ひどい話である
「――創造主様?」
反応を伺おうと、痴女は私へと振り向いたが――無言で固まっていることに気づき、気遣う声で尋ねてくる。
……正直困るわ。
流石の私も、人体からマンドラゴラが生えたら、言葉に困る。
「……うん、大丈夫。私、大丈夫」
心の中ではなく、あえて口に出す。もっとも、何が大丈夫なのかはわからない。
そしてこれだけははっきり言わせてもらう――決して言い聞かせではないと。
リヴィエ、強い子。
「これで信じてもらえたのでしょうか? 私がマン――」
「今日の晩ごはんは何にしようかな」
「――あの、創造主様?」
突然無関係の話題に切り替えた私に、戸惑う痴女。
「理解できているが、受け入れるのを拒否している感じだな」
そして第三者の視点で冷静に分析する古代竜。
客観的で的確な分析どうも、そんな分析求めてないけどね。
「――はぁ。わかった。……手を貸して」
「はい、喜んで」
痴女は至高な栄誉を受け取るかのように、嬉しそうに細い手を伸ばしてくる。
その手を――掴む。
――私の加護は植物にしか効果がない。痴女に発動したらはっきりとわかる。
意を決し、痴女の手に加護を発動。
さあ、どうな――る?
証明する最後のピースのように、加護は無事発動し、彼女の体に巻き付いている植物はより一層活力をみなぎらせ、生き生きしている。
破った皮膚の部位に目を向けると――もう完全にきれいに治っていた。
同時に理解する。
その手から人間と全く同じ感触と鼓動を感じながらも、奥からは大地に根付く緑の魂の息吹を感じる。
見た目と感触は完璧に人間だけど――異なる生物。
――強い魂の輝きは、本能的に彼女は古代竜に近い種族とわかる。
「お力を頂き、ありがとうございます」
ペコリと優雅に頭を下げる痴女。
私は心の中で小さくため息をつき、腰のバッグから羽毛草とその他色々を取り出し――加護でドレスを作った。
「……これ着なさい、そんな裸みたいな格好でうろつかないで」
「いいのでしょうか? わざわざ私のために手を煩わせてしまいまして……」
「むしろ着てくれないほうが困る」
「――はいッ! 一族末代までの宝物にしますわ」
植物のドレスを愛おしそうに抱きしめる痴女。
……愛が重い。
「それと……どの個体だった?」
早速嬉々として着替える痴女に尋ねる。
一応、おおよそあの子だろうなとわかっているけど、念のため。
「はい! 蕾の子です」
「ワイバーン後の?」
「はい!」
やはりあの子か。
そう言えば名前はまだないって言っていたよね。
「名前がないと不便だから……ほしい?」
ずっと痴女痴女ってわけにも行かないしね。
マンドラゴラの時はみんな以心伝心で、一体に伝えれば全体に伝わるから、特に困らなかった。
「はい。創造主様から名をいただけるなんて、幸せですわ」
「んじゃ――リティ」
特に他意はない。いい響きだから。
「はいッ!」
「さて、リティ、説明していただこう――どうして人型になった?」
「そうですね――」
痴女――リティは説明し始める。
彼女はもともと私が最初に作った――初めての動くマンドラゴラ畑の中の一匹で、別に特殊な個体ではなかった。
生活していくうちに、グループの成長に伴い、精神ネットに蓄積された情報と経験により、一匹一匹が人間以上の演算能力を保有していた。
また、精神ネットによる全体の繋がりと植物の特性上、マンドラゴラは絶え間なく周囲から情報を取り入れ――自分達以外の生物――私とその他を観察することによって、精神ネット中で擬似自我と人格が芽生えつつある。
しかし――もとの植物としての特性が強すぎる故か、完全な目覚めはなかった。
大きな変化が訪れたのは、いつぞやのワイバーン戦。
これまでは単なる好奇心と観察学習によって、様々なことに挑戦してきたマンドラゴラ達が――初めて格上の強敵を撃破。
蓄積されていた経験が、精神ネットの中で弾け、生まれようとしている。
それが――蕾として表に現れている。
「なぜ私なのかと言いますと――単純に運が良かった」
とリティは言う。
精神ネットワークの特性上、蓄積していた情報量は等しく一匹一匹に共有されていて、ほとんど差はなく、誤差の範囲だ。
強いて言えば――あの戦いの中で――リティの役割は指揮塔だった。
一体すなわち全体という特性上、仕事をする時は役割分担が必要になってくる。
攻撃を担当する組、防御する組、補助する組――指揮する組。
群に大きな影響をもたらす戦い――指揮官担当だったため、リティは戦いの後、全体の指揮塔に向いているという認定された。
繰り返して言うが――マンドラゴラの間に差はほとんどなく、選ばれたのは単純にランダムだった。
運がいいのか悪いのか――幸にも不幸にもあの戦いでこれまでの疑似自我と人格は激しい成長を遂げた。
そして――古代龍戦。
神にも匹敵する神代の龍族を倒すことにより、全く新しい種族が生まれた。
「異議あり。倒していない――いや、倒しはしたけど、殺していないよ?」
異論を唱える私。
視線はベッドの上に座っているルナディムードに向ける。――だってピンピンしてるんだもん。コイツ。
「はい、厳密に言いますと、黒龍との誓約によって、創造主様は古代龍の主になり――」
リティは軽くうなずいて、
「――それによって創造主様の眷属に属する私達は進化できました」
なるほど――謎はすべて解けた! ひどい話だね、全く。




