第321話 皆に見られて恥ずかしくて…。
うぅ、緊張してきた。
今日はカーイさんとのデートだ。
大人の男の人とのデートは初めてで緊張してしまう訳で時計の針が進む毎に緊張が物凄くなっていく。
私は遅めの朝ごはんの後は悶々としてリビングでウダウダとしていた。
お母さんはそれを見て声をかけてくれる。
「大丈夫?」
「ダメ」
お父さんも気にしてくれる。
「断るか?」
「それもダメ」
「難儀な奴め」
「仕方ないのよ」
「ビリンの奴はなんか言ってたか?」
「ビリンさんは関係ないよ。
まあでも止められるほど男が磨けてないって言って悶々としてたなぁ」
「可哀想な奴」
「ビリン君は立派な男の子よ?」
「それを決めるのはビリンさんで私達じゃないよ」
何でここでもビリンさんの名前が出てくるかな?
きっとこの前のジョマの写真から勘違いが加速している気がする。
そろそろ約束の正午だ。
「もう行くよ。ファーストでデートだから長くはならないと思うよ」
「気を付けろよな。後ツネノリがなんかあったら顔を出せって言ってたぞ。受験の理由が無くてもこれで来れるだろ?ってなんの話だ?」
「ツネノリめ…」
多分15歳になる半月前にザンネさんとカーイさんを断ったことに気付いていたか。
「いいの。こっちの話。んー、あまりないとは思うけど一応ゼロに寄るかも」
「はいはい。ルルさんにワガママ言うんじゃないわよ?」
「はーい」
私は約束された神殿の屋上に行く。
「千歳さん!」
「異界の門」の前にカーイさんが待っていて笑顔だ。
「おはようございます」
「おはよう、と言ってもお昼だけどね。少し待ってね」
「え?」
「キヨロスさん!お願いします」
カーイさんが王様に何かを頼むとカーイさんがみるみる若返っていく。
「今日のコンセプトは「もし仮に千歳さんが僕を選んでくれたら」だからキヨロスさんに年齢制御を頼んだんだ。明日の朝までこの姿なんだってさ、さあ行こう。今日の千歳さんは普通の18歳の少女として過ごしてね。神如き力は使わないでね」
「…はい」
「どうかした?」
「カーイさんが格好良すぎて照れてます」
「あはは、ありがとう。千歳さんは今日も綺麗だよ」
普通に言われて照れてしまう。
きっと顔は赤い。
でもそれを口にしないカーイさんが優しい。
「さあ、今日の時間を僕にください。
「異界の門」よ僕達をファーストガーデンに連れて行ってくれ!【アーティファクト】」
門が開くと私達は光に飲まれる。
この光、散々ジョマに使われた召喚の光に似てるなぁ…、懐かしい。
光が晴れるとセンターシティのスタッフカウンターの前に居た。
「あ、千歳様。こんにちは」
「こんにちは」
「カーイさん、ご予約の件はバッチリです。
お相手が千歳様だったんですね」
「ありがとう。不慣れなので助かりました」
「いえ!また言ってください」
顔を赤くしたスタッフの人がハキハキと応対する。
「さあ、千歳さん。まずは洋服を買いましょう?」
「服?」
「折角だからね。
そう言ってカーイさんが私の手を引いてセンターシティを歩く。
ファーストのセンターシティは南国基調なので冬でも暖かい。
皆薄着でカフェも店内よりテラス席が賑わっている。
「千歳様!こんにちは!」
スタッフの人達が皆声をかけてくる。
中にはカーイさんを見ていろめき立つスタッフも居た。
「ふふふ、千歳さんは人気者だね」
「勇者の娘で妹だからってだけです」
私は皆に見られていると思うと赤くなる。
「千歳さん?」
「照れます。皆に見られて恥ずかしくて…」
「そっか…、僕は生まれた時から王子だからあまり気にした事が無かったよ」
カーイさんが成る程と言う。
用品店に着くと何もかも決まっていて私には普段着ない黄色のワンピースと可愛らしいヒールのサンダルが用意されていた。
胸元の開きと肩が無いのが気になる。
肌面積が多いな…
「千歳さん!似合ってるよ!」
「そうかな?黄色は普段から着ないし肌が出る服も着ないから恥ずかしいかな…」
「嫌なら上着も貰うけど、もし良ければそのまま居てくれないかな?」
「…はい」
「一応上着買おうか?寒かったら嫌だよね?」
カーイさんはそう言って白のカーディガンも買ってくれる。
「さあ、少し回ろう」
そう言ったカーイさんに手を引かれて歩き出す。
カーイさんは明るめのシャツとスラックス姿だ。
やはりイケメンは何着ても似合うし凄いな。




