第332話 甘える女神。
風呂から出た千歳はビリンをみてご機嫌になる。
「偉い!帰らなかったんだね!」
そう言うとニコニコ顔でビリンの横に座る。
「千歳、千明に泊まるって言えよ。心配するぞ?」
「あー…今は神如き力自体使えなくしてあるからお父さんがメールしてよ」
「マジかよ?」
ツネジロウは諦めながら千明に「千歳、泥酔。泊まらせる」と打つ。
返信は「東さんに見せて貰いました。すみませんよろしくお願いします」だった。
「お母さん良いって?」
「ダメって言われても誰も送れないだろ?」
「ビリンさんが居るから大丈夫だよ。ねー?」
「おう」
遅れてノレルが風呂から出てくる。
「ほら千歳、髪の毛乾かさないと風邪引くわよ?」
「だってビリンさんが帰ったかもって心配だったんだもん」
「そんなに帰って欲しくないの?」
「うん」
そう言う千歳の顔は無邪気な笑顔だ。
ノレルが千歳の頭を乾かしながら会話をしていく。
少しすると髪が渇いた千歳が「ありがとうノレルお母さん」と言って笑う。
「まったく、それになんでそんなにお酒にこだわったの?」
「皆飲めるでしょ?
それに今日のカーイさんはつまらなそうだったのも気になったし、やっぱり飲めた方が良いのかなって思ったんだよ」
そう言う千歳はだいぶ眠いのだろう。
盛大に船を漕いでいる。
「チトセ、眠いなら寝ろって。約束したから帰らないからさ」
「うぅ…ツネノリ遅い。ツネノリ居ないと寝たくないの」
いきなりツネノリの名前が出でてきてビリンが不思議がる。
「なんだそりゃ?」
「私はこの家で寝るときはツネノリの布団でツネノリにくっ付いてるから居ないと気持ち悪いんだよ〜」
「だが今日は居ないんだから諦めて俺とルルの布団で寝ろって」
「そうよ、ね?千歳。今日は私と寝ましょう?」
ノレルは嬉しいのだろう、説得する顔ではあるがニコニコしている。
「むぅ…ツネノリのバカ…。
じゃあもう少しだけ待って帰ってこなかったらノレルお母さんと寝るよ。まだここで我慢する」
そう言った千歳がビリンを見る。
「どうした?」
「ビリンさん!腕!」
「はぁ?」
「腕って言ったら腕なの!ツネノリはちゃんと寝る時に腕って言うと出してくれるんだよ?」
「あー、眠いのか…、どうぞ」
「まだ寝ないよ〜。ちょっとくっつくだけ〜」と言った千歳がビリンの腕に絡みつくと少ししたら眠り始める。
そして慌てて目を覚ますと「寝てないからね」と言う。
「わかってるって。今日は疲れたもんな。アレだろ?昨日の夜も緊張して眠れなかったんだろ?」
「なんで…わかるの?…ビリンさん…の癖に」
「酷え」
「ビリンさん…帰らないでね…あと…いつもごめんね。ありがとう」
「おうよ。わかってるから寝ないでいいから目を瞑ってのんびりしておけって」
「うん…、お酒飲んでいいからね…また行くもんね…」
「ああ、約束だもんな」
「うん」
そうした後、千歳はあっという間に眠る。
「寝たか?」
「多分、でも動かすと起きますよ」
「赤ん坊かよ…」
ツネジロウが、ビリンの腕に抱き付いて眠る千歳を見て呆れる。
「ビリン、ありがとうね」
「いえいえ、これくらいお安い御用ですよ」
そう言ってノレルがお茶を用意する。
「千歳はお風呂でもビリンの話をしていたのよ?」
「そうですか。
まあ何か疲れてるから仕方ないかもしれないですよね。
何か俺以外のチトセに求愛した奴らって皆チトセをそのまま見てないから疲れちゃうんだと思いますよ。
それなのに離れる時はアッサリですからね」
「ザンネ達か…」
「ザンネさんとシエナ姉さんがくっ付いたのは弟としてもチトセに求愛した立場でも嬉しいですけどチトセは急に離れられて驚いたと思いますよ。
カーイさんもチトセの話の通りならチトセを見ていないのがわかりましたしね。
自分のやりたい通りやるとチトセが幸せになるって勘違いしてるのがまったく…」
「お前、キチンと見てるのな」
ツネジロウが驚きながら言う。
「そうですか?まあ1番下で家族を見てきたからかも知れませんね」
ビリンが何処か達観した目で遠くを見る。




