絶対剣チェンバレンティグ
俺はふと気づくと異世界にいた。
そうか、俺はついにたどり着いたんだ。この優しい世界へ。
空は青く満ち溢れ。
森はどこまでも続いている。
これ以上に望むべきものなんてあるだろうか?
俺はすべてを手に入れたのだ。
ここで永遠を過ごすのだ。
盗賊を狩って、村人の少女を助けた。
「ありがとうございます、この御恩をどうお返しすればいいか・・・」
「いいんだよ」
俺は疲れていた。だからごはんだけほしいと言ったら歓迎してくれた。
なんていい子なんだろう。
俺は村に案内された。あたたかな火がどこの門戸にも満ちている。
「さあ、どうぞ。召し上がれ」
俺はごちそうをふるまってもらった。みんな笑顔で満足そうだ。俺は村人を助けたのだから。
もう寝かせてほしいというと部屋に案内してくれた。客人用のいいところだ。
「ふう」
一息ついて、俺は一日を振り返る。なんの苦労もない、盗賊を狩っただけの日だった。
盗賊か。愚かなものだ。まさか俺に歯向かうとは。
だが、それも終わったこと。俺は永遠を手に入れたのだ。ここで小さく、生きていく。
それだけのこと。
翌朝、俺は村人たちから歓迎のおまつりをひらいてもらえた。
なんでもこの村には神様がいて、その神様は旅人をとても好むのだという。
現実世界では居場所のなかった俺の救いが、こんなところにあるなんてな。
俺は・・・・ひとりでよかった。ひとりで生きていくんだ。
これからもずっと。
村には定期的に盗賊が現れた。俺はそいつらを狩り、村を守った。
いつしか村人たちは俺を英雄と崇め奉り始めた。悪い気はしなかったし、実際そうだった。
俺は神をも殺せる強さを手に入れていた。
もう誰にも負けたりはしない。
絶対剣チェンバレンティグ。
それが俺の名、だったのかもしれない。
村はいつまでも平和だった。誰もが幸せそうで、満ち足りていた。
俺にも何人もの女があてがわれ、子供もできた。現実世界ではありえなかったことだ。
苦痛、拒絶、嫌悪。俺の人生にかつてあったのはそれだけだった。
楽しいことなんてなかった。つらいことばかりだった。夢はかなわず、人生は落ちぶれた。
だが、そんなものは遠い過去だ。俺は自分の世界を犠牲にすることで、この異世界への扉を開いた。
百億の人間が死ぬ価値が、この平和な村にはある。
それだけの・・・ことだ。
ザルティバーグ。
それが盗賊王の名前だった。
やつは俺の村を奪うと宣言してきた。俺はそれを絶対に許せないと思った。
だから戦おうと思った。
村人たちは止めた。村なんていいから、死なないでくれと。あなたがいなければ我々は死んでしまうと。
だが、俺はいかねばならなかった。俺の大切なものを踏みにじるようなやつは、消滅させるしかない。
この世界にきてわかったことがある。それは、結局、奪うしかないということだ。邪魔者は消すしかないのだ。
俺が見たかった世界のために。
俺は何をしたかったんだろう。
俺は何を望んでいたんだろう。
わからない・・・
だが、それでも、俺はこの平和な村を守りたい。
そのためなら、誰が傷ついても、どれだけ死のうとかまわない。
俺の村のために。
俺にいてくれと言ってくれた村のために。
ザルティバーグも、その取り巻きどもも。
皆殺しにするしかないんだ。
ザルティバーグはあっさりと俺の剣の錆になった。
もとから神をも殺せる俺が、盗賊王ごときに負けるはずはなかったのだ。
平和、か。そう、平和を俺は取り戻した。村人たちのところへ凱旋し、ザルティバーグの首をかかげてみせた。割れるような大歓声。誰もがザルティバーグの死を喜んでいた。俺だってそうだ。これで邪魔者はいなくなった。
なのになぜだか、
涙が、止まらないんだ。