第329話 酔うと大胆になる女神。
「美味しかったから売ってもらったんだよ〜!ルルお母さんお土産〜、甘いんだよ〜」
そう言うと千歳は先日作った倉庫として作った0と1の間から果実酒のボトルを出す。
「これがリンゴで、これが桃、桃が美味しくてさ〜、これがみかんで、こっちがぶどうだよ〜。後ね〜、これが梨だって〜。あ、梅もあるよ」
「ああ、ありがとう千歳」
ルルは引きつった顔で感謝を告げる。
「それで、どうやってコレを連れ帰れたんだ?」
ツネジロウが千歳を指差す。
「その後も悲惨でしたよ…」
またビリンが遠い目で天井を見る。
「お肉はカルビお代わり!今度のお酒は梨にします!」
千歳がグラスを空にするとテンション高く注文をする。
「おいおい、チトセ。飲み過ぎだぞ?」
「え〜?まだ全部試してないよ?」
「それでいいんだよ。また来ようぜ?」
「え〜?ビリンさん帰りたいの?」
口を尖らせた千歳がビリンの顔を見る。
「え?」
「私と居たくないの?」
「いや、居たいけど」
「じゃあ食べようよ。お肉美味しくない?」
「いや、美味い」
「だよね!食べようよ!」
ニコニコと千歳が鉄板に肉を並べていく。
「ってエンドレスな肉と酒でした」
「マジかよ。それにしてもお前、酔っ払いの扱い上手いな」
ツネジロウが酔いつぶれた千歳を怒らせないでうまくなだめている事を褒める。
「あー、フィル母さんが…」
「確かにフィルの奴は飲むとこんな感じに壊れていたな」
「あ、ルルさん知ってるんですか?」
「まあなツネツギも見てるぞ」
「そうなんですね。
フィル母さんは昔から酔うとこんな感じで絡んでくるんで慣れました」
母の1人であるフィルも普段はクール系美魔女なのだが、キヨロスが絡むと甘々にとろけるし、酒が入ると滅茶苦茶壊れて絡んでくる。
「ん〜?なんか言った?お父さんグラスまだ〜?」
「何から飲むとチトセが喜ぶか今相談してたんだよ」
「グラスは今出すよ。俺は甘い酒は飲まんぞ?千歳とルルとビリンのグラスか?」
「うん。お父さんがグラス出したらルルお母さんに氷を出してもらってね。
ビリンさんはいつも優しいよね。
ありがとう。
私はどのお酒でも喜ぶよ〜」
そう言った千歳はりんご酒を手に取ると「君に決めた!」とか言い出す。
「まだ飲むのか?」
「だってそれが条件の1つで帰ってきたんだよ?
ウチで続きを飲む事とビリンさんが私を抱っこしたまま連れ帰ってくれる事が条件だったんだよ」
千歳はそう言うとヘラヘラとテーブルに突っ伏す。
「神如き力!ルルさん、ツネジロウさん!それお店の人に話し合わせて作ってもらったから中身はリンゴジュースです!グラスに入れて少し薄めたら今のチトセにはバレませんよ!」
ビリンがお札の力でツネジロウ達に話しかける。
「ビリン?」
「ふぇ?お父さんどしたのビリンさん呼んで?
あ!ビリンさんがお酒飲みたそうだよね?
ビリンさん、もうちょっと待っててね」
「今は神如き力で話してますから話し合わせてください!!」
ビリンは必死に呼びかける。
「よし、りんごの酒だな。ツネジロウ、グラスを出せ」
「はいはい」
「あ!」
「どうしたチトセ?」
「お札出してよ。補充してあげるよ〜」
「今か?明日で良いぞ?」
ビリンが遠慮がちに言う。
「お肉とお酒で元気満タンの私が今やるの!」
「そうか、それなら頼めるか?」
ビリンは千歳の扱いが上手く、あの手この手で千歳を不機嫌にさせない。
千歳の左側に座ったビリンは右手でお札を見せる。
「ん〜、左手で持って」
「え?だってお札をチトセに渡さないと…」
「いいの、試したかったのがあるの。
普段だと皆が冷やかしてくるからやらないけど今日はカーイさんの事もあってモヤモヤしてるからやってあげる。
左手で持つ!」
「わかったよ。これでいいのか?」
言われた通り左手でお札を持つ。
「よろしい。では右手を出して」
「こうか?」
そう言うと突然千歳がビリンの右手を掴む。
その繋ぎ方は恋人繋ぎだ。
「チトセ?」
「手くらいで照れないの。
そうやって照れるから皆が冷やかしてくるんだよ?
行くよ!神如き力!!」
千歳から出た力がビリンを経由してお札に収まっていく。
「チトセ?」
「いい感じに入ってるね。
この前のアートに人形を作った日にこうしたらビリンさんが神如き力を使ってもビリンさんの身体を通した力だから負担が減ると思ったんだよね〜。
それにしても沢山入るね。
何に使ったの?」
「チトセがそれ言うのかよ?ここまでギリギリだったんだぜ?」
ビリンが呆れながら千歳にツッコミを入れる。
「ビリン?何があった?」
「あ、聞きます?聞いてくれます?」
そう言うビリンの目には涙が浮かんでいた。




