第144話 嫌いにならないでくれてありがとう。
私は結局3回着替えた。
適当に着替えるとお父さんとお母さんからアレコレ言われそうだから結局かなり悩んで厳選した。
2回目にお父さんの口添えで学校の制服を要求されて男って奴は…と思ったのだが、制服は珍しいから喜ばれた。
「似合ってんな!可愛いぞチトセ。今度それガーデンで着ればいいのに」
「やだよ」
「残念だなぁ、絶対にカリンやマリカなんかも喜ぶしジチ母さんも着たがるぜ?」
「…そうかな?」
…うーん、カリンさん達はまだ平気だけど…ジチさんはなぁ…
お父さん達も言葉に困っている。
「ご褒美ありがとなチトセ。ニホンに来られて良かったよ。ツネツギさんともお酒飲めたし、チアキさんのご飯も美味しかったし、チトセの可愛い姿も見られたから満足だ」
そうやって素直に感謝をされると照れる。
「いいよ。あの時も助かったし、神になった時にビリンさんに嫌われたと思っていたし、これでお礼と謝罪が済むならね」
私はそう言って笑う。
「別に嫌ってねぇだろ?」
「え?そうなの?」
私はあの時に嫌われたと思っていたので驚いた。
「あれは自己嫌悪の絶頂だよ。もっと俺がうまくやればチトセを神にしないで済んだのにってな…、あの時は悔しくて悔しくて仕方なかった」
ビリンさんが本当に悔しそうに言う。
「千歳」
「あなたのした行動がこれだけあなたを思っている人に悲しみを与えたのよ」
「うん…。本当にごめんなさい」
本当に何も言えない。
「ビリン、立てるか?」
「え?うん」
「千歳、ビリンの横に立て」
「え?」
「ビリン、千歳の服が一番気に入っていた制服じゃないがそこは我慢しろ」
「へ?何を?」
私とビリンさんが立って並ぶとお父さんとお母さんはスマホを出して写真を撮る。
「うぉ?」
「写真よ、ビリン君」
お母さんがビリンさんにスマホを見せる。
そこにはシャツワンピース姿の私とビリンさんが写っている。
「俺達からのお礼はこれだな」
「え?くれるの?」
ビリンさんが嬉しそうに言う。
お父さんの撮った方の写真も見て「へへ、髪の黒いチトセはやっぱいいな」と言って喜んでいる。
「東」とお父さんが東さんを呼ぶと「ああ、ガーデンでビリンに渡すよ」と東さんの声だけがした。
そこで終わるかと思ったが、「千歳、思っている事があるならちゃんとした方が良いよ。ゼロガーデンじゃ抵抗あるだろ?」と言われてしまう。うぅ…、バレてる。
「千歳?」
「うぅ…」
「チトセ?どした?」
ビリンさんが酔っ払いの顔で私を見る。
「うぅ…、あー!もう」
私はもう一度だけビリンさんに抱き着いてあげる。
「へぇ?チトセ?」
「お前…」
「まあ…」
ビリンさんが間抜けな声を上げて、お父さんとお母さんも驚いている。
「嫌いにならないでくれてありがとう。これはそのお礼よ。これでチャラね!」
「お礼……」
「何?不服?」
「いや、素直じゃないなぁチトセは…、抱き着きたいときは理由なんかいらないんだぜ?」
「はぁ?神如き力で痛覚倍化させようか?」
「やめろって、今だって辛いんだからやめろって!」
「じゃあゼロガーデンに送るわよ」
「あいよ。ツネツギさん、チアキさん。お邪魔しました。お酒と食べ物、ありがとうございました」
「また来ると良い」
「ええ、待ってますね」
お父さんとお母さんは暢気にまたおいでと言っている。
誰が連れてくるか。
「次は無いわよ」
「えぇ…、でもいいさ。まだ俺の神如き力残ってるから来れるもんね」
「えぇ?まだあるの?」
「ああ、ジョマからは3回分貰ってるからな」
「…じゃああと2回あるの?」
「いいや、後1回だ」
「え?使い試したの?」
「4年前になー…」
「4年前?」
「チトセを辱めた覗きの神を皆で痛めつけている時に、あのバカがチトセを悪く言いそうだったんだよ。それで頭に来てつい「瞬きの指輪」の威力を上げちゃったんだよ。超高速って奴な…」
「そう…なんだ」
「別にそれでご褒美を求めたりしねぇよ。俺の嫁さんをバカにした奴に報いを与えただけだから気にする事は無いさ」
うぅぅぅ…そんな事言われたら益々このままじゃ終われないじゃないか。
「出して」
「へ?何を?」
「ジョマに貰ったもの。きっと何かのアイテムでしょ?」
そう言うとビリンさんが胸から一枚の紙を出してくる。
「お札だ…」
「おう、んでこれを出して何するんだよ?まさか没収か?ヤだぜ?」
「そんな事しないよ」と言いながらお札を手に取って神如き力を使う。
「チトセ?何すんだよ」
「補充。これでチャラね」
そう言って私は神如き力を満タンになるまで入れたお札をビリンさんに渡す。
「へへ、あんがとよ。これでまた何かあったらチトセを守ってやるよ」
「…はいはい。もう酔ってるの?ほら帰るよ」
そう言って私はビリンさんを連れてゼロガーデンに行く。
…まさか東さんがこの時間を止めていたとは思わなかった。