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灼熱連鎖3

「実は抽出は、ほぼ完了しております。」

「数量はどうなんだい?」

「ほぼ今のところは2個分に相当する量です。今建設中のプラントが完成の暁には年産30個分かと。」

「より大型なものを作れるんだろうね?威力をより増大させて。」

「いささか、閣下、それには限界が。ただ大きくすればよいと言うものではなく。」

「前に聞いたが、工夫が要るそうだな。」

「はい、中心は今の型でよいのですが、それを起爆剤に使います。それを反応させて、より強力な力を。ただ、さらにこの材料に工夫が。」

「なにかね、何をつかうのかね?」

「…重水素です。重水を原料にいたします。」

「水、とわね。とにかくプランを作って提出してくれ。場合によっては機密費を動かさねばならないからね。」


大きく玄関前のロータリーを回りながら博士の乗った車が去るのを眺め、宰相は傍らの男に言う。

「ここまできたならば、少し勝手に動いた参謀本部を。こらしめんとな。」

「判っておられたんですか?」

「ああ。あの連中にほぼ時を同じくしてまったく同じ依頼がしかも別方向から来たんだ。詳細はすぐに聞き出したよ。」

「泳がせて…」

宰相は腰を下ろした

「私たちの知らないところで何かを画策していると言うことだよ。聞いただろ?博士もてっきり御国のためと思い込んでやっていた。根は深いよ、まったく。」

「まったく我々にも極秘で王国と我国の連中が地下で新兵器開発で連絡するとは。しかも、それぞれが蛸の手足の先で、お互いが何をしているのか知らない、ですか。」

「それがたまたま今回、あのパン屋にノコノコ双方が出かけたためにその一端がわかった。まったくこれをコントと言わずしてどういうんだね。」


乾燥したさわやかな風が新緑を抜けて部屋に吹き込んだ。

「しかし、これで判ってきたな。やはり、あのお方だ。」

「まだ、我国の各所にコネをお持ちですしね。」

「コネどころか。女官時代からの結びつき、ご実家の声望、それに、あの事件での闇の関係…。我々も常にあの方の息のかかった人物と顔を突き合わさねばならん。心しないとね。」


秘書官はため息をついた。

「いかがしますか?起爆装置とあの者たちの身柄を確保しますか?」

「いや、それはやめておこう。とりあえずあの連中はこの件に関しては中立だ。それに、どちらか積極的に動いたほうが負けだよ、このゲームは。」

「信用しているのですか?」

「少なくとも、奸智と実力は評価できるよ。今頃必死になって、出来上がった製品を前に思案をしていることだろう。むしろおとなしく決められたとおりに取引してやるんだな。

それに、先に実力行使に、わが軍、王国いずれかが出ても、こちらのものだ。」

「二君にまみえる不埒者も炙り出せますね。」

宰相は傍らから少し厚めの本を取り上げ、開いた。

「本当に、なんと未練なお方だ。」



「陛下、王都よりの報告が。」

少し早めに夏の離宮にやってきた女王はこざっぱりした部屋着に換えて、やはり厚めの本に目を通していた。

「なんです。」

「“薪”の入手が少し遅延するとの特情部よりの報告です。」

「どれくらいになります?」

「2週間ほどとか」

「いたしかたなかろう。…研究のほうは順調ですか?」

「今頃は丁度2個目の抽出にかかっている頃かと。」

「実験施設のほうは?」

「受け入れ準備は整いました。」

「まあ、“薪”が届かぬのでは致し方なかろう。…もうひとつやり方があったげに聞くが、そちらのほうはたれか取り組んでおるのか?」

「目下ほぼこちらのほうが完成には近そうだと。」

「伝えなさい。最初の一個は“、薪”ではなく、そちらを優先、と。」

「御意。」


「まだ何かあるか?」

「帝國宰相閣下から一度御謁見を賜りたしと。とりたてて火急な用件はなければ、帝国領の避暑地の御用邸で積もるお話などと皇帝陛下も申されているとのこと。」

ふっと笑みがこぼれる。

「いいでしょう。宮内官に相談して日程などを頼みます。」

「御意」


「喰えないお人。けっこうお人よしのくせに。」


パン屋の電話が鳴った。

アレフからだった。品物を10日後引き取りに行く。それ以上は待てない、と言う内容だった。



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