第352話 思わず素直に返事が出てしまった。
カフェに着いて待っているとツネノリとメリシアさんが着た。
「早いな」
「まあね」
「千歳様たちはどこに居たんですか?全然気配が掴めませんでしたよ?」
「内緒だよ。それよりも今日の私は1人じゃなくてビリンさんと一緒だから大丈夫なんだからツネノリに集中しなよー」
「ふふふ、そうしたかったんですけどツネノリ様が心配されていました」
「なにぃ?」
「また昨日の映像みたいに千歳が酔って迷惑をかけているんじゃないかと思ってだな?」
「ムカ」
「チトセ、今日は我慢だろ?それにツネノリさんにはいくら海鮮丼を渡しても足りないだろ?」
「うん?わかったよ」
海鮮丼で許されるわけもないので素直に返事をすると、ちょうどそこにカリンさんとマリカさんに連れられたカーイさんがやってきた。
「お待たせ」
「いやー、楽しくてさ」
「遅くなっちゃったよ」
そう言うカリンさんとマリカさんにはネックレスと帽子が追加されていた。
「あれ?1人1個って?」
「聞いてよチトセちゃん!凄いんだよ!」
「カーイさんが何でもわかってくれるんだよ!」
またニコニコ顔のカリンさん達がテンション高く話しかけてくる。
「へ?」
「私が帽子を欲しがったらね」
「「マリカさんも、帽子を選ぶと良いよ」って言ってくれるの!」
「今度は私がネックレスを欲しがったらね」
「「カリンさんは何色にする?」って聞いてくれたんだよ!」
「喜んでもらえて僕も嬉しいよ。でも皆を待たせてしまったね」
「皆、ゴメンね」
「カーイさん、また来たいよ!」
「あはは。いいよ」
そう言いながら店内に入るとここの予約席は少し近かった。
奥の席なので入り口からスタッフに促される形で奥に歩くのだが、常連のお客さんお酒のせいもあるだろうがカーイさんに気付いたのか「あの兄ちゃんはこの前と違う姉ちゃん連れてるな」と悪態をついてきた。
私が怒ろうとしたのだが、手を繋いでいたビリンさんが制止をする。
「でも!」と怒ろうとした時にカーイさんは毅然とそのお客さんの前に言って「僕に何か?」と聞く。
顔は穏やかだが殺気はだだ漏れだ。
「へ?いや…」
「余計な言葉かも知れないが、僕を言うのは構わない。
それは僕とあなたの問題だ。
僕も気に入らなければ貴方と戦ってでも僕の正義を証明する。
だが彼女達は大切なパートナーだ、傷つけることは許さないよ」
「……はい」
「では失礼。これで気分を直してくれ」
そう言ってチップ用に用意していたのだろう。小銭をテーブルに置くとカリンさん達の所に戻る。
「済まなかったね。嫌な思いをさせてしまったよ。さあ、テラス席で気分を直そう。景色が綺麗だよ」
「格好良かったよ」
「うん。もっとやっても良かったよ」
「本当かい?」と言ったカーイさんは嬉しそうに2人をエスコートして先日と同じ席に座る。
「冷や冷やする。俺は練習じゃなくてカーイさんのお目付役なんじゃないか?」
「ふふふ、それもいいじゃない」
そう言ってツネノリとメリシアさんも店内を進む。
あまりのメリシアさんの綺麗さとツネノリの格好良さでお店の若い子達が色めき立つ。
「ツネノリ、腕を組んで」と言ったメリシアさんがツネノリにくっついてこれ見よがしに歩く。
私達の番。
さっきカーイさんに喧嘩を売りかけたおじさんが私に気付く。
何か言われたら面倒だなと思った所で殺気を感じる。
ビリンさんだ。
普段の殺気ではない。
今さっきカーイさんが放ったような冷たい殺気だ。
普段の殺気は燃えるような殺気だが今のは…そう、王様が覗きの神に放った殺気に似ている。
「ひっ!?」
おじさんは怖い物を見たような顔をすると顔を背ける。
「チトセ、歩ける?手を貸すから繋いで」
そう言って手を取るビリンさんはとても紳士的だ。
「へ…」
「こう言う場では無理をしないで「はい」でいいんだよ」
そう言う顔がいつも以上に優しい。
「はい」
思わず素直に返事が出てしまった。
そしてこの行動が守ってくれていたのだと着席してすぐに気がついた。




