そのリアクション気持ち悪いです
整備された道路を見て、感動する。
初めてこの地に降り立った時は、なにもない荒野だった。
それが今、馬車が走れるような道路が目の前にあるとは、当時の風景からはとても想像できないだろう。
道だけではない。
他にもちゃんとした村や理路整然とした水路、畑、それらを囲む柵。魔境の開拓を任された村人たちは、私の構想を現実にしてくれた。
盆地の中はまだまだ余裕があるが、いつまでもそこで暮らす訳には行かない。
(後は魔獣をどうにかできればな……)
開拓できたとはいえ、魔境はやはり魔境だった。
作業の途中で村人たちはワイバーンに襲われそうなことが何回かあったが、物見櫓の役割を果たしていたマンドラゴラ達によって早期発見ができ、なんとか無事に済んだ。
「……で、そのワイバーンの調査を任されていたグラシスさんは、なにか言うことないの?」
盆地の外に新しくできた村の中を歩きながら、その様子をメモに記していく。
妨げにならないよう、いつの間にか私の後ろに合流し、無言で見ているグラシスさんに尋ねる。
「……悪い知らせがある」
あー、はいはい。わかった。
この人、いつも面倒事や悪い知らせしか持って来てくれないのね。
ロクでなしの集団から逃げ出した二級聖女リヴィエちゃん、理解しました、丸。
……私のスローライフを台無しにする気?
「何だその顔は」
「いや? 別に? これっぽっちも『うわぁ、この人また面倒事を持ってきたよ』、なんて思っていないしー」
「……色々悪かった。すまんと思ってる」
そう思っているなら悪い知らせは持ってこないで。隠密裏に処理して。
私は溜息を一つ大きく吐き出し、
「――で?」
と聞いた。
グラシスさんは周囲の様子を窺い、話を聞かれないように声を潜め、
「……ワイバーンの話だな。その前に、お前さんはワイバーンの生態については……?」
「知ってるわけ無いでしょう、羽の生えたトカゲなんて。まぁ、観察はしましたが」
「ふむ。俺の調査結果を単刀直入に言うと、アイツラ……このあたりに生息しているワイバーンはもともとこの地に住んでいるわけではなさそうだ。有り体に言えば、外来種だ」
「それがどう悪い知らせと――」
「ヤツら、なぜここに逃げてきたと思う?」
「――もう良い、大体わかった」
かくいう私も逃亡中の身でね、色々察するわ。
そしてワイバーンの魔獣としてのランク付けから考えると、答えは自ずと絞られてくる。
「なぜそんなに察しがいいのかわからんが、話が早くて助かる。――相手は、」
「古代龍でしょう?」
「……本当驚異的に察しが良くてビックリだな。ビンゴ、正解。ちなみに今の会話からどうやってその答えにたどり着いたんだ? 英雄の俺でも知りたい」
英雄のグラシスさんは、驚きと感嘆の混じり合った表情で聞いてくる。更に『その察しの良さ、トップクラスの冒険者でもなかなかいないぞ』と付け加えた。
褒められると悪い気がしないが、おだてられたからって冒険者に転職するつもり無いわ。
でもそうか、古代龍の話は伝えてなかったっけ。
当時はさっさと出ていくつもりだったし、長居する気はなかった。それにまさかこんな事態になるとは思わなかったな。
「逆に聞くけど、古代龍の生態について知ってます?」
グラシスさんの質問には答えず、逆に聞いてみた。
「ん? そうだな……うーん?……いや、すまん……よくわからん」
逆に質問されるとは思わなかったのだろう、彼は困惑の表情で少し頭をひねった後に、素直にそう答えた。
普通は知らないだろうね……結構神殿で色んな本を読んだ私も、ここに来るまでは知らなかった。
「……古代龍は世界樹の実を食べる」
「は?……それがどう関係する?……」
……もう、察しが悪いね。英雄のくせに。
この人、この先やっていけるのだろうか。
何を隠そう、彼に村長を任せたいと私は思っている。
いつか私は出ていくだろうし、ここに長くとどまるつもりもない。
秘密を抱える身ということを忘れてはいけない。
おまけに同僚はみんな、やべーやつ。見つかったら、『リヴィエ、異端、殺ス』マシンと化する。
「言ってなかった? あの盆地、世界樹があるよ」
ついでにいうと私は毎日、こっそり水をあげている。
「おう、世界樹ね!……ん? 世界樹?…………世界樹!?……えええええええ!?」
「グラシスさん、リアクションが気持ち悪いです」
「いや、だって……」
周りの休憩中の開拓民たちも、彼の叫び声につられ、何事かと集まってくる。
あーもう、恥ずかしい。私、帰るッ。
目的の視察と目標の村と道路建設は完成した、これでようやく他の村へ行けるようになり、貿易ができる。
ワイバーンの問題は、まぁ、一応解決策は考えてあるが、それを今ではなく、夜にみんなを集めて伝えたい。
……金を貯め、早くエリスミーラの影響範囲外へ行きたい。
誤字脱字報告、ありがとうございます、助かります。




