第377話 憔悴した彼女を慰める。
「いよぃしょおぉおぉっ!」
突然聞こえた声に常継と千明が慌てて玄関まで行く。
「何だ何だ?」
「まぁ」
「こ…こんばんは。なんとか来られました」
「ビリン!?」
「千歳?」
ビリンが昨日の晩のように千歳をお姫様抱っこで抱きかかえて日本の家に到着した。
「お前、良く来れたな?」
「大変でしたよ…、ほらチトセ、着いたから降ろすぞ」
「うん…ありがとう」
千歳は降りるとヨタヨタとリビングに進んでいく。
「大丈夫?」
「うん…、ビリンさん?何してんの?上がってよ?いいよねお母さん?」
千明が心配すると憔悴した顔の千歳が大丈夫と言った後でビリンが家に居てもいいかと千明に許可を取る。
「ええ、勿論よ」
「そうだな。立ち話なんてする必要無いな。ビリン、上がれよ」
「…あー…はい」
「千歳、風呂に入って着替えてこい」
ビリンの気まずそうな返事に何かを察した常継は千歳に風呂に入るように促す。
「え?ビリンさん帰っちゃわない?」
「あー…、帰らないから、冷えたろ?身体温めて来いって」
泣きそうな顔でビリンを見る千歳。
不安を消すようにビリンが帰らないと言う。
「約束だよ?」
「するから大丈夫」
「ん…わかった。待っててね」
千歳はそう言って着替えを持って風呂に行く。
千明がビールを出している間に常継とビリンがテーブルに座る。
「何があった?ある程度は東から貰って見ていたがお前たちうまくやれてただろ?」
「え?観てたんですか?いつから?」
「昨日の焼肉から今さっきの船を降りた所までよ。
本当にビリン君はエスコートも堂々としていて頼もしくてありがたかったわ」
「いえ、俺なんてまだまだですよ」
「それで?何があったんだよ?」
「あー、チトセの事なんでボカしても良いですか?」
気まずそうな顔のビリンが言いにくそうにする。
「構わん」
「チトセが今までの事を思い返して申し訳なくなってくれたんです」
細かい説明は要らない。それだけで十分だろうと思って言う。
そしてそれは十分だった。
「そう。あそこまで憔悴するくらい悔やんだ事があったのね。それで?そこからどうやってここまで来たの?」
「オーロラの丘には30分だけいる予定だったんです。
でも申し訳なくなったチトセが「もう少し」って言うから居たんですけどどんどんチトセの身体は冷え込んでいくし、心配していたら何処でもいいから連れて行ってと言うから、ニホンを位置登録して何かの時に助けるからって言い聞かせて…、なんかチトセも申し訳なさから気持ちが滅入ってしまって本調子じゃなくて位置の補助が怪しくて、実は少しだけジョマにフォロー頼んじゃいました」
「そうか、助かったよ。ありがとう」
「いえ。俺にできるのはこんな事だけですから」
「そんな事ないわよ。ビリン君だからできた事なのよ。昨日の事も全部ありがとうね」
千明は本当に感謝をしているという表情で伝える。
「いえ。本当、でも多分俺を見てると辛いだろうからなるべく早くに帰ろうと思ったんです。
でも…上がり込んでしまって…すみません」
丁度そこに千歳が風呂を出てくる。
「早くない?」
「だって…」
「お前、ビリンが帰るって思って心配したろ?」
「うん…、なんか帰っちゃいそうだから」
「髪も濡れてるしまだ身体も冷たいわよ?」
「うん…」
千歳にはいつもの覇気みたいな物がない。
それだけショックで憔悴しているのだ。
「ビリン」
「はい?」
「この千歳の服はどうだ?」
「へ?」
突然常継が聞く。
「お前…ガーデンの人間から見てこの部屋着はどうだと聞いているんだよ?」
「すげぇ可愛いです」
「またそれ?いつもそれしか言わないよね?」
千歳は静かに笑って呆れる。
「写真欲しいか?」
「え!?…はい」
「えぇぇぇ?この姿の?」
「おう。沢山宝物を増やしたいからな」
「恥ずかしい」
宝物と言われて顔を赤くする千歳。
「ふふふ、千歳。まだ5時半だからお夕飯の支度まだなのよ。
ビリン君にも食べて行って貰いましょ?」
「え?チアキさん!?」
先ほどの話が無かったことにされた突然の提案に驚くビリン。
「いいの?」
「いいわよ。千歳だって昨日からお世話になりっぱなしで何も返せてないから気持ち悪いんでしょ?」
千明は違う事は勿論知っていたが千歳を盛り上げる為に言う。
「…うん」
「じゃあビリン君に食べて行って貰いましょう?」




