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野良村人ズ




「あ、リヴィエ様だ。おはようございます」


 散歩していると、私に気づいた作業中の村人は慌てて仕事を放り出し、敬うように丁寧に頭を下げてくる。

 彼だけではなく、その後に出会うみんなも、ほぼ全員、以前より私への対応が悪化した。

 ……そう、”悪化”した。


 私に気づくとみんなは必ず頭を下げるし、礼儀正しく挨拶をする。

 そして必要以上に私のことを敬う。


 その光景を見ていて面白いのか、背後でおとなしくついてきている性悪トカゲは笑い声を漏らす。


「……クックック、面白ぇな」


 私はこらえきれず無礼極まりない下僕を軽く睨むが、残念ながら効果なし。


「リヴィエ様、今日も古代龍様を連れて巡回しているのですね」

「……えぇ、まあ」


 また、別の村人にうやうやしく一礼される。

 ……どうしてこうなったのだろう。はぁ……。


 ため息と共に、あの日の記憶が浮上する。






 ――失敗だった。

 いえ、成功だけど、失敗だった。

 そうとしか言いようがない。


 ルナディムードを紹介する時、最初村人達は私の予想通り、不安そうな反応を見せていた。


 当然だ。

 目の前のコイツが伝説上の生物と言われ、数百メートルのドラゴン姿まで見せると、正常な人間は恐怖を感じるだろう。

 

 ――ここまではいい、問題はこの後だ。


 ……私は、自分に害意や敵意のある相手の場合、あらゆる可能性を考え、幾重にも策と罠を張り巡らせ、対処してきた。

 そういう相手に騙し合いではまず負けない自信がある。読み合いで相手の行動が手に取るようにわかる。

 正面突破は無理でも、搦手で丸め込めれば実力の差はある程度無視できる。

 弱い私が、ここまで生き残った秘訣だ。


 ……が、逆に言えば、善意しか向けてこない相手には――とことん弱い。

 熱狂した村人を前に、初めてそれに気づく。

 私に無条件に善意と好意しかない相手に、冴え渡る私の頭は働かない。 

 それが、私の犯したミス。


 ……それに思いもよらなかったわ。まさか、村人達が私のことを龍殺しの聖女などと言い出し、挙句の果てに崇めるなんて。


 ツッコミたい。

 殺していないし、倒してもいないと説明したいけど、聞き入れて貰えそうにないくらいの盛り上がりだった。

 あなた達、二級聖女を過大評価してませんこと?





「……性格悪っ」


 ボソッと呟く。

 あの時、ルナディムードはニヤリと笑ったような気がしたではなく、ニヤリと笑ったのだ。

 人間より頭いい古代龍の彼は、私より早く状況を把握したのだろう。 


「人聞き悪いな。慕われてんだろ? もっと喜べよ」


 無礼な下僕トカゲがニヤニヤと笑いながら、相変わらずオラついた態度でついてくる。

 ……下僕セールとか奴隷オークションに出せるかな? ほしくないわ、こんなヤツ。誰か買い取って……いいえ、引き取ってください。


「……慕われて困るのよ、逆に」


 いつかは旅立つ身としては、辛い。

 飼えない野良犬に懐かれると困る、アレと同じよ。


「……何だ、コイツラのこと嫌いなのか?」


 私と一緒に歩きながら、ルナディムードはあちこちで作業している村人をちらっと見て、尋ねる。


「好きよ。でもずっとここにいるつもりないわ」


 ストレートに答える。

 秘密を抱えている私は、早く神殿の目が届かない遠い国に行きたい。その前は貯金ね。


「……なんで? 何か事情でもあるのか? そういや聞いてねえな」


 人間より頭がいいトカゲは察した表情で聞いてくる。


「……実はカクカクシカジカで」

「……糞女てめえ、話す気ねえだろ! 全然わからねえ」

「察して。空気読んで」

「カクカクシカジカで?」

「うん」

「……できるかっつーの」


 どうやらいくら頭が良くても心まで読めるわけではない。


「……まあ、ルナディムードならいっか。私はね――」


 と、彼なら巻き込んでも大丈夫だろうという、ゲスい考えでサクッと打ち明けた。

 で、私の話を聞き終えたルナディムードは、


「……宗教か、人間はよくわからん。同族で争ってどうするんだ」


 面倒臭そうに頭をかいた。


「全くその通りでございます」


 神々のせいでやべー同僚にバレたら殺されるなんて人生辛すぎるわ。


「んで、なぜ俺に打ち明けた?」

「良い質問ですね、理由は三つあります」

「三つもあるのか」

「まず、私の加護についてすでに知っているからです」

「……見りゃ気づくだろう」

「これが案外、気づかないものですよ。癒やしの女神の加護に間違えられるくらいだから」


 実際、加護の力が強すぎて、植物にまで効果があるエリスミーラの一級聖女は、これまでの歴史の中、三人存在している。

 更に言えば、一人はバリバリの現役である。


 当初神殿のみんなは私を誘拐――コホン、保護した時かなり喜んだらしい。

 何々聖女様の再来だとか、結構期待されていたが、加護の出力測定で私が一級に遠く及ばないだと知ると、「宝石だと思って拾ってきたらゴミだった」とかなんとかぼやいていた。

 ……ひどい言われ様にショックを受けた私の身にもなってほしい。


「二つ目は?」

「二つ目は、私はあなたのことをよく知っているからです」


 派手に殺し合ったからね。実力は知っている。


「なるほど。俺への信頼か。そりゃ気分がいい。最後は?」

「最後は――あなたなら共有したところで、殺されはしないでしょうし、例え神殿の人があなたを殺し、死んだとしても私は痛くも痒くもありません。実力も知っているから簡単には殺されないだろうとわかっていますので、信頼しています。あわよくば神殿の追手と争って共倒れ目的で、私の盾になってくれたらいいなぁ~なんてぇ」

「――そっちの信頼かッ! てめえ、全てが台無しだ」


 ……すごく不満らしい。私はあくまで合理的で効率的な解を出しただけなのに。




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