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バグプログラム ゾンビもの  作者: 勇出あつ
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CASE0


 両親と小さな子ども二人の四人家族が美しい木々のなかを歩いている。子供は同じ顔、同じ背丈の双子である。

 踏みしめる土の香りと、やわい光と共に踊る草花。それらが家族をつつみこんでいた。

せっかくの遠出だというのにやることはピクニックとは名ばかりの山登りで、男の子は嫌気がさしていた。ほかの三人は植物に造詣(ぞうけい)が深く、好きなので楽しそうにそのことを話している。父が、これはこういう草だとか食べられるだとかいろいろ話してくれたが、男の子はというとさほど興味もなかった。

 二人の両親は学者で、妹の方は熱心に話にまじっている。男の子も、頭のいい妹や両親のように自分もなにか極めたいとは思っているが、木の魅力がどうとか言われてもよくわからない。

 見晴らしのいい丘でベンチに座って休んでいる間も父はずっと植物の解説をしていた。男の子が興味を示さないのがわかると、あの草は食べられる、あの木の実は食べられないなど話を変えてきた。

「そんなの知ってなにになんの」

 息子にたずねられ、父は眼鏡をさわってすこし考えたあと答える。

「無限の可能性さ。宇宙と同じ」

「世の中は不思議なもので、いまは平和でも、いつなにが起きるかわからないの。困ったとき知識は身を助けるってお父さんは言いたいのよ」

 通訳するかのように母親がわかりやすく教え、隣で父も(うなず)いている。

「なにかあったら自分と、大事な人だけでも守れる人間になりなさい」

 そう言って、母親は息子の頭にポンと手を乗せる。

 男の子は内心でそんなことできるかなと思いつつも、父がさきほど言った言葉を自分に言いきかせた。

 ハイキングコースの一部が木と木の間に貼られたテープによって封鎖されており、それ以上は進めなかった。

 引き返そうとしたとき、父が雑木林の奥になにか見つけそちらのほうに向かっていった。

 その先には業者が立ち入っているようで、作業服を着た人間たちが木や植物の採集などを行っていた。そのなかにひとり、白衣の男がまじっており一際目立った。

「なぜあなたたちがここにいるんですか」

 父が血相を変え強い調子で言い争っていた。知り合いらしく、白衣の男と口論になっており事情のよくわからない子どもたちは遠巻きにそれを見つめるだけだった。

 作業服の人間たちに父は押さえられ、白衣の男から引き離され戻ってきた。

 男の子は父にどうしたのかと聞く前に、向こうにいる白衣の男と目が合った。顔をよく見ると男はかなり歳がいっていた。

 その小皺(こじわ)の入った顔が、不気味に笑ったように見えた。

 子どもたちにとって、これが最後の家族の思い出となった。両親は職場の研究所で実験中の事故により亡くなったと聞かされ、以来会うこともできなくなった。



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