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世界樹の実の下でひっそりと生息するマンドラゴラ




「じゃ、飲ませるね」


 子供獣人――ウマは私の言葉にコクンと頷き、もう一匹の同胞――エマに私が調合した薬を飲ませる。


 あの後、お芋を食べたウマは少しずつ力を取り戻し、今はすっかり元気になっている。完全に、ではないが、警戒心が薄れたウマは私の指示を聞き、火を起こし、手伝ってくれている。


 その間エマの状態を診てみたんだが、かなり衰弱していて、今急いで薬を飲ませようとしている途中。

 無事飲み込んだのを見届けてから、私はウマに、


「突然で悪いんだけど、獣人って寝るとき布団とか使う?」


 と尋ねる。


「え?……使わない」

「そうか、まぁ、エマが起きてからでも遅くないか」


 質問の意図を掴めず、困惑の表情を浮かべるウマ。


 しかし私は説明より先に、手に握っている羽毛草に加護を発動する。

 すると、羽毛草――その名前の通り、白い羽根のような草がボンボンと大量に増殖していき、手の平からボロ屋の床に零れ落ちる。

 それは、まるで大量の鳥が一斉に羽ばたいたような光景だった。瞬く間に床は私の手から湧き出る白い羽根に埋め尽くされ、ふかふかのベッドが出来上がっていた。


「……ベッドはこれで良し、と。次は……」


 エマに飲ませた薬が効果を発揮するまで、まだ少し時間あるので、私はベッドを作り、お芋を焼き、周囲の侵入を防ぐ柵を整える。

 その間、ウマは口をポカンと開けて見つめていた。


「お姉ちゃん、すごい。魔法使い?」

「いいえ、ただの二級聖女です」

「……二級、聖女?」


 ちょっぴり悪戯な笑みを浮かべ、ウマの質問にはあえて答えない。


 そう、これがまたムカつくのよ。

 なんとエリスミーラ神殿では、聖女とは一言で言っても、一級二級三級と、実力に応じて分けられている。

 当時は聖女、聖女! と喜んでいたのに、蓋を開けてみれば二級ですって。詐欺に遭った気分だわ。


 そして三級は聖女と名ばかりの、ただのシスター。まあ、聖女って呼べば聞こえはいいし、神殿の彼らにはそのほうが都合いいのかもしれないわよね。


 その中で、名ばかりの三級と違い、二級は実力者と判断された者。更にその上の一級は本物の化け物にしか与えられない級別。

 私の神殿生活の中で、その化け物は一人しか見たことないわ。できればアイツとはもう関わり合いたくないのだけれど。


 過去の記憶を思い出していると、ようやく薬が効いてきたのか、エマが意識を取り戻し、呻き声を上げる。


「……う、うう……」

「エマ!」


 ウマが心配そうに慌てて駆け寄る。


 無事に意識を取り戻したエマと、看病するウマ、二人の様子を眺めながら、私はウマとの会話を思い出す。


 聞けば、エマが昏睡状態に陥っていたのは三日前、看病するために自分も遠くへはいけなくなり、結局二人は徐々に衰弱していった。

 両親や、なぜこんなところにいるのかについては、その時は尋ねるのまずいかなと思い、聞かなかった。

 エマが元気になることを、私は優先した。聞くのは二人が元気になってからでも遅くはない。





 翌朝、すっかり元気になっている二人? 二匹? に改めて自己紹介し、事情を聞く。


 要約すると、結構ヘビーな話。


 もともとウマとエマはここからかなり遠く離れた村で、両親と暮らしている。だが最近両親が流行り病で死んで、それで村の人々は労働力として使えないウマとエマを追い出す。

 二人は魔境を彷徨い、最後はここにたどり着き、ボロ屋を建てて暮らし始めた。

 でも結局子供だから、徐々に栄養不足になり、その時私が現れた。大量のお芋を食べた二人は元気になり、今に至る。


 大量のお芋はもちろん、私の加護で増やした。

 正直昨日は私にとってもちょっとしたデモンストレーションっていうか、そういうつもりでやったんだけど。


(成長した私の限界がどこにあるのかを見極めたかったけれど、結局未だに限界は見えてこないね)


 まあそれは置いといて。


「二人はここで暮らしてたんだよね? 周辺の状況については詳しい?」


 その私の質問に、二匹がコクンと頷いた。

 まあ、聞かなければよかったと、すぐ後悔したけど。


「なるほど。岩山にグリフォンの群れが多数。北はワイバーンの群れ。たまに古代竜が飛来する、と――とんだクソ魔境ですわ。死ぬよ」


 聞いてよ奥さん、ワイバーン、グリフォンを通り越して、古代竜ですって。しかもたまに飛来しますって。何がたまにだよ! そんな晴れ時々隕石みたいな天気予報はいらないわよ。


 だいたいね、古代竜はもはや神話上の生き物という扱いになっている現代ですよ? 滅多にお目にかかれない存在なのに、たまに現れるってお前、ふざけてんのか。と、ツッコミたくなるわ。


「あれ、よく食べに、来る」


 エマとウマが顔を見合わせて、二匹同時に外を指差した。

 よく食べに、来る? なんだと思い、二匹にガイドしてもらって、その場所にたどり着いた私が見たのは――。


「……今日で判明された古代竜の生態、その一。奴は世界樹の実を好んで食べる」


 ワオ、こんなところに世界樹が生えています。

 ツッコミ所がありすぎて、逆にツッコめないわ。


「下まで降りてこないよね」


 私は蒼穹を突き破る勢いで空へと伸びていく世界樹を見上げ、古代竜の活動範囲を確認する。下から見上げるその大木は、所々に実がなっている。


「うん。下までは、来ない」


 エマが答えた。

 それはいいこと聞いた。古代竜は伝説の英雄や勇者に任せよう、二級聖女の手に余る生き物です。


「この盆地に、危険な魔獣とかないよね?」


 周囲を見回し、二匹に尋ねる。


「うん、でも、見たことのない魔獣は、たまに」


 早速遊び始めるウマと違って、答えるエマは物静かな印象を与える。

 でもその答えに安心はできない。見たことのない魔獣って、なに? 正直怖い。新種?


「まあ、それより今日の食料。お芋の他に、何かある?」


 世界樹の実を食べるのもありかなと一瞬考えたが、伝承ではあれを食べた人はとてつもなく強大な力を手に入れたり、体の自己回復が早くなったり、人体に何かしらの影響を与えることは確定。なにせ古代竜の食べ物だからね、それを考えるとあまり食べたくはない。


「ここ、いっぱい生えているよ」


 エマが遊んでいるウマに声をかけ、私に、ついて来てと手招きする。

 そのまま、二匹についていくと――。


「……マンドラゴラ?」


 予想外のものを、発見した。




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