出番がないけどちゃんと生きていた
「――結局、どういうことだぁ?」
「え?」
ルナディムードの言葉に、うつむいていた私は顔を上げる。
なんのこと? と聞き返す前に、素早くこれまでの経緯を思い出し、整理する。
あの後、クラリア王子は魔神ゼルティアが本当に封印されたのか、確認するため封印地の調査を提案した。
もちろん、それを聞いたライシェは難色を示した。
『私の言葉が信用できないの?』とでも言いたげな表情を露骨に浮かべながら、クラリアを睨んでいた。
だが流石に一国の王子の意地を見せたというべきか、クラリア王子は退かなかった。
魔神の封印にまだ疑問を感じている彼は、封印が成功したと確信を得るまで、安心しては早いのでは? と主張する。
確かに一理あるが、私的にはもうクタクタだし、早く帰って水浴びしたい。残業はしない主義なの、私。
……お前、何もしてないだろというツッコミはヤメテー。私、傍観が仕事なの。
……コホン。
とにかく、残業はいや……じゃなくて、疲労困憊していた皆さんのことを慮って、
『じゃあ、負傷者と疲れた者を優先的に地上に帰還させるのはどうでしょう? ほら、皆さん、疲れているでしょうし、体力的これ以上の調査はキツい人もいますし、何より傷ついた人の手当をしたいです』
と私は提案。
実にもっともらしい。
私の提案を聞いた王国の精鋭達は、薄っすらと涙を流し 。
「聖女様……そこまで俺達のこと…………クソ、俺、涙で前が見えねぇ……ッ!」
などと感激していた。
傍観が仕事でも、残業は絶対嫌。
精鋭達は傷つき、疲れた。
双方の利害は一致し、故に私は無罪と思いまーす。
私の提案は正しいと理解しているクラリア王子は、今度は異を唱えない。
部下に体力のある人は残るようにと言った後、地上帰還組の私に別れを告げ、数名の部下と共に調査を始めた。
「リヴィエちゃん、帰ろう」
「だめです」
「えぇ? なんで」
途中、一緒に帰ろうと小走りに近寄ってきたライシェをきっぱりと拒絶。
「ライシェ様は重大な仕事があります。クラリア様の調査に協力してください。勝手に帰らないでください」
「リヴィエちゃんと一緒に帰りたい……」
「だめです。万が一のことも考えて、対処できるのはライシェ様だけです」
「大丈夫っ! リヴィエちゃんの封印が失敗するわけないよ!」
……その目は節穴ですか。既に封印が私じゃない時点で失敗と言えば大失敗だが。
無論言えるわけもなく、私は短く返事する。
「……だめです」
「えぇ~、やだやだ。リヴィエちゃんと一緒に帰りたいっ! リヴィエちゃんと一緒に帰りたいっ!」
子供かこの人。
「駄々をこねないでください大聖女様。私は一足先に帰って、ライシェ様の帰りを待ちます」
「大聖女だなんて冷たい! …………ん? ……帰りを、待つ……? ……リヴィエちゃんが出迎え……。………………うへ、うへへ……」
しばらく考え込んだ後に、気持ち悪い笑みを浮かべる大聖女。
……だいたい想像はつくが、触れないでおこう。
「すぐ帰るからね、リヴィエちゃん」
盛大に手を振り、見送る気持ち悪い大聖女様。
私が地上に出た後、地震起きてこの人薄暗い地下の遺跡で生き埋めにならないかな。
と、まあ要点を整理したけど、ルナディムードがどのことについて尋ねているのか、わからない。
「魔神ゼルティアだ。本当にアイツの言ってた通り?」
アイツ、はライシェのことだろう。
なるほど、事の顛末が気になって聞いているのね。ルナディムードは。
「俺も知りたい。そうなのか」
ずっと出番がなっ――――コホン、激戦で姿を見かけないグラシスさんが参加してきた。
この人も、なにげに生き残っているんだよね。普段は面倒事持ってくる印象しかないダメ人間なのに、ちゃんと強いんだ。
「お前、今すごい失礼なこと考えてるだろ。リラル王国に追われる前、凄腕の冒険者だぞ俺」
「テへ」
ぺろっ。
「で、どうなんだ」
ルナディムードがもう一度尋ねた。
「――えっとね…………(中略)…………こういうこと」
私はリラルの人達に聞かれないように周囲の様子をうかがい、当時の状況を小声で説明した。
「――なるほど」
私の話を聞き終えた後、古代トカゲは納得の表情でニヤリと笑う。
「今度はアンタの番よ。説明して」
ルナディムードに説明を求める。
私に喋らせといて、自分は納得して終わりは許さないわ。
「まぁ、難しいことじゃない。あの女はミスしたわけじゃねぇ、状況が難解なだけだ。なんせ、この俺も説明を聞くまで全貌を把握できてなかった」
説明を始める古代龍ルナディムード。
彼が言うには、途中までは自分の予測と完全一致していた。
ギリギリの均衡を保ち、死者を出す前に魔神が先に力尽きて、勝つ。――は古代龍の予想だった。
が、実際の状況は最後だけ、予測とほんの僅か、違っていた。
「感情的になっていたんだろう」
ルナディムードが付け加える。
魔神はかなり焦っていた。
長い封印の間、ようやく得たチャンス、何が何でも外に出たい。
故に力を振り絞って、私を乗っ取ろうとした。
だが――
「だが――魔神ゼルティアは、一つ誤算をした」
と、ルナディムードは指を一本立てる。
聖女の日曜投稿は休みます。行き遅れは通常投稿します。




