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たった一つの誤算




「誤算?」


 私とグラシスさんは同時に言い、顔を見合わせる。


「ああ。普通、人間のお前は魔神の乗っ取りに抵抗などできるはずもない。――普通の場合はな」

「…………なんか嫌な予感がするんだけど」


 つまり私の場合は普通ではないと暗に言っている。人外の戦場に私を引きずり込むのはやめてもらいたいわ。

 私はただ誰にも邪魔されず、命の危険がない地でスローライフを送りたいだけなのに、なんでこんな永久に語り継がれる神話の1ページに巻き込まれる羽目に。


「なぁに、簡単な話だ。魔神にとってたった一つの誤算。それは――――お前は俺と誓約で結ばれている」

「…………あの実に欲しくない、解除はしてくれない主従関係のこと?」

「言い方は気に食わねぇが、そうだ。人間のお前は魔神の乗っ取りに抵抗できねぇが、同格の俺は抵抗できる。俺と主従関係にあり、お前が俺の主である以上、取って代わろうとする魔神は誓約に弾かれる」、


 ルナディムードは『俺が認めた主はお前だ、魔神じゃねぇ』と補足するが、実に嬉しくない。


「微妙に嬉しくないわ」

「喜べよ。俺と主従関係で結ばれてなきゃ、今頃お前という存在は消滅していたぜ」

「結ばれていなければ、きっと今頃私はとっくに自由の身です」

「まぁまぁ。結果はこれ以上ない位最高。誰も死んでない、魔神は無事封印、世界の危機は回避できた、めでたしめでたし。問題ないよ」


 グラシスさんは間に割って入り、嫌そうな顔の私をなだめる。

 ……約一名、一般人の犠牲は勘定に入れないですか、そ~ですか。


「……わかった。えぇ、わかりました。では早く帰ろう。私、疲れたわ」


 謎解きと答え合わせは終わった。胸に別のモヤモヤを残したまま解決。

 巻き込まれた以上、どうあがいても当事者。愚痴っても文句言っても全て後の祭り。

 ならば――――。


 魔神討伐成功の朗報を皆に届け、帰還する先遣隊に混じり、私は心の中でほくそ笑んでいた。






 やがて、開拓村の皆だけではなく、大陸中の国々と人々には風のように知れ渡り、祝宴が開かれる。

 そこに、私は魔神を倒した大聖女として表彰式に呼ばれ、歴史に名を刻み――――。




次回が最終回です。

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