第306話 お帰りの時間。
「さて、シエナ。いい加減帰るよ!」
日が傾き出した所でキヨロスがシエナを呼ぶ。
「もう?早くない?」
「早くないよ。ほら、戦神とザンネと兵達にお礼を言って」
「はい。
戦神様、2日間ありがとうございました。
兵士の皆さんもありがとうございました。
貴重な体験が出来ました」
シエナがお礼を言うと兵士達は「食の女神様!ありがとうございました!また来てください!」と口々にシエナにお礼を言う。
「シエナよ、たった2日だったが指揮能力の高さには驚かされた。
私もとても楽しかった。
また来てくれ」
戦神が嬉しそうに声をかける。
シエナは深々と頭を下げて「はい」と言う。
そしてザンネを見る。
「ザンネさん。ありがとうございました」
「いや、俺の方こそ素敵な体験をさせて貰えた。
ありがとう」
「…」
「…」
2人はそう言うと見つめあって黙ってしまう。
「はぁ…、まったく…。
シエナ、寂しくなったら言いなよ。僕が送り届けてあげるかザンネを呼びつけるよ」
呆れたキヨロスがシエナに言う。
「パパ!!」
「まったく、ザンネの事も黒い僕ではなくて僕に言えばいいのに」
「だって…」
シエナがモジモジとする。
「まあいいや。ザンネ、いつ挨拶に来るの?
国同士の事とか取り決めとか知らないから段取りは任せる。
シエナへの想いは全て見させて貰った。
後は僕の奥さん達を納得させるように頑張りなよ」
「すぐにでも行きます」
「…すぐは寂しくなるな…」
「パパってば」
「済まないがそこは俺も譲れない。
早いうちにカーイに報告をして準備を進めたい」
「ザンネさん」
「まったく、そこまで言ったんだからシエナを幸せにしてくれよ?」
「任してくれ」
そう言ってザンネはノースに、キヨロスとシエナはサウスに帰る。
「お帰りシエナ」
「大軍指揮、見事だったわ」
「うまくいって良かったね」
「ママ達!!」
シエナは喜んでジチ達に抱きつく。
「おめでとう。良かったね」
「ママが料理を教えてくれたから!
それにリーンママがお風呂の沸かし方を教えてくれたし、フィルママのお茶の話とかあったからだよ!ママ達ありがとう!!」
「でも10人が当たり前だったから1人減るのは寂しいねー」
「本当、でも我慢するのが親の務めよね」
「まったく、リーンちゃんもフィルも子離れできてないなぁ、その点お姉さんは…」
そう言ったジチは泣いていた。
「ママ!」
シエナがジチに抱きつく。
「ママは寂しくないの。
嬉しいから泣いてんだよ!」
「うん、わかってるよ。ママ、これ返すね」
シエナはジチの手鏡を渡す。
「あ、これママのだけどママのじゃないんだよ」
「え?でもこの鏡はママの宝物…」
「シエナから返したいよねぇ、キヨロスくん?なんとかしておくれよ」
「うん。わかったよ。来ていいよ。後は僕が何とかするよ」
キヨロスがそう言うと目の前に黒いキヨロスと抱きついているジチより少し若いジチ達が居た。
「シエナ、来ちゃった。その鏡はママのだよ」
昨晩、鏡を送ってきたのはコピーガーデンのジチ達だった。
「黒パパ!向こうのママ達!!」
「ほら、行ってらっしゃいな」
抱きつかれてたジチが笑顔でシエナを送り出す。
送り出されたシエナはコピーガーデンの4人の所に行って抱き着く。
「鏡を送ってくれたのはこっちのママなの?」
「そうだよシエナ、年齢制御だって僕の方が得意だからね」
そう言って黒いキヨロスは千歳とキスをした時の二十歳頃の姿になる。
「僕だってやれる。回数だけは君の方が多いだけだろ?」
そう言いながらキヨロスも若い姿になる。
「ウチのキヨロスくんがね「ザンネが年齢を言い訳に使ったら強制的に若返らせてやる!」って言ってさ、キチンとプライバシーには配慮しながら見てたんだよ。
それでママもどうにかシエナの背中を押したくてね。鏡を送って貰ったの」
「おめでとうシエナ」
「リーンママ!」
「4年違うだけでこんなに綺麗になるのね。幸せになってね」
「フィルママ!」
「黒パパ、私が相談したから大変だったよね?ごめんなさい」
「いや、シエナに頼られて嬉しかったよ。
それに後の事はこっちのチトセとツネノリ、後はこっちの僕とジチさん達だから謝る必要は無いよ。
シエナが僕に言うって行動を起こした結果だよ。良かったね。おめでとう。
本当はゆっくり話したいんだけど、あまり長時間居ると怒られそうだから帰るよ。
じゃあね皆!」
そう言ってあっという間に黒いキヨロス達はコピーガーデンに帰っていく。
「まあアレだね!お姉さん達も2倍になれば子供達の幸せは確実だよね!」
「そうだね」
「まあ、今は暗いのが2人居ますけど…」
「え?」
シエナは何のことだかわからなかったがその謎はすぐに解けた。
「ズルい!なんでシエナは上手くいったの!」
「パルマ姉…」
「私だってテツイ先生に若返って貰って一緒に過ごしたい!」
「…ザンネさんが若返ったのもパパ達のおかげだからパルマ姉もやってもらえるよ」
「なんか上から目線に感じる!」
「えー…」
パルマは珍しく荒れていて手がつけられなかった。
そして何より暗いキノコが生えそうなビリンが部屋の隅で正座していた。
「ビリン?どうしたの?あなたコピーガーデンのメリア達のために一肌脱いだって…」
「ああ、お帰りシエナ姉さん。
姉さんは恋が成就したんだってな。
おめでとう。
ザンネさんがチトセの周りから消えたのは良かったけど俺も消えたんだよ」
そう言って深いため息をつきながら腐るビリンの顔を見て驚いた。
ビリンの左頬に平手…ビンタの痕がついていて腫れ上がっていた。
「ビリン?あなたその顔どうしたの?」
「…チトセに殴られた」
「何やったの?」
「仕事をなんだと思っているの!って殴られた」
…シエナが理由を聞くととんでもない理由でビリンはチトセに殴られていた。
「それはチトセもそこまで怒ってないと思うけど…」
「いーや、俺は嫌われたよ。とほほほほ…」
落ち込むビリンを見てシエナは一肌脱ぐかと思っていた。




