上品に、エレガントに、ですわ
「ふあぁああ……」
寝起きのフラフラの足取りで、寝室からリビングに移動する私。、
室内は朝の日差しが差し込み、部屋中を明るく照らす。最近は慣れたおかげか、毎日規則正しい生活を送っている。
「んん……ッ」
大きく伸びをし、眠気を振り払う。
この後は日課の盆地巡回と村人の挨拶や、外の開拓村の巡回が待っている。
テーブルに着席し、カップにハーブ茶を注ぐ。
頭の中で今日のスケジュールを思い出しながら、朝のティータイムを楽しむ。
「今日の朝ごはん、何しようかな」
ふんふんと鼻歌を口ずさみ、ハーブ茶の余韻を味わい、食事について考える。
そんな至福の一時を堪能していると――
「――た、大変ッ! リヴィエちゃん……ッ! 大変……!」
慌ただしい足音と共に、ジェシカ姉さんはすごい勢いで扉を開け、入ってくる。
「あら、ジェシカ姉さんではありませんか。おはようございますわ」
そんなに慌てていると、せっかくの穏やかな朝が台無しですわ。ニッコリと私は上品に微笑み、ジェシカ姉さんをなだめる。
「え……? あ、いや、本当に大変なんだッ! みんなが――」
「まぁまぁ落ち着いてください。ハーブティーどうです? 疲れ取れますよ。……またバカップルたちが所構わずにいちゃついてますの? 気にしなくていいのに」
そう、あの集会以来、みんなの前で相思相愛のことがバレたウルクラとリスの二人は、開拓村の栄えあるカップル第一組として認められた。
……のはいいが、村人公認というのをいいことに、翌日からバカップルっぷりを発揮し始め、所構わずいちゃつくようになった。
その酷さは日に日に加速し、エスカレートしていく。
……最初はいくらバカップルとはいえ、流石に限度というものを弁えているだろうと考えていた私だが、ただの儚い希望的観測ということをあのバカップルは容赦なく教えてくれた。
――まさか私の家の前で、傍若無人にキスを始めるとはね。しかもディープなやつ。
朝の爽やかな空気の中、ルンルン気分で『さあ今日も頑張るぞー!』と扉を開けたら、いきなり熱々カップルのキスシーンを見せつけられる私の身にもなってほしい。
一瞬で『さあ今日も頑張るぞー!』が『さあ今日も頑張る、ぞ”ー!?』になったわ。
おかげで朝の爽やかな空気が台無し。……バカップル罪であの二人を捕まえられないかしらね。
更にあろうことか、他の隠れていたバカップルたちは二人に勇気づけられ、人目を気にしなくなり始める。
私の村は一瞬にして地獄絵図に変貌し、バカップルたちの巣窟と化した。
だが目に入らなければどうということはない。
奴らは人目を憚らなくなっているというのなら、見なければいいだけの話。
ジェシカ姉さんは、おそらく無防備の状態でいきなりそういう場面に出くわしたんだろう。
対策を知っていれば――
「違うッ! リヴィエちゃん、マンドラゴラたちが…………ッ」
しかし、私の予想に反して、ジェシカ姉さんは否定する。
あら、違うの? あの子達?
「あの子達? 確かに最近は羽志望者が多くて、珍しくなくなりましたが、そんなのいつものことでしょう。今更驚くようなことではありませんわ」
ついでに言うと、蔓は物を掴むのに便利だからみんながほしいとねだってきて、今ではすっかり生やしてないマンドラゴラのほうが少ない有様。
こないだまではツルツルの手足のくせに。……ツルだけに……なんつって。
「グラシスさんが……ッ」
しかし、ジェシカ姉さんはまたもや首を左右に振り、激しい呼吸を繰り返しながら否定する。
これも違うの? 今度はグラシスさん?
「わかりました。グラシスさんは大丈夫です、心配要りませんわ。さあハーブティーはいかがでしょうか?」
知らんけど。
グラシスさんの身に何が起きたかは知りませんが、曲がりなりにも英雄の称号を授かっている人なので、大丈夫でしょう。根拠ないけどね。
「畑が……ッ」
ジェシカ姉さんは相変わらず首を振り、なにか伝えようとして、息継ぎの合間に言葉を吐き出す。
どうやらまたハズレですわ。
「畑の見回りはこれからです。でもウマとエマが見てくれていますので、あの子達に任せれば問題ありませんわ」
ニコッと笑い、ハーブティーを一口すする。
あくまで上品に、朝の穏やかな時間を楽しむ。
慌てては損ですわ。そう思いませんこと?
落ち着いてお茶を楽しむ私の反応に、じれったいと感じたのか、ジェシカ姉さんは激しく首を左右に振ってから、スーハースーハーと深呼吸を何度か繰り返し、
「リヴィエちゃんの畑が、ワイバーンに襲われているのッ!」
と、力を振り絞って叫んだ。
「――ぶっ殺すわ、舐めたクソトカゲ共が」
早めに投稿します。