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家畜を飼いましょう! 二級聖女の楽しい楽しい牧場ライフが今、始まる(予定)




「済まねえな。だがわかってほしい。辺境の村は色々と大変なんでな」


 警備隊長らしき壮年男は、警戒心を保ったまま私達を見てそう言った。

 現に今も、武装した数人の村人が距離を保ったまま、私達の馬車の周辺を囲むように移動している。


「いや、慣れてるもんで、大丈夫だ」


 御者席のグラシスさんは柔らかい笑顔で答え、安心させる。


「……理解のある方で、助かる。……見えてきた、あそこだ」


 壮年男は指で街中の一角を差し、示している。


「では。何かあったら――」


 これ以上警戒する必要なくなったのか、壮年の男は自分の名前と連絡場所をグラシスさんに伝えた後、部下を連れて去っていく。


「……やれやれ。慣れないもんはするんじゃなかったぜ」


 見送りながら、彼らの耳に届かない音量でグラシスさんは小さくため息をつき、ぼやいた。


「さっき慣れてるとか言ってなかったっけ?」


 からかうように尋ねると、


「ああ言うしかねぇだろう?」


 グラシスさんは苦笑を向けてくる。そして前へと向き直り、案内された場所――村の店を見つめながら、御者席から降りる。

 私達もグラシスさんに続き、馬車から次々と降りていく。

 ようやく客だと認識されたのか、中から店番の中年男がのっそりと出てきて、声をかけてきた。


「……いらっしゃい。見ねえ顔だな、どこもんだ?」


 やる気のない声にガラの悪い態度。私達を頭から足まで遠慮無く視線を這わせ、じっくりと観察する中年男。……辺境の村ならこんなもんでしょう。


「近くを通りかかった行商人だ。色々売りたいが構わないか?」


 グラシスさんは気にした様子もなく、本題に入る。


「んじゃ出すもん出せや、サッサと」


 店の中年男はジロリとグラシスさんを睨み、促す。

 相変わらずガラの悪い態度だが、グラシスさんはコクっと頷き、素早く荷台から物を下ろす。


「……農作物か……チッ」

「全部でこれだが、いくらで買い取ってもらえる?」


 出された商品を見て舌打ちする店の男に、グラシスさんは尋ねる。

 店の男は軽くグラシスさんを睨んだ後、無言で手をパァーと開いて見せる。


「五ゴールド?」


 それを見たグラシスさんは喜んだ様子で、店の中年男にそう聞くが、


「――んなわけあるか、どアホッ! 銅貨だ銅貨!――このド素人行商人が!」


 あまりにも予想外の質問に、男がブチ切れて怒鳴る。

 今のないわーと私も思い、店の人に同情する。交渉の人選、間違えたのかな……。


 ちらっとジェシカ姉さんを見ると、これ以上ないくらいの冷めた目で、ペコペコ頭下げて謝っているグラシスさんを見ている。……だよね。

 ……男の人だから任せたのだけれど、今は激しく後悔している。





「失せろ」


 その言葉と共に、店のドアはドンと閉められた。

 商品の売却自体はできたが、交渉はうまく行ったとは言えない結果だった。


 ……間違いなく最大の原因は見習い商人にも劣る初心者行商人グラシスさんのせいです。


 流石にこれはまずいと思い、途中から私とジェシカ姉さんはサポートに入ったが、それでも散々な結果だった。……主にグラシスさんの失言で。


「すまん……いてっ、二人で腰をつねんな、マジ痛いって」

「……まぁいいでしょう。次からは村民の誰かを連れてくるべきだね。ウルクラとかに任せれば」


 私とジェシカ姉さんに同時につねられて、グラシスさんが逃げるように身を捩らせ、降参する。


「グラシスさんの冒険者時代、魔獣の素材は……?」


 次の目的地を目指し、馬車で移動している途中、疑問に思い、彼に尋ねる。

 ここまで来ると、どうしていたかが気になる。


「ギルドに持っていけば処理してくれるから」

「……なるほど」


 道理で英雄なのに、えらく世間知らずだと感じる。

 まぁ、結果オーライ。商品は売れたし、金は手に入った。


「……でもどう考えてもこれで銀貨二枚というのが納得行かない」


 じゃらんじゃらんと総額銀貨二枚相当の金額が入った袋を見つめ、グラシスさんは複雑な表情を見せる。

 そんな彼に、私はからかうような笑みを向け、説明する。


「二割は授業料だね。主に誰かのせいで。むしろ安く済んだ方だよ、それに――」


 それに、今回はあくまで初めての挨拶という意味も兼ねての顔合わせ。

 私達の存在を知ってもらうのが目的で、他はおまけのようなもの。

 次からはもっとスムーズに商売できるし、出来上がった人脈で情報も色々と手に入る。


 村長の家へと向かう途中に、グラシスさんにそう説明する。


「銀貨二枚だと侮ることなかれ、場所によっては成人男性一人の三ヶ月の生活費ですよ?」

「みんなで分けると考えると――」


「今回は買い物が主な目的。そこんとこ、勘違いしないでね」

「……そうだったな。そういえば何を買うんだっけ?」


「家畜。それと肉」

「……そういや最近肉食ってないな。野菜ばかり。うまいから気にはならなかったが」


「私の腕のおかげね」

「――げっ、お前が作ってたのか!? 俺はてっきりジェシカだと――」


「……グラシスさぁん?」

「あ、あはは、冗談、冗談。そんな怖い笑顔で俺を見つめるなよ……ほら、村長の家だぞ村長」




肉。(じゅるり

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