第382話 想いのこもった食事。
「おおおおおぉぉぉ、美味い!」
卵焼きを食べたビリンが嬉しそうに声を張る。
「オーバーだなぁ…、なんかビリンさんは塩と砂糖を間違っても喜びそうだから信用出来ない」
嬉しそうに笑いながら信用できないと言う千歳。
「じゃあ言っていいのか?」
「お父さん?」
「常継さん?」
「冗談が過ぎました」
さすがにからかい過ぎていて2人に低いトーンで名前を呼ばれてしまった常継は謝る。
「ビリン君。美味しい?」
「はい!凄く美味しいです!」
「私の卵焼きより?」
「あ…はい。何でだかわからないんですけどチトセの方が美味しいです。ごめんなさい。
でもチアキさんのご飯も美味しいです」
「お前、俺の千明飯を…」
「えぇぇぇ…」
「お父さん、絡み過ぎ。やめてあげてよね」
「ふふふ、ビリン君。その卵焼き、材料も調味料も同じ物を使っているのよ。
それでも千歳の方が美味しい?」
「はい。何でだろ?」
「それはね、想いがこもっているからよ。
私の母、千歳のお婆ちゃんが料理を教えてくれる時に言っていたのよ。
食べてくれる人が喜ぶように作りなさいって。
だから想いの分だけ千歳の方が美味しいのよ」
「想い…。そっか…それでか…、チトセありがとう」
「ふぇ!?別に何もしてないから普通に食べてよ」
真っ赤になりながらそっけなく言う千歳。
「さあ生姜焼きはどうだ?…千明のは相変わらず美味いな」
「私のは?」
「千歳の生姜焼きも美味いな。何て言うんだろう。ただ脂が多い気がしてアラフィフには辛いと言うか…」
「ふふふ、それはお肉の処理の仕方ですよ」
千明がニコニコと種明かしをする。
「え?お母さん何かしたの?」
「余計な脂身を外していたのよ。
若い人にはわからないと思うけど、歳を取るとその余計な部分がちょっと辛いのよ」
「チアキさんは色々考えて作るんですね」
「私もビリン君と千歳と一緒で考えるのは常継さんとツネジロウさんの為だけよ?」
そしておにぎりも高評価で悪ノリした常継が千歳に言ってツネノリに送らせる。
まあ備蓄してあるツネノリのお気に入りの通称:常則米を使ったので食べる権利は少しならある。
「千歳!ようやく俺の言ったことがわかってくれたか!とても美味しいぞ!」
食べたツネノリから即座に返事が来る。
「さっきからわからん!私は普段通りにしかやってないのに!!」
褒められたが思い当たる節のない千歳は不満げだ。
「なんだ、チトセって料理上手じゃないか。場数が足りないだけで沢山作ったら上手くなると思うぜ?」
味噌汁を酒のように飲み干したビリンが嬉しそうに言う。
「…それってまた作れってこと?」
「よろしく〜」
「まったく。嫌いな物は先に言ってよね?」
千歳は嫌がらずに次を作るつもりで居た。
「千歳、そう言えば道子さんからのプレゼントを開けてみなさいよ?」
「ああ、何だろうね?ここで開けて平気なやつかな?」
「…お前、中身なんだと思ってんだよ」
そして千歳が袋を開けると「愛のおかずレシピ二百選」と言うレシピ本だった。
「あ、これ」
「レシピ本か」
「これ、私が昔ジョマにプレゼントした奴の別の奴だ」
「それをジョマがくれたのか?」
「千歳、道子さんはそれで練習するように買ってくれたのね。お礼言いなさいよ」
「はーい。ジョマ、ありがとう!」
「いいえ。アートのお礼ですから気にしないでくださいね。ビリン様、千歳様と本を見て何を食べたいか言ってくださいね」
千歳が声を出すと即座にジョマの返事が来る。
「えぇぇぇ!?大変なの選ばれたら嫌だよ!」
「うふふ。千歳様が私になんて言ったか覚えてます?」
「あー…。うん」
「お前、なんて言ったんだ?」
「とっても簡単って表紙に書いてあるから平気だよって言いました」
「はい。その通りですよ。私にもやれたんですから千歳様も頑張ってくださいね」
ジョマの優しいけどしっかりとやらせようとする言い方。
「はい…、口が災いの元って本当だなぁ…」
「千歳様?それならその後で千歳様が言った言葉も覚えていますよね?」
「うっ…「きっと東さんはジョマの料理を楽しみに待ってるよ!だからきっと作ったら喜んでくれるよ!」です…」
「千歳様、私が今からなんて言うと思います?」
「うぅ…、きっとビリンさんが料理を楽しみに待っているから頑張ってね。とかかな?」
「大体正解です。それでは」と言ってジョマの声が遠くなった。




