第336話 陰で見守る者達。
「カーイ、さっきから気になっていた本気でって何のことだ?」
「僕は身体が弱かった時。
一度だけ本気で走ってみたことがあります。
その晩には高熱が出て1週間も布団から出られなかったんです。
その時の恐怖があるから姉さんが神様に健康な身体を願ってくれた後も本気で動いた事はない」
「それで本気か…、本気で動けば気は済むのか?」
「ええ、本気で動いて貴方に勝つ。
一度限りの勝利でもいい。
本気で動ける相手が欲しいんです」
「なんでキヨロスやツネノリじゃねぇ?」
「キヨロスさんの強さは心とアーティファクトの強さがメインで技の強さじゃありません。
ツネノリ君とは散々戦っていますから、手の内がわかってしまっていて楽しめません。
さあ、カムカさん…戦ってくれますよね?」
「その前に俺と」
「私と戦ってよ」
「マリク、リンカ!」
「お母さんとお兄さん達の姿を見ても挑むのかい?」
「折角だから」
「強いしね」
「それにムカつくよね」
「いきなり来て家族を傷つけてさ」
そう言う2人の目には怒りがある。
「君達は普段は一歩引きながらそうやって陰で家族を守っていたからくると思ったよ。
いいよ、カムカさんに本気になってもらいたいから僕の力を見てもらわなければね。
「いくよリンカ!」
「いつでもいいよ。今日はいきなり本気で乱れて!」
「「【アーティファクト】」」
マリクが本気の動きで前に出ながら「風の弾丸」を撃つ。
その隙を埋めるようにリンカが遠距離からカーイの嫌なタイミングを狙う。
「2人がかりの強さならカムオ君とガリル君より強いね」
そう言ってカーイが光の剣を出す。
「流石に素手で圧倒出来る相手じゃないね」
「リンカ!」
「マリク!乱れて!」
マリクは剣の間合いに入らずに風の弾を撃つ。
そしてリンカの一撃をカーイがかわしたり撃ち落とすタイミングで殴りかかる。
「ふふ、凄いね。余裕がなくなってきたよ」
「よく言うよ、攻撃が当たらない」
「そう言えば君には甥達が世話になったよね。
敵討ちと行こう!速度を上げて倒すよ!【アーティファクト】」
剣速を引き上げたカーイが徐々にマリクに傷をつける。
「剣に刃は付けていない!安心してくれ!」
「マリク!」
リンカが慌てて攻撃の回数を増やす。
それは狙いを犠牲にしたものだ。
「ふふふ、リンカさんは怖いな。だが実はその攻撃は僕には効かないよ!【アーティファクト】」
カーイは指に着いた疑似アーティファクトの「風の指輪」でリンカの風の弾を逸らしてしまう。
「相性が悪い!マリク、私も入る!」
「リンカじゃダメだ!俺たちの負けだ!カーイさん!参った!」
そう言うとカーイは攻撃の手をすぐに止める。
「なかなか良かったよ。弾丸が風だから無駄な怪我をさせずに済んだ」
そう言ってカーイは剣をしまう。
「マリク…ごめん」
「いいよリンカ。次は勝とう」
泣くリンカを支えてマリクが下がる。
「さあ、次はいよいよカムカさんかな?」
カーイが晴れ晴れとカムカを見る。
「キヨロスさん!どうです?面白いですか?」
カーイがそのまま天を仰いで声を張る。
「ああ、中々楽しいよ。
でも苛つくな、
僕がアーティファクトの強さだけだって言うんだね?」
「ふふ、じゃあこのままカムカさんを倒したらウエストに送ってください。
次は姉さんと義兄さんを倒します。
あの2人はそんなに強くないから2対1がいいかな?
その後でサウスでキヨロスさんと戦いますよ」
「へぇ、来れるといいね?だがその前に…カムカの前に1人倒してみなよ。ツネノリ!」
その声でツネノリが二の村に降り立つ。




