マンドラゴラをキめる。
リヴィエのマンドラゴラ飼育改良日記、十一日目。
グラシスさんやジェシカ姉さんに、改良途中のマンドラゴラを食べさせたが、味に関しては美味しいと褒めてくれている。
ウマとエマの二匹も、美味しい美味しいと連呼するから、どんな味だろうとすごく興味ある。
が、顔面見ると食欲なくなるので、そこは何とかしなければならない。
日記十二日目。
今わかったことは、マンドラゴラを他の植物と融合させても特性をそのまま引き継ぐが、これまで融合させた植物の数が二種類を超えると必ず自我が芽生える。
著しく知能の向上、高い運動能力の獲得、全体的良い傾向にあるが……私はただ美味しいマンドラゴラが食べたいだけなのに。というか動き出さないでほしい。
十三日目。
何ということだ。
人体実験組……ゲフンゲフン……味見組のグラシスさんとジェシカ姉さん……二人の加護の力が強くなっている。
私のシェフとしての腕は伝説級……調理した食材を食べた者にパワーアップさせるだと?……という冗談はさておき、どう考えても諸悪の根源はうちの二足歩行大根です。
尋ねるような視線をマンドラゴラたちに送ると、キョトンとした表情が返ってきた。
十四日。
間違いない。二人の加護はパワーアップしている。
加護以外にも、私のマンドラゴラ料理を食べたジェシカ姉さんの肌はツヤツヤですべすべ……。クッ、私も食べたい。
ムキムキになったグラシスさんは無視。
十五日。
アジトの特定にマンドラゴラの力を借りたいと二人が言ってきた。
これも最近わかったことなのだが、最初の畑で生まれた二足歩行の子たちは個々が独立した個体でありながらも、精神の部分は全体でつながっていて、テレパシー使い放題のような状態。
また、その特性故に例え一部の個体の体が粉々にされても、精神は全体でつながっているので死亡することはない。私の力で再生したら全て元通り。――どころか、増える。
強すぎない? 何この規格外生物。
二人に貸し出しを承諾したら、すごく喜ばれた。
十六日。
アジトの場所が見つかった。うちの子、有能。
しかし盗賊の人数は意外と多い。多勢に無勢、このままでは捕まっていた人は助けられない。なので作戦変更、盗賊団の動きを監視するマンドラゴラ数匹をアジト周辺に残し、逐一報告させる。奴らの行動を把握したら、作戦開始。
――夜。
空には満天の星。月明かりに照らされた荒野の下にローブを羽織った怪しげな四人組が、足音を立てないように移動している。
私と、エマとジェシカ姉さんとグラシスさん。
そしてよくよく見ると、四人の足元には複数の小さな影がもぞもぞと動いている。
「寝ている間に昏睡効果の胞子を流し込み、一網打尽……お前さんらしいな」
グラシスさんは苦笑を浮かべて言う。
作戦は至ってシンプル。捕まっていた他の人を助けるには、これが一番ラク。
荒野の地下に広がっている盗賊団のアジト。
報告を受け取った私はマンドラゴラの数匹を普通の大根と偽装させ、疑われずに潜入が成功。
奴ら、入り口に転がっていた大根が私のマンドラゴラとは知らずに、喜んでアジトに運び込んだ。
そしてテレパシーを通じて、内部の状況は私に筒抜け。
「そろそろ全員ダウンしたかな」
頃合いを見計らって、エマに尋ねる。
聞かれて、エマは鼻をクンクンとさせ、
「うん、匂いは洞窟全体に広がったと思う」
私とジェシカ姉さんのコンボ――昏睡胞子を風に乗せ、洞窟内部の隅々まで拡散したことを確認する。
「念には念を。潜入させたマンドラゴラに、起きてる盗賊いないかを探らせてから入ろう」
足元で周囲の警戒を担当しているマンドラゴラにそう伝えると、内部の潜入マンドラゴラたちは動き出し、周囲の状況を確かめる。
「エゲツねぇ……お前さんを敵に回した奴、同情するぜ」
グラシスさんがボソっと漏らす。
数分経過、足元のマンドラゴラたちは両手を頭の上で○を作り、オールクリアを知らせる。
「全員眠ったわね。ジェシカ姉さん、換気をお願い」
「はいはぁい」
ジェシカ姉さんは携帯バッグから私が作ったマンドラゴラのクッキーを一つ、口の中に放り込み、もぐもぐと咀嚼する。
栄養補充と同時に、マンドラゴラをキめることによって一時的に加護をパワーアップさせる。
「では行きますよー」
手を入り口にかざし、ジェシカ姉さんがアジト内部の換気を始める。
彼女の加護によって、内部に溜まっていた胞子は風に乗って、外へと運び出されていく。
数分もしないうちに、換気は完了した。
「中に入ろう。ジェシカ姉さんとエマは捕まった人の救出、グラシスさんは―」
「盗賊の捕獲、だろ」
「えぇ、お願いね」
盗賊団の人数は百を超えている。この数ならば、近くの領地の警備隊に渡し、懸賞金は旅費と菜園の足しにはなれるだろう。
……まさかあんなに面倒くさいことになるとは、この時の私は知らなかった。