適材適所という言葉
「……うーん、やはりアイツだけじゃ全軍の進行は止められないか。まぁ、増え続けてるから仕方ないか」
ルナディムードが面倒くさそうに頭をかく。
……やはりってなんです? 今、やはりって言いましたよね!?
「まぁ、見てろ」
今の発言によってまたざわつき始めるみんなに、ルナディムードは徐々に進んでいる魔獣の波を見るように促す。
すると――
ズドン! ズドン! ズドン! ズドン! ズドン! ――前進する軍勢のあちこちに、先と同様の爆発が複数発生した。
「相殺じゃなく、軌道を逸らし魔獣の中に打ち込めば、簡単に止められ――痛っ!? 何すんだてめえ!」
得意げに解説するトカゲの頭を、私は思いっきり引っ叩いた。
「そんなことできるなら最初からしなさい!」
ごもっともな意見を述べる私に、トカゲは人差し指をチッチッチと揺らし、説明する。
「わかっちゃいねぇな。戦いを楽しむというのは――スリルを楽しっ――うがぁッ!? ……てめえ、俺の腹にボディブローを……ッ」
私の芯を捉えたボディブローを喰らい、トカゲは苦しそうにうずくまる。
うるさい。
戦いを楽しむ? ドラゴンの群れに放り込まれた心境だよ私は!
私に睨まれ、トカゲはやれやれとため息を吐いて、、
「全く、注文多い主は大変だ」
ぼやきながら、真面目に魔獣の軍勢を見つめる。
……それはこちらのセリフ。好きであなたを下僕にしたわけではありません。押し売りもいいとこな上に反抗的なオラオラ系と来た。
「――あ、一つ言っときたい事がある」
真面目に魔神の攻撃を魔獣の中に軌道を変えているトカゲは、思い出したかのように突如口を開いた。……嫌な予感がする。
「俺はライシェとおめえらがやられないように魔神の攻撃を防ぐが、迎撃まで手が回らねぇ。空中の敵はなんとかしろ」
……はい?
その言葉に釣られて、みんなは上を見る。
――そこには、見慣れたシルエットがいくつも飛んでいた。
「A級魔獣のワイバーンですか、なかなか荷が重いですね」
クラリア王子は剣を抜き、高速に急降下してくるワイバーンを見て苦笑する。
「じゃあ交換しても俺はいいぞ」
お前、魔神の弾担当な! と挑発するように、意地悪を言う古代トカゲ。
ワイバーンは、もうすぐそこに来ていた。首を伸ばせば、クラリア王子の喉を食い破れる距離まで。
「――冗談」
クラリア王子さんはフッと笑いを漏らし、短く告げた後に、消えた。――かと思いきや、いつの間にかワイバーンの背中に乗っていた。
「適材適所という言葉は、こういう時に使う」
剣を、鞘に収める。
次の瞬間――クラリア王子を狙ったワイバーンの長くて蛇にも似た首からプッシューと血が吹き出て、両断されていた。
クラリアはその死体から降り――
「迎撃を始めよう」
笑みを浮かべた。