第169話 男達の集い①。
サードガーデンでのトラブルも落ち着き、千歳が今まで通り週末になるとゼロガーデンに顔を出すようになった頃。
ビリン主導のもと、ウエストの城にカーイ、ガイ、ガル、カムオ、ガリルが集められた、
「ウォホン!
諸君、先日は無事に覗きの神も捕らえられて神様から解決の言葉も貰った。
そして一度は神になったチトセも無事に人に戻って俺たちの元に帰ってきた」
ビリンがウエスト城の一室でいきなり話し始めた。
「いきなり呼び出して何の話なんだい?」
最年長、親世代のカーイが苦笑混じりにビリンに聞く。
「そうだ、何の話なんだ?
俺やガルは自宅だから気にならないがカムオ達が1番遠いいからここまで来るのは大変だろう?」
「…別に昨日の昼間に出発してずっと走っていたから余裕。平気だよ」
「いい訓練になったよなカムオ兄さん」
カムオとガリルが非常識な彼らの常識を持ち出して平然と答える。
「ビリンはどうやってきたんだ?途中で会わなかったね」
「俺?俺は瞬間移動を繰り返してきたから明け方の出発で間に合ったんだぜ。
カーイさんは?」
「呼び出されたから今日に合わせて城に前乗りして泊まったよ。
久し振りにガイとガルに稽古も付けたかったし姉さん達とも訓練したかったから良い機会だったよ」
カーイが人のいい笑顔で答える。
「それで、何の話なんだよ?
まあ、このメンバーを見れば想像つくけどさ」
「ああ、チトセの事だ」
ビリンが真顔で話すと皆が身を乗り出して真顔になる。
「サードでの戦いで俺達はご褒美を貰った。
まあ一部ポカして参加賞の奴もいたがな」
ガリルが悔しそうに「ぐっ…」と言う声を出す。
「その意見交換と今後のご褒美について話し合いたいから集めた」
「「「「「なるほど、それは有益だ」」」」」
ビリンの発言に残りの5人が声を合わせる。
「やった順に話そうぜ、まずはカムオだろ?」
「そうだね。俺だね。
俺はとにかくチトセさんの怒りを鎮めたくて抱きしめたんだ」
「どうだった?」
「ああ、あんなに華奢だとは思わなかったよ。
小柄ではないし痩せすぎとかではないんだ。
でもあれだけ強いのにあんなに華奢だったなんて…」
カムオが当時を思い出してしみじみと言葉を話す。
「バカヤロウ、戦闘力や筋肉量の話じゃねえよ。抱きしめた感想だよ」
「そう言うことか、柔らかかった。
そして凄く良い匂いがした。
抱きしめた事で緊張したチトセさんの鼓動が伝わってくるのがたまらなかった」
「成る程、それはたまらんな」
「俺も抱きしめるべきだったかな…」
ガイが悔しそうに言う。
「よし、次は…ああ参加賞か」
「ぐっ…、悔しい」
「まあガリル君はセンスが無いよね」
珍しく年長者のカーイが残念そうに言う。
「そうだな。あんなドサクサに紛れてキスを強要するなんて男らしくないぞ」
「そうだよ。そう言うのは千歳さんの気持ちがないと」
「あんまり責めては可哀想だよ。うちのガリルは握手だったんだから」
「よしガリル、握手の感想を言うんだ」
「うん、凄く小さくて暖かい手だった。
このまま手を離したくないって思える手だったよ。
もしかしたらカムオ兄さん…、いや皆損をしていると思う。
握手から始めるのが正解かも知れないよ」
ガリルがどこか達観をした顔で言う。
「何!?」
「くっ…、確かに…言えるかもしれん。」
「握手から抱擁で…」
「抱擁から抱きかかえて…」
「確かに悪くないかもね」
男どもはそう言って唸るがすぐに…
「だがあの状況で握手は軽すぎないか?」
「確かに!一応ゴミカスとは言え奴は神だ」
「命がけで握手は軽すぎると思う」
「確かにそうだね」
その声で達観をした顔だったガリルが残念そうな顔に戻る。
「よし、次は俺だな。
俺は奥手なチトセから抱きつくように指示をして「ありがとう」と言わせた。
普段の奥手さからすればかなりの大収穫だし表情も初々しかった」
ビリンが胸を張って説明をする。
「あれはすごい考えだった…、正直頭が回らなかった」
「チトセさんからと言うのがまずないからね」
「確かに、間近でありがとうも羨ましかったよ」
「あれを見て俺もご褒美考え直したんだよね」
「ガルは何を考えていたんだい?」
「俺はそもそも俺のためだけに千歳さんが作ってくれる手作りのお弁当を頼もうと思っていたんだよね」
「何!?」
「手作りの…」
「お弁当だと?」
「迂闊だ…、その考えは無かった」
「よし、今度千歳さんに頼んでみよう」と言うカーイの声に合わせて皆が「俺も」と言ったのは言うまでもない。
「次はガイとガルだね」
「じゃあ俺からだな。
俺は千歳さんに告白をしたかったからお姫様抱っこをさせて貰った。
千歳さんは軽くないとか変な事を気にしていたがそんなことは何も無かった。
変な言い方だが俺は千歳さんを抱きかかえながら世界中を旅して魔物なんかとも戦えると思った。
そして首に手を回してもらえたから顔がとても近くて、目も合うから幸せな気持ちになれた」
ガイがかみ締めるように言う。
「そうだね。チトセさんを抱きかかえると言うのが凄くよかったよね」
カムオがガイの考えに同調する。
「カムオ兄さんはガイさんと同じで背が高いから似合うけど俺やガルやビリンだとそんなに身長が高くないから似合わないんだよ」
「だがあれは後でジョマに見せて貰ったが捨てがたいモノがあった」
「背が伸びたらいずれやってみたいよね」
「「わかる」」
「次は俺だよね?
カムオさんの抱きしめとビリンの抱きつかれを見て考え付いた訳だけど、俺の力と千歳さんの力が合わさるあの感じは堪らなかったよ。
近くに居たツネツギさんがうるさくて堪らなさが半減だったけどね」
「あれは考え付かなかった」
「お互いに力を入れるって言うのがいいよね」
「そう言えばそのまま告白していたな」
「何!?」
「告白も効果的で大事だよね」
「さあ、最後はカーイさんだ」
「そう言われても僕は手を取って手にキスをしただけだからね」
「キスを…」
「しただけ?」
「くそっ」
「大人の余裕か…」
「俺達がやっても様にならないのが悔しい」
「まあ千歳さんの気持ちが無いのにあれこれやっても良くないからね」
カーイがそう言って微笑む。
結局そんな話から結論は、握手から初めて、その手にキスをして、抱きかかえて告白をして、抱きしめて、抱きしめられて、抱き合って更に告白してから手作り弁当を作って貰うのが理想と言うとんでもない事になった。