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メシの顔



「――はぁ、はぁ――」

「なんでもっと早く言わなかったの……!」

「い、言いたかったんだよぉ……ッ。み、みんなって、言ったじゃん……はぁ、はぁ――」


 家を飛び出し、急いで現場へと走る私の後ろに、ジェシカ姉さんは慌ててついてきている。


「もう、言葉足らずんだからぁ……!」


 なるほど、そういう意味か。

 みんなは、開拓村のみんなっていう意味ね。


「みんなは無事?」

「え、えぇ……ハァッ……避難、させたわ。……はぁ、はぁ――」


 つまり、ジェシカ姉さんのあの一連のキーワードを整理すると、こういうことだな。

 みんなは村人のみんなで、避難はさせた。

 マンドラゴラとグラシスさんは、おそらく今応戦中ということで、間違いないだろう。


「これで合ってる?」

「――はぁ、はぁ……合ってるわ。リヴィエちゃん、すごいね……!」


 盆地と外を隔てる洞窟の中を走りながら、ジェシカ姉さんと状況を確認する。

 盆地の中に降りてきたことが一度もないし、加えて奴らの主食は肉で作物は食べないから、すっかり油断していたわ、ワイバーンのこと。まさか畑を襲うなん……て? え?


 それ、ちょっとおかしくないか? と疑問に思った私は、


「確認します。ワイバーンは実った作物を襲っている、で間違いない?」


 ジェシカ姉さんにそう質問した。


「そ、それは違うわ。はぁ、はぁ――最初は、畑で仕事していた村人を襲って……ッ、というかリヴィエちゃん、足速い……!」


 答えながらも、私から大きく離れないように必死に走るジェシカ姉さん。


 こう見えても、元・野生児ですから……。

 逃げ足だってワイバーンやグリフォンの保証付きです。


 いやぁ、初日でいきなり両方から挟み撃ちされて、死ぬかと思ったわ。できればもう二度とアイツラの顔を拝みたくはなかったんだけどね!

 しかし、なるほど。別に作物を狙っているわけではないのね。作業中の村人を狙って、マンドラゴラたちが防衛に入ったからターゲットが変わったというわけか。


「ま、どのみち、あちらから襲ってきたんだから、撃退しないといけないわね……」


 洞窟を抜け、森を走る。

 すでに肉眼でも村の上空に結構な数のワイバーンが飛んでいるのが見えた。


 バッグの中身を確認。

 目くらまし用の羽毛草、加護を行使するための様々な植物の一部。……よし。


「ジェシカ姉さんは巻き込まれないように遠くで待ってて」


 突入する準備はできた。その前に――私は後ろで激しい呼吸を繰り返しているジェシカ姉さんにそう言う。


「で、でも……私だって……」


 私の決定に不服そうにし、抗議するジェシカ姉さん。彼女の言葉を遮るように、返事の代わりに懐からとある小包を渡し、黙らせる。


「これは……?」

「中にはジェシカ姉さん大好きなアレが入ってる。援護は任せるわ」

「あ……はいッ!」


 ――もちろん言うまでもなく、中はマンドラゴラです。

 受け取る彼女は中身を悟ると、ぱぁーと顔をほころばせて、メス――コホン、長年会ってない恋人にやっと会えた表情になり、頷いた。


「……食べすぎないように」


 その表情に不安を覚え、忠告する。が――


「大丈夫大丈夫ッ!」


 ジェシカ姉さんは小包を愛おしそうに頬ずりする。

 ……何が大丈夫なのか。全く大丈夫ではない気がする。

 すっかり興奮し、目が血走り、ハァハァするジェシカ姉さん。


 ……今更ではあるが、食べれば食べるほどスタイルが良くなり、さらに若返る効果のある作物を生み出していることに若干の手遅れ感を感じる。


「じゃ援護お願い」

「ハグ……もぐもぐ…………美味しい」


 ……もう食べているし。ジェシカ姉さん? もしもし? 私の話聞いてる?  というか聞こえてる?


「ハグ……もぐもぐ……ハグ……もぐもぐもぐもぐ…………」


 こりゃ駄目だ。

 ワイバーンの群れを前に、のんきに食事をするジェシカ姉さんはほっといて、私はワイバーンに襲われている畑へと突入。




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