表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/103

慣れって怖いね(上)




「……よし、大丈夫そうね」


 洞窟の入口から外の安全を確認する。


 数日かけてこの魔境に生息している危険な魔獣の活動を観察した結果、奴らが活発になる時間帯を把握し、理解した。

 グリフォンのような鳥の特徴が濃く現れている魔獣は、夜間では巣に戻って休んでいる。またワイバーンも夜行性はないため夜は同じく巣穴で休んでいる……と思う。正直翼の生えたトカゲの生態なんてよくわからないので、推測でしかないけど。


 それに万が一襲われた時のことも考えて、目くらましや刺激臭を放つ植物もバッグに入れてある。


 ここに来てから、自分の加護の限界を知ろうとしたけど、今のところはまだまだ見えてこない。

 特に試したことはと言えば、加護の出力や持久力、効果範囲など。


 出力については、本気出せば周りを平気で森に変えられるほどの力を持っている。特定の対象に限定すれば、一気に巨大化させることも可能。

 持久力に関しては、出力とセットの問題になっていて、全力で加護を使い続ければ、当然徐々に疲れてくる。しかし困ったことに、試しに一日中発動し続けてもちょっと疲れる程度で、スタミナ切れは起きていない。


 また、効果範囲は間接か直接かで著しく変わってくるので、なんとも言えない。

 直接接触は言うまでもないけれど、間接接触――例えば花粉や胞子を媒介にした場合、媒介の濃度や密度が激しく影響する。

 花粉や胞子などを経由している場合、対象に直接触れていないのに加護が効いている――傍からはそのように見えているけれど、実は途中の媒介同士が繋がっている――と、私なりに仮説を立ててみた。


(なので、たとえ襲われても植物の粉などを相手にふっかければ、それ自体が武器になるし、加護で遠距離操作できる)


 目くらましには羽毛草と玉ねぎ、撃退と時間稼ぎには唐からしとアンモニア草を用意した。

 今に着ているローブも自分で改良し、ポケットにいっぱい種や葉っぱを忍ばせてある。

 所々に大木の繊維を糸代わりに使っているから、再生させれば即席のウッドアーマーが出来上がり、最低でも一回の攻撃は防げる。


 私は覚悟を決めて、視線を洞窟の外から荷物に戻す。


(二人に留守番を頼んだのはいいけど、話聞く限り、あの村は結構の距離だよね。徒歩だと二日以上かかる……)


 ……魔獣がうろついている荒野のど真ん中で野営って、できればしたくないのだけど、他に選択肢はない。見張りと周辺警戒が必要なので、マンドラゴラちゃんを五匹連れていく。


(というかあの荒野、もしくは魔獣をなんとかする必要があるわね。毎回買い物行く度に二日歩いてとか、やってられないわ。道作って村の人に来てもらう――のはどうかな)


 途中の魔獣が一番の問題だと思うね……そもそもなんでここ、こんなに魔境なんだろう。


(まあ、考えるのは後でいいか)


 バッグの中にいる五匹のマンドラゴラに視線で、『準備はいい? 行くわよ?』と尋ねる。


 私の視線に、五匹が全員同時に頷いた。

 ……最近よく思うことだが、コイツラはもしかして全員テレパシー使えるんじゃねと疑っている。動きが明らかに以心伝心だし、謎のシンクロ率を常に見せている。


 元が植物だし、そういう事ができても不思議ではない。


 疑いの視線をマンドラゴラたちに向けていると、『どうしたの?』と五匹が言いたげに見つめ返してくる。……うん、そうね、マンドラゴラの生態は興味深いけど、今は村へと急ごう――と、私は意を決して外へと一歩踏み出した。





 ――踏み出したけど、まさかこんなことになっているなんてね。


(――あれどう見ても、危ない奴らだよね? 人さらい? 奴隷商? 盗賊?)


 頭の中はクエスチョンでいっぱいだ。


 洞窟から出て、途中魔獣に気をつけながら、無事に森を抜け出したところ、一息つく暇もなく、目に飛び込んでくる光景に反射的に草むらに隠れた。


 時刻は昼前、森と荒野の境界線上、その開けた場所に数台の荷馬車が止まっている。

 一列に並んでいる馬車の前に、後ろ手に縄で縛られている大勢の人間が、地面に真っ赤な液体を撒き散らしながら倒れているのが見える。


 呻き声を上げている人もいれば、ピクリとも動かない人もいる。

 男もいれば、女もいる。

 年齢は子供から老人まで。


 そしてその地面に倒れ、もしくは跪かせられている人達に向かって、見下ろしている人間が大勢いる。いかにもな風貌のソイツラは武器を手に握り、下品な笑い声を轟かせている。


 私は視線を見下ろしている奴らから、縛られている人たちに移した。


(……躊躇なく人を殺せる奴らか、これは面倒くさいわね。隠す気もないね、人が来ない魔境だから?)


 ヤバイ奴らまで引き寄せてしまう、魅力的すぎるだろう。流石魔境。

 草むらに隠れて状況を見守っていると、バッグの中から振動を感じ、視線を向ける。


『助けないの?』


 と、五匹のマンドラゴラが一斉に視線で問いかけてくる。

 頭を左右に振り、


『いや、無理無理。私、戦闘力ほぼゼロだもん。花を愛で、木を育ち、土いじりが趣味のか弱い聖女。――しかも二級に何ができる? これ以上被害を増やしたくないの』


 と、視線で答える。


 二級聖女の手に余るシチュエーションですよ、司祭長、エリスミーラ様、バルティア様。

 助けたいけど、飛び出して行ったら、被害者の女の子が一名増えるだけだよ。殺傷能力のある植物はあいにく、持ってきていないの。


 再び視線を奴らに戻し、観察する。

 私が隠れている間も、奴らは一人、また一人、縛られている人を弄ぶように殺していく。


 ざっと見た感じ、二十人以上はいる。もちろん全員武器を持っている。


 死にたくない人は叫びを上げて逃げようとするが、足も縛られている為遠くへは逃げられなく、すぐ追いつかれて殺されてしまう。


(……というかコイツラの頭は大丈夫か、人を殺してあんなに騒いで、なんかワイバーンが来そうなんだけ、ど――)


 その時だった。

 私の疑問に返事するかのように、上空に突然でかい黒い影がいくつも現れ、急降下し始める――ワイバーン。いや、よくよく見ると、グリフォンも何匹か混ざっている。

 ――餌を、食べに来たんだ。


 流石にこれは奴らも気づいた、武器を持ったヤバイ奴らは大声を上げ、仲間に応戦を呼びかける。

 ――が、普通は軍隊か、英雄級の人間が対処する魔獣を、見るからに烏合の衆が対応できるはずもなく、瞬く間に一人、また一人と食い殺され、数を減らされていく。


 突然現れた強力な魔獣に、縄で縛られている人たちも驚いている。悲鳴を上げている人――乗じて逃げようとする人――場はますます混乱になっていく。


 その状況を見て、心の中で小さくため息を漏らした。

 バッグを地面におろし、中からマンドラゴラたちを出す。


『誘導お願い』


 私は目でそう伝え、

 マンドラゴラたちはすぐ理解し、五匹が一斉に、


『ラジャー!』


 と、私に向かってビシッと敬礼し、躊躇なく飛び出していった。

 それを、草むらに隠れながら見守る。


 魔獣たちが餌に気を取られている間ならば、気付かれないだろう。混乱している今なら、助けられるかもしれない。

 私はマンドラゴラたちに、優先的に生存者を誘導するように言った。


 人間と違って、魔獣はそこまで知能高くない。

 ヤバイ奴らが相手なら、仮に救出が成功したとしても、追跡されて、洞窟の場所を突き止められ、一網打尽される可能性がある。


 人間はしつこい。私、性格悪い奴の行動パターンは熟知しているからね。伊達にカルト野郎と長年暮らしてないわ。


 その点で言えば、本能に従い行動している魔獣は読みやすい。

 と、得意げに笑みを浮かべている私だったが、一つ、失念していたことがあることに気づいた。


 ――普通の人間は、二足歩行しているマンドラゴラを見て、驚かないわけがない。


 案の定。


「……ッ!? マンドラ、ゴ……ラ……?」

「……う、うあぁあぁああ!!! 化け物ぉ! 来るなぁ!」


 人間の中、何人かは『よっ』と手を上げて友好を示すマンドラゴラを見た瞬間、叫びを上げて逃げ出す。マンドラゴラたち善意でやったんだろうけど、逆効果だった。


 あぁ、違うんです。あの子達はいい子です。誤解なんです。

 ほら、私が一生懸命デフォルメしたんです。見てください、この愛らしい見た目。

 逃げないでください。おーい、そちらはワイバーンですよ、おーい。


 助け(?)に来たマンドラゴラと逆方向へ逃げ出した人たちは、丁度餌を食べ終わったワイバーンと目が合い、次の瞬間ワイバーンの首が伸び、パクっと食べられてしまっていた。


 言わんこっちゃない。見なかったことにしよう。

 それより他の人の救助。まだ生きている人はいる。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ