向かって「俺に負けた奴の事なんて気にするな。俺は本当に気にしない」って言ってやるんだ。
チトセは背負いすぎなんだよ。
気にしなくていいようにしてやるんだ」
ビリンさんが私を想って言葉を発してくれた。




