第174話 俺はビリンの言葉でようやくそんな日があった事を思い出した。
ペックさんの説明でテッドと言うプラスタの話は理解できた。
未だにわからないのはアーティファクトをあれだけ使える事だ。
「あの…良いですか?」
恐る恐るメリシアが前に出てきて千歳に話しかける。
「何、メリシアさん?」
「あまり考えたくはありません。
でも仮にです。
仮に私が回復のアーティファクトを持たないのに回復の力を使えるのと同じなら…」
メリシアは一度目…タツキアで死ぬ時に回復のアーティファクトを装備したまま死んだ。
そして死後肉体を離れたメリシアの魂に回復のアーティファクトがついていて、そのまま蘇生をしたメリシアは回復のアーティファクトが無くても回復が出来る身体になっている。
「え?それと同じって…」
千歳が血の気の引いた顔でメリシアを見る。
「千歳様、落ち着いて聞いてくださいね。
恐らくですが、ツネノリ様や千歳様の「光の腕輪」マリオンさんと私のアーティファクトの鎧。後は火から風までの全てのアーティファクト。
そんなものを無理矢理持たせてから殺して、その魂でプラスタを作れば…」
…途中から聞かなくてもメリシアの言いたい事がわかっていた。
まともな人間の考える事では無い。
「嘘だ…」と言って千歳は首を振る。
「まだ終わりません。
そして、千歳様も知らない命を燃やして力に変えるアーティファクトを超神が作っていて持たせていたとすれば…。
いえ、そもそもアーティファクトを作れるのなら…光の腕輪も私達の鎧も全部作る事が出来ます。
もしかすれば問題点を全て「命と引き換えに高威力にする」と言うものにしたのなら…」
「やめて!!」
千歳が声を荒げてメリシアを見る。
その眼にはうっすらとだが涙が浮かんでいる。
「落ち着くのだ千歳!」
母さんが千歳を抱きしめて落ち着かせる。
「辛いが堪えるんだ。
お前は神なのだろう?
まずはプラスタを救おう。
次が視覚神、今は超神だったな。奴を葬ろう」
母さんが「いいな」と言うと千歳は震えながら頷いた。
動揺した千歳ではなくキヨロスさんが話を進める。
キヨロスさんが気になっていたのはいつ超神がそれをやったかと言う所だった。
確かにキヨロスさんと東さん、ジョマの監視を抜けてゼロガーデンにプラスタを用意するなんて不可能に近いと思う。
それこそ神業だと思う。
そこにキヨロスさんの奥さんの1人、ジチさんが質問を始める。
ジチさんの質問は何故プラスタ、テッドが持つ祝福が俺やマリオンさん達なのかと言う事だった。
ジチさんの疑問は確かにその通りだった。
超神の人を人と思わない考え行けばプラスタの心が壊れる事も厭わないだろう。
そうなれば「光の腕輪」もジョマが俺達の為に作ったレプリカではなく父さんの持つオリジナルの「勇者の腕輪」にしただろう。そして俺の技術はどれも未熟で先生である、ザンネ先生、テツイ先生、マリオンさん、キヨロスさんの誰にもその分野では敵わないのだ。
ではなぜ俺なのか?
そしてジチさんの質問は瞬間移動についてになる。
キヨロスさんの「瞬きの靴」なら一度言ったことがある場所と言う話にはなるが全世界を何処でも瞬間移動が可能だ。付与機能で高速移動も出来る。
俺がジョマに貰った「瞬きの腕輪」は「瞬きの靴」のレプリカだが問題点が魂を削る事から1日に1度と言う回数限定になっている。
ビリンの「瞬きの指輪」は魂を消費する事もなくなった代わりに距離も短いし高速移動も出来ない。
そうだ、何故だ?
突然千歳が「それだ!」と言う。
「ツネノリやビリンさんが良かったんじゃない。2人とマリオンさんしか居なかったんだよ!」
そして千歳が「仮にだけど」と言って話し始めた。
「仮に奴の能力でゼロガーデンにバレずに侵入出来たとしても、東さんにジョマ、後は王様と地球の神様を誤魔化すなんて不可能なのかも、だからプラスタを神殿に置くのが精一杯で世界中を回れなかったのかも知れない」
確かにそう言われればそうも思える。
「でもなんで俺とビリンなんだ?」
「4年前に神殿で作業をしていたのは、普段なら私と、カリンとマリカ、お爺ちゃんにリーク、後はルルとコイツにジチだよね?」
マリオンさんが合わせてくれる。
人形人間化…奇跡の少女計画と母さんは言っていた。
その計画は皆をまとめる役目のマリオンさん。
アーティファクト「命のヤスリ」を持つペックさんとカリンとマリカ、それとリークが素になる身体を作る。
母さんが人工アーティファクトで無機物の有機物化、人形を人間にする為に居る。
キヨロスさんがアーティファクト「究極の腕輪」でアーティファクトを使う際の問題点を無効化して、回復のアーティファクトで怪我や疲労を回復する。
ジチさんはご飯を作る為に神殿に居る。
「僕にバレずに神殿に入るなんて神様にも無理だよ。あの頃には神如き力の練習も兼ねて起きている間は常に「革命の剣」の光の剣に見張らせて居たんだ」
「そっか…、王様がいない日なんて…」
そう言って落胆をする千歳。
確かにキヨロスさんの居ない日…そんな限定的な日が…
「あった!あるぞチトセ!!」
「ビリンさん?」
ビリンが突然そんな日があったと言う。
「2月の真ん中頃の土曜日!一の村の爺ちゃんが調子を崩したって言うから父さんが一の村に行って、俺が代わりに一日だけジチ母さんと皆を守る仕事をしたんだよ!」
あの日か!俺はビリンの言葉でようやくそんな日があった事を思い出した。
「確かに!母さんも調子を崩していて1日だけ俺が代わった日があった。
そうだ!その日ならキヨロスさんも母さんも居ないで俺とビリンが神殿に居る!」
俺はビリンと一緒になって「あの日か!」「偶然が重なって」と思い出せたことで気分が高揚してしまう。
「何で?私知らない!私聞いてないよツネノリ!」
千歳が驚いた顔で俺に詰め寄ってくる。
「その日、千歳と東さん達はサードのプレオープンと言って忙しかったから心配かけたくなくて皆で内緒にしていたんだ」
そう、あの日ならビリンが居て俺が居て、キヨロスさんは居ない。
そう、その日は確か2月17日だったはずだ。