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バイバイ、また明日




 翌日。


 朝ごはんの火起こし役が終わった後、グラシスさんはワイバーンの調査に出かけ、

 私から大まかな道路整備に関する計画を聞いていたジェシカ姉さんは、みんなにマンドラゴラ入りの飯を振る舞った後に、私の代わりに現場監督役を務め、開拓民を率いて道を整備している。


 ウマ、エマ、ミイラとモイラのような労働に向かない子供には、盆地の中にある私の畑の世話役を任せていた。


 もちろんみんなの安全のために、昨夜のうちに私はマンドラゴラたちに指示を出し、事前に魔獣の接近を察知できるように広範囲に散開すると言ってある。

 精神で繋がっているマンドラゴラたちは、たとえ魔獣に見つかっても全滅しない限り、何度でも同じ畑の同胞の体から蘇生できるので、死ぬ心配ないから安心して任せられる。


 我ながらなんだこの植物と思う。


 ただし、制約もある。


 まず一番重要なのは、同じ畑で生まれなければいけないという点。言い換えれば、同じ源を共有しなければならない。

 実際、同じ私の手から生まれたマンドラゴラでも、最初の改良種とガーディアンゴラは直接的な精神リンクを持っていない。


 そして、簡単には死なないとはいえ、見た目通りただの二足歩行大根なので、戦闘能力は皆無と言っていい。……現状ではね。


 どうもマンドラゴラたちは、更なる進化を遂げられそうな気がする。元々私が複数の植物と組み合わせて作った改良品種だから、他の植物の特性を取り入れて、自身をパワーアップさせるなんて改良マンドラゴラたちにとって当たり前のことだろう。


 それに人語を解する賢さを有しているから、現に今も――。





 私は盗賊のアジトに来て、宝石をボール代わりに蹴って遊んでいる子たちを見てそう思った。


 あの時に、盗賊団の品物を漁っている途中、マンドラゴラたちが手に持っている宝石を物欲しそうな目で見つめていたので、『ほしい?』と尋ねたら、コクっと頷いた。

 宝石なんて、食べられないのになんでだろうと思いながらも、まあ一つくらいならいいか、とマンドラゴラたちに上げた。


 その結果――。

 今、盗賊を尋問しようとアジトにやってきた私が目にした光景である。


 見張り役としてアジトに残していたマンドラゴラたちは、宝石という初めて見たものに興味を示し、囲んで観察した後に二つのチームに分かれて、対抗戦を始めた。

 互いの陣地にゴールを設け、ボール代わりの宝石を蹴りながら、相手チームのゴールに入れるという遊びをしている。


 話を聞くと、さっきまでは高いところにリングを設置し、宝石を投げ入れ、点数を競う別の遊びをしていたらしい。


 それの後遺症だろうか、いま壁際で練習している一匹のマンドラゴラは、宝石をドリブルしながらリングに向かっていき、手に持って大きく飛んで、ダンッ! と強引にリングの中に打ち込んだ。

 ……今、軽く六十センチ飛んでなかった? ちなみに、そのマンドラゴラの体長は二十五センチ。


 そして空中で華麗に体勢を立て直し、シュタッと着地する。


 視線をチーム戦中の子たちに向けると、互いの弱点を突こうと新しいフォーメーションで攻め、突破できないと理解する瞬間すぐに次の戦術を生み出し、攻撃を続けている。


 ……マンドラゴラたちの戦術ネットワークは刻一刻と進化を遂げている。と、私は実感する。


 今この瞬間にも全員が精神ネットワークを使い、個々の動きを最適化させ、あらゆる情報共有していた。


「さあ、あの子達の動き見たんでしょう? 早くゲロった方が身のためだと思わない?」


 牢屋に放り込んだ盗賊たちを軽く脅す。

 拷問――ゲフンゲフン、コホン……尋問スタート。


「ふざけんな、俺たちを見くびるなよぉ、脅しには屈しないッ!」

「そうだそうだッ」

「やれるもんならやってみろよ」

「俺達が雇い主の情報を簡単に喋ると思ったら、大間違いだ」


 盗賊たちは、私などアウトオブ眼中の態度で大声を上げ、反抗的な姿勢を見せる。、


「言ったわね?」


 私はマンドラゴラたちに目配せをして、アジトの地面に転がっていたナイフをマンドラゴラたちに渡した。


『新しいおもちゃだ』とマンドラゴラたちは喜び、投げられてきたナイフを器用に足で何度かリフティングした後に、突如大きく体を捻り、回転させながらナイフを蹴った。


 次の瞬間、ザシュッという音が響き――その音に導かれるように、牢屋にいる一人の盗賊が恐る恐ると、自分の顔の横を見た。

 ――その頬の横には、一本のナイフが岩に突き刺さっていた。


「自由に遊んでいいわ。ナイフいっぱい転がっているしね」


 私はそうマンドラゴラたちに伝えると、牢屋の盗賊たちにくるりと背を向け、歩き出す。


「さぁて、今日の晩御飯はなんだろう――」

「お、おいッ! どこ行くんだ、てめえ――」


 立ち去ろうとする私を、慌てて一人の盗賊が呼び止める。その声は若干震えていた。だがあくまで強気の態度を崩さないまま、偉そうにしている。


「……どこって、家ですよ? ああ、ご心配なく、明日にはちゃんとまた来ます。私が忘れていなければ、の話ですが」

「お、おい、その前に俺たちを出せ。もう昨日から何も食べてねぇ」

「一日二日くらい、死にませんよ。大丈夫です。更に皆様に良い知らせです。なんと私、エリスミーラ神殿所属であります。ンフフ、聡明な盗賊の皆様ならば、この意味がわかりますよね?」


 ニコッと柔らかい笑顔を盗賊に見せる私。


「わ、わからねえよ……ッ! いいから俺たちをここから出せッッッ!!!」

「そ、そうだ」

「デタラメ言ってんじゃねぇぞ。あんな見たこともねぇ魔獣従えておいて、神殿所属だと? 俺たちは騙されねえ」

「そうだそうだ」


 盗賊たちはガヤガヤと騒ぐ。


「またまたぁ。とぼけても無駄ですよ? ご安心ください、死にかけても死なない限り、癒やしの女神エリスミーラ所属の私が責任を持って、皆様を治します。だから、大丈夫です」


 冗談お上手ですねと口を手で覆いながらンフフと笑い、盗賊のみんなを安心させるように伝える。

 だがそれはどうやら盗賊のみんなには逆効果のようで――


「全然安心できねえよッ……! いいから俺たちをここから出せ、このア、マ――?」


 なおも大声を上げ、暴れる度に拘束の鎖がジャリジャリと音を鳴らしている。

 しかし、男が言い終わる前に、その頬の横に一本のナイフがザシュッと岩に突き刺さり、かすったのか、男の頬からつーっと、一筋の血が伝い、滴り落ちる。


「だめじゃないですか。暴れないでください。この子達の狙いがズレちゃうよ?」


 マンドラゴラたちを見ると、『今のは修正が必要だな』、『ああ』、と互いに頷き合い、新しいナイフを拾い上げ、狙いを再び定めた。


「それでは、また明日」


 大丈夫そうなので、私は手をひらひらさせ、盗賊の皆さんに別れの挨拶をする。


「い、行くな……ッ! 行くな、俺たちを置いていかないでくれぇえぇ!!!」


 背後から響いてくる悲痛な叫びは、アジトを後にした私には関係のないものだった。




どっちが悪人かわかりませんね。

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