第359話 安らぎと後悔のオーロラ。
ビリンの瞬間移動でオーロラの丘に着く。
今日もオーロラは見事だと千歳のテンションが上がる。
「ちゃんと飛べたねー」
「そりゃあなぁ、昨日あれだけ練習したからな」
ビリンが昨日のことを思い出して笑う。
「あはは、ごめんね」
「まあ練習させてくれていたんだろうし、次元移動や瞬間移動には神が介入する危険がある事も教えてくれたんだろ?」
「うん」
そう言う千歳は顔が赤い。
「さあ、ベンチ座ろうぜ?その服じゃ寒いか?」
「ビリンさんこそ寒そうだよ」
「じゃあ普段の服に戻してくれね?」
「…スタッフカウンターに届いた服に照準…イメージ」
千歳が力を使うとビリンはすぐに普段の服になる。
同時に千歳も普段の服になる。
「さっきのよそ行きも良いけど見慣れたチトセはいいな」
「そればっかり」
そう呆れるように言ってはいるが千歳の顔はまんざらではない。
そう言いながら2人はオーロラを見る。
するとビリンが話し始める。
「驚いたよな」
「カリンさん?」
「ああ、カーイさんもな」
「でもカーイさんにはカリンさん達が良かったのかもね」
「ああ、ワガママを言いたいカリン達とワガママに応え切ってみせたいカーイさんのバランスだろうな。
チトセはヤキモチ焼いたか?」
「別に?」
「じゃあモヤモヤしたか?」
「…少し」
そう言っていつもの困り顔で笑いながら千歳がビリンを見る。
「カリン達もチトセの気持ちを見たくてわざとやってたからな」
「うん、それはわかってた。さっきは手を繋いでくれてありがとう。いつもそうやって守ってくれるよね」
「そりゃあチトセの旦那になる俺が守らないでどうすんだよ」
「うん」
あまりにも素直な返事。
「うぇ?」
「こら、そこも普通にしていなさいよ」
ビリンは突然の返事に驚きながら千歳の顔を見る。
千歳は普通の顔で笑う。
「おう」
そう言いながら、内心ビリンは心躍っていた。
千歳が素直になっていて自分にも望みがあるのではないかと思わせてくれるのだ。
「私からもいい?」
「どうした?」
「さっきカリンさん達の言葉の中に今の私にピッタリの言葉があったの」
「そうか」
「そうかって…、平気なの?」
そこには後一押しなんだぞ?と言う千歳からの疑問が伺える。
「んー。強制したくない」
「…もう、ビリンさんの癖に………ありがとう。
私にピッタリだったのはね「毎日楽しいだけは無理だしさ」「やっぱり綺麗事の通じないよそ行きを退かした後の相性ってあると思うんだよね」と言った言葉。
今日の事にしてもそうなんだよ。
よそ行きの言葉遣いをして私を守ってくれるビリンさん。
カフェでもあんな氷のような殺気を放って守ってくれたビリンさん。
そして船でのご飯。
話し方もナイフとフォークの使い方も全部知らない事の方が多かったよ」
「そうか?どれも俺なんだけどな」
「うん。だからまだ私には知らない事が多過ぎるから…」
「…」
「……」
「俺を見てくれ」
「え?」
「まだ知らない俺が居て、今のままじゃ嫌だからカリン達みたいにもっと知りたいんだろ?
それならもっと俺を見てくれ。そして判断をしたら教えてくれ。
結果は良くても悪くても教えてくれよ」
これはビリンの素直な気持ち。
進展のない状態より余程ありがたい千歳の言葉を貰ったビリンが普通に口を開いていた。
「うぅ…、ごめんね」
千歳自身、自分の気持ちがあやふやな事が気持ち悪い。
それこそ最近周りから言われたこの気持ちが何だかわからないと言うのがピッタリでそれが申し訳ないのだ。
「いいさ。この前言っていただろ?黒父さんに話したって、そう…俺はなんの動きも無かった4年が不安でその気持ちを黒父さんに話したんだ。
そうしたらこれだけ動きが出た。
今はそれでいい」
そう言うとビリンが千歳の肩を抱き寄せる。
一瞬千歳が強張るのがわかる。
その緊張を和らげるようにビリンが口を開く。
「…寒いから、これくらいはな」
「ありがとう。後ごめんね」
「何を謝って…チトセ!?」
千歳の顔を見たビリンが慌てる。
千歳は泣いていた。
ビリンには顔でわかる。これは結構深刻な奴だ。
「もし、もし私とビリンさんに先があったらって考えたらね。
私は黒さんとキスをしてしまっていて、凄くビリンさんに悪い事をしてしまったと気付いたの。
確かにあの場はああしないと黒さんが手をつけられなくて止められなかったの。
年も若い今のビリンさんくらいの姿だったから仕方ないって自分に言い聞かせたの!
でも、もっと他の方法を探すべきだった!
だからごめんなさい!!」
千歳からすればテッドは本当に不可抗力だった。
余剰の力をテッドに流す為に抱きつかれていてキス本来の意味もわからないテッドからキスをされた不可抗力の被害者だが、コピーガーデンのキヨロス…黒さんは別だった。
キヨロスには世界の為にと言う題目があっても最終的に自分からキスをしていた。
その事が今になって大きくのしかかって来た。
「泣く事はないよ」
よそ行きの声と話し方でビリンが涙を流す千歳を抱き寄せる。
「ノーカウントだから気にしないって言っただろ?」
「でも!メリシアさんが教えてくれたよ。
気にしないって言ってくれていても気になるけど気にしないようにしてくれているって!」
「気にするとしたら、今チトセが悲しむ事だよ。
でも悲しんでくれてありがとう。
真剣に俺の事を考えてくれたんだよね?」
「…うん……」
「なら十分だよ。ありがとう」
その後も千歳は泣き続けた。
ビリンは千歳を落ち着ける言葉以外は何も言わずに優しく抱き続けた。




