第384話 彼の優しさ。
突然ビリンの宿泊が決定してしまい千歳が驚く。
「お父さん?何で!?」
「千歳が悪い」
常継はピシャリと言い切る。
「はぁぁぁ!?」
「お前、材料費を俺持ちにしたから、こうして気をつけないと散財しかねん」
「高給取りが何言ってんのよ!?そんなに使うわけないでしょ?」
「あ、これ食べてみたかったんだよね。お父さんの奢りだし買っちゃえ!とか言いそうだぞ」
確かに言うなと本人を含めた全員が思っていた。
「ぐっ…」
「まあビリンの宿泊は決定事項だから諦めろ。千歳は朝早起きしてビリンにホットサンドを作ってやれば良いんだよ」
「嫁入り前の娘のいる家に男の人を泊める?何かあったらどうすんのよ?」
「あるわけないでしょ。馬鹿みたいなこと言わないの。ビリン君は優しく紳士ですよ」
ぴしゃりと千明が言う。
「お母さん?」
味方だと思った千明も常継側だった事に驚く千歳。
「あの…」
そこでビリンが口を挟む。
「どうした?」
「いや、チトセも嫌がってて可愛そうなんで俺なら外でも平気だしガーデンに帰れば済むから」
「お前はバカか?千歳の恩返しが終わらないんだから受けていけ。千歳も何かされそうになって嫌なら身ぐるみはいで北海道辺りまで飛ばせばいいだろ?」
「ホッカイドウ?どこですかそれ?」
「あー…、わかりやすく言うと、サウスのお城からガーデンを8周くらいしてから地獄門を目指すくらい遠くの北の土地。冬にそこら辺歩いていたら寒くて死んじゃうわよ」
ビリンは見知らぬ名前が出てきて聞き返すと千歳が説明をする。
あの狭い世界で生きているビリンは途方もない大きさに恐怖する。
「何もしないけどそんなところに送られるなんて生きた気しないですよ」
「まあそう言うことだから。千歳、風呂の使い方を教えてやれよ」
「もう、何でこう言う時はイキイキとするかなぁ?ビリンさん、お父さんはこうなると言うこときかないから諦めて…」
「おう…、いいのかな?」
申し訳なさそうに千歳を見るビリンだったが千歳は先に諦めきっていて「良いんでしょ?」と言う。
「ビリン、長湯してこいよ。昨日も千歳が起きると可哀想だからってカラスの行水だったんだからな」
常継がシレっととんでもない事を言う。
「ツネツギさん!」
「え?何それ?」
内緒にしていた事をバラされて驚くビリンと寝耳に水で驚く千歳。
「バカ、寝る時に帰れないようにお前がつけた光の鎖って言うか手錠、長さは向こうの家を自由に歩けるくらいあったけど何かの拍子に千歳が起きたら可哀想だからってビリンの奴はトイレも風呂も最低限にしてんだぞ?」
「ツネツギさん…、言わなくていいって言ったのに」
「良いんだよ。俺が高い酒を出して泊めたくなった理由がわかったか?」
そう言われて改めて申し訳なさそうにビリンの顔を見る千歳。
「うぅ…、ごめん」
「いいって。風呂教えてくれよ。ってかアレか?セカンドの風呂みたいなのか?」
「あー、そうそう」
そんな事を言いながら千歳が風呂の説明をするとリビングに戻る。
「千歳、布団は千歳の部屋な」
「はぁぁぁ!?」
「ビリンは寝不足だからな」
「…まさか…」
「折角眠れたチトセを寝返りとかで起こしたくないんですよ。俺は平気ですからツネジロウさんは寝てくださいよ」
「バカヤロウ。家主の年長者が客を無視して眠れるかよ。明け方には寝ようぜ?明け方なら千歳が起きても仕方ないだろ?」
「…わかりました」
「ってな会話があった訳だ。そしてビリンは千歳が起きる前に起きて待ってくれていた。
それをお前は卵焼きと生姜焼き、味噌汁とおにぎりで誤魔化すのか?」
「…」
「ビリンなら何もしないだろ?」
「…うん。それは知ってるけどだらしない姿とか見せたくないんだもん」
真っ赤になって俯く千歳。
「見せてやれって。待ってるぞ?」
「千歳もビリン君の寝姿とか見てあげなさい。もっと知りたいでしょ?」
「え?お母さん、知って…?」
「何の話?」
「…何でもない」
突然自分がビリンをもっと知りたいから好意に応えていないと言う事を知っているのかと思って慌てる。
「ほら、じゃあ布団敷きなさい。ズルだけど神如き力で干したのと同じ状態にしてあげてね」
「はーい」
千歳は微妙な顔で部屋に布団を持ち込む。




