呪いのゆめ祭り
そんなに怖くないので、寝る前でも読めます。
「ここが裏野ドリームランドですか」
目前にある錆付いた門を見つめたまま、俺は隣に立つ先輩に問いかける。
「ああ、ここが裏野ドリームランドだ。廃園になったのは今から3年前の夏、隣町の子ども会が企画した夏休み企画“夏ゆめ祭り”に参加した子供たちが集団で行方不明になった事件が直接の原因と言われているが、子どもがいなくなるっていうのは、だいぶ前から噂があったらしい」
「そんな所を、本当に調べるんですか?やめましょう、絶対に嘘ですって」
「仕方ないだろ、上からの命令なんだから」
「そうは言いますけどね・・・・」
俺と先輩がこの不気味な廃園に訪れた理由、それはおよそ2年前に、隣町のアパートで発見された遺体が原因だった。当初、遺体の状態から老人の孤独死であると考えられていたが、アパート入居時の賃貸契約書を元に、警察が身元捜査並びに司法解剖を行った結果、遺体は同町出身の38歳男性であると判明した。一部報道では遺体の容貌が年齢とかけ離れているため、別人ではないかとの見方がされたが、遺体のDNA鑑定の結果、間違いが無いことが確認され、当時は怪奇事件としてワイドショーを賑わせたものだ。
「亡くなった男性の手記が見つかったのは、うちだけが知る情報なんだぞ、他社がかぎつける前に裏づけとって、うちが報じれば社長賞間違いなしなんだから、お前もグチグチ言ってないで、少しは気合入れろ。そら、行くぞ」
「え~あ~もう、わかりましたよ。俺も社長賞は欲しいですから行きますよ」
遺族によって、亡くなった男性の手記が、うちの編集部に持ち込まれたのは半月前だ。その手記には、この裏野ドリームランドでおきた集団失踪事件と、その後に男性が体験したという怪現象について記されていた。手記によると、男性は失踪事件の起きた日に偶然、裏野ドリームランドを訪れそして、失踪事件を知らぬ間に家へと帰ってきたらしいのだが、後日確認した写真に失踪した子どもが写っているのを発見する。だが、男性はその写真を公表することなくこの世を去った。写真に写る子供たちの姿が、あり得ないものばかりだったというのがその理由だ。
「確か、ドリームキャッスルの裏でしたっけ?」
俺達は不気味な廃園内を、ネットで探してきた営業当時のパンフレットの写しを片手に進んでいる。荒れ果てた園内はいたるところに雑草が生え、飛散したベンチや看板などの残骸が転がっていて、かなり歩きにくい。一応ホラースポット的な場所と言うことで朝早くから乗り込んでいるのだが、あいにくの曇り空のためか廃園の中は暗く、一層不気味な雰囲気にしている。
「ああ、手記によれはその日、男性が立ち寄らなかったはずの、ドリームキャッスル裏の写真が大量にあり、そこに子供たちが写っていたらしいな」
「う~いやだなあ。毎晩夢でその光景を見て、そこで子供が話しかけてくるって言うんでしょ?しかもアレな姿で。俺としては男性が精神を病んで幻覚を見ていただけって言うのが現実的で平和で良いと思うんですよね。妙な写真も見つかってないわけだし」
「妙な写真って・・・俺は、アレはあれで妙な写真だと思うぞ」
手記に心霊写真と記されていれば、当然それを探すわけだが、手記と共に大量の写真プリントが見つかっているが、それは全部真っ黒だった。何も写っていない真っ黒な光沢紙と、何も記録されていないSDカードが厳重な封をされて手記と共に見つかっている。それぞれ専門家に解析を依頼し、共に何一つ手掛かりは見つかっていない。それでも、今回調査に乗り出したのは、その手記につづられた恐怖体験と、そこから滲む異様さゆえに“幻覚ではなく、そこに写真があった”のだと、俺達が感じてしまったからだ。
「まあ、あんなものを保管してるのも不気味ですけどね」
ぴちゃん
「・・・先輩、今水の音がしませんでしたか?」
「ん?、ああ、その先にアクアツアーのコースがあるみたいだから、そこに魚でもいるんじゃないか」
「魚でもって、ここは川と繋がってないじゃないですか、どこから魚が入るんです?」
アトラクションの水なら地下水か何かじゃないのか?それに、何年も放置されてるのに水があるかな。
「なに言ってんだよ、学校のプールに魚を放り込んで釣りするやつも居るんだぞ、いくらでも有り得るだろ」
「え~こんな所で釣りですか~ないでしょ~」
「わかんねえぞ~じゃあ、ちょっと見てくるから待ってろ」
「え、なに言ってるんですか!こんな時に別行動とかフラグ立てないで下さいよ。ちょっと待ってくださいよ、本気ですか~」
うわ、あの人本当に行っちゃったよ。・・・・じゃあ、俺は俺でちょこっとね。
ばしゃん
また、水の音がした。
「先輩?大丈夫ですか、水に近づきすぎて落ちたりしてませんか?」
・・・・
おい、なにやってるんだよあの人は・・・返事位してくれよ・・・
「せんぱ~い」
「・・・悪い・・・ちょっと落ちた。引き上げてくれ」
マジで落ちたのか・・・。
「もう~なにやってるんですか、どこですか~」
「ここだ~」
声のほうを見れば溝の中から手があがっていた。
「ったく、俺までびちょびちょになったじゃ無いですか、それにこの水・・・くさ! しかもヌルヌルしててくっさい」
「わるかったな、まああれだ、ドリームキャッスルは、もう直ぐそこだから、とっとと調べて帰ろうや。俺も靴がぐちゃぐちゃして気持ち悪い」
「まだ、あきらめないんですね・・・・」
ああ、帰りてえ。
「この辺ですかね?」
「手記によれば、裏口の脇に小さい扉があって、そこが怪しい地下室に通じるらしいぞ」
へ~・・・・あれ?そんな事書いてあったかな・・・
「先輩、それ、どんな記載でした?俺も手記読んだけど、その部分読み飛ばしてたみたいで・・・」
「なんだ、資料はちゃんと読まなきゃ駄目じゃないか、全くお前はいつまでも半人前だな・・・・まあ、だからこそ、ここまできちまったんだろうけどな・・・・くっくっく、くっあはははははははは」
「せ、先輩?・・・・」
な、なんだ様子が・・・まさか・・・・さっき姿を消した時に偽も・・・。
「な~んてな。これくらいで、びびってんじゃねえよ」
「・・・な!悪ふざけが過ぎますよ、この状態で高笑いされたら誰だってびびるでしょうが!」
全くなに考えてんだよこの人は!
「とりあえず写真とって、とっとと行きますよ」
あ~くそ、まったく、この人は・・・写真とって速攻帰ってやる。
ピ、ピピ、パシャン
どれ、撮れ・・た・・え?
「ん~どうした?顔色が悪いぞ」
「せ、せ、せ、せ、せんぱい・・・先輩まわ・・、こ、こ、こ、子どもが・・・・」
俺は、直ぐにカメラのモニターを先輩に向ける。そこには何十人もの子ども・・・それも首を切られて、頭がぶら下がっている血だらけの子どもが先輩を囲むようにして写っている。
「あん?・・・あ?・・・あ・・・あ・・・あああああ」
胡乱げにモニターを覗き込んだ先輩の目が、驚愕に見開かれ一気に顔色が変わり、もれ出る声が絶叫に変わる。
「せんぱ・・・」
「逃げろおおおおおおおおおおおお」
先輩の叫び声に俺も弾かれたように走り出す。
「こんな所、通ってないですよ」
どこをどう走ったのか、俺達は見覚えの無いエリアに迷い込んでしまった。
「ああ、そうだな・・・くそ、スマホが圏外のうえGPS起動するとフリーズしやがる」
「俺のほうも駄目です、町の方向がわかれば出口の方向もわかるのに・・・」
辺りは既に薄暗くなってきている。雨こそ降っていないが、曇り空だったために暗くなるのも早いようだ。
カタン
ビクッ!?
「な、何の音ですかね」
「わ、わからない。けど、絶対に良い事じゃないよな」
カタン カタン
カタン カタン カタン
カタンカタンカタンカタンカタン
「せ、先輩、あれ、ジェットコースターが・・・・」
「あ、ああ動いてるな・・・・」
薄闇の中、音と共にジェットコースターが動き出す。
はは、ははは、幽霊だけじゃなくて、ポルターガイストもかよ、しかもなんつう大掛かりな・・・
「ああああ!」
突然先輩が叫んだ。なんだよ、この上まだ驚くような事が起きたのか?それとも、流石におかしくなってきたのか?
「なんですか・・・」
「・・・いま、コースターから人が落ちた」
「・・・そうですか、でも グスッ 動いてる時点でまともじゃ ズビッ ないんですよ、今更ですよ・・・うぅぅぅ俺もういやだ帰りたい・・・」
「俺だって帰りてえよ・・・」
もそもそ・・・ズビーーー
「あ、俺にもティッシュ少しくれ・・・・」
ちーん
「いぎましょう。ここにいても呪われるだけです」
「そうだな、行こう。そして帰ろう」
「なんか、あの辺明るくないですか?」
「ああ、たぶんアレはメリーゴーランドだ」
「メリーゴーランド?さっきも地下室がどうとか言ってましたけど、そんな事手記に書いて無かったですよね?」
なんか言動がおかしいぞ、この人本当に先輩なのか?
「ああ、すまん。さっきは本当にからかっただけだ。いや、実は手記とは関係無しに、この裏野ドリームランドにはいくつか噂があったんだ。入る前にも言ったろ、子どもが居なくなる噂があったって。俺が知ってるのはジェットコースターの事故と観覧車近くの声、ミラーハウスの入れ替わり、ドリームキャッスルの謎の地下室、それと明かりがついて動いているメリーゴーランドかな。あと一つあった気がするけどちょっと思い出せない」
「そうだったんですか・・・あ、でもメリーゴーランドって、入ってきた門に近いですよ、恐ろしいけど、出口の方向はあの光の方じゃないですか」
「そうだな、行ってみよう」
「LEDライトなんて持ってきてたんですね」
俺達は先輩の照らすLEDライトを頼りに慎重に足を進めていく。周囲はすっかり日が落ちてもう明かり無しで進むのは難しい状態だ。最悪スマホのライトを使おうかと思っていたが、先輩がLEDライトを持参していて助かった。
「まあ、地下室の拷問部屋があるって噂があったからな。まあ、本気で見つけようとは思ってなかったけど、念のため持ってきたんだ」
「ありがたいような、迷惑なような、微妙な用意のよさですね」
「何言ってんだ、こうして役に立ってるじゃないか」
「そうですけど、何か釈然としませんね」
探索しようって、発想自体俺には理解できないよ。
「そんなことより、メリーゴーランドが近いぞ・・・噂ではすごく綺麗だという話だったけど、そんなに明るくも無いな」
確かに暗闇の中メリーゴーランドらしきものから明かりが漏れているが、明かりは強くないな。
「まあ、光っている時点で異常なんですけどね。あまり近寄るのも危険でしょうから迂回しましょう」
「そうだな、配置図だとミラーハウスの方に向かえば、迂回して出口に向かえるはずだから行ってみよう」
俺達は足元に注意しながら、慎重に進んでいくが・・・。
「まずいな、とうとう降って来たぞ」
「先輩はあの腐ったような水が洗い流せてかえって良いかも知れませんよ」
「ばかいえ、臭くても乾いてるほうがましだよ。しかたないミラーハウスに行って雨をしのぐか」
「え~ミラーハウスって入れ替わりなんでしょ?入ったら危なくないですか」
「入り口部分をちょっと借りるだけだよ。俺だってなかまではいる度胸は無いよ」
「う~ん。じゃあ分かりました、入り口だけですよ。中間ではいると嫌なもの見そうだから、本当に入り口だけですよ」
「わかったわかった。そう心配すんなって」
「どうだ、開きそうか」
入り口を前に先輩が問うてくる。別に俺に任せず、自分で開けてくれても良いんですよ。
「鍵はかかってないですね・・・なんだかいやな予感がしますよ」
「とりあえず、入ろうだいぶ雨が強くなってきた」
「もう・・・しかたないですね・・・・・どうなっても知りませんよ」
扉を開け中に入ると、中は大分荒れていた。演出のためか入って直ぐのところに鏡があるが、表面は埃のせいなのか少し曇っている。そして・・・・。
ドン
「うわ」
先輩が悲鳴を上げ、床に倒れ手にしたLEDライトが床を転がると、俺の靴のつま先にあたり止る。
「先輩、大丈夫ですか?」
LEDライトの明かりの中、ぼやけた鏡に写るは、床に倒れた無数の先輩と俺。
「・・・・・・」
「先輩?」
「・・・・・・」
「どうしたんです」
「・・・・くそ、そういうことか」
「え?何の話ですか」
「・・・もう、いい加減芝居はやめやがれ、この化け物が!」
「はあ?言ってるんですか、かわいい後輩を捕まえて・・・・先輩こそこんな事になってしまった事を後輩に詫びてくださいよ」
俺は立って、先輩を見下ろしながら“かわいい後輩”の部分で床に倒れている俺を指差す。
・・・・・・
「ウヒ、ウヒヒヒヒヒ」
・・・・・・
「・・・あれ~あれ、あれ、あれ~~~?もしかして初めから気づいてた?本人に成り切って割とうまく演じてたと思うんだけどな」
言いながら、僕は笑みを作る。だって、それはそうだろう?今日からまた一人僕達の仲間が増えるのだから。
「生憎だけどな、俺の後輩は少しばかり狡賢くて姑息なやつでな、スクープの話を聞いたら抜けがけするような奴なんだよ。・・・だけど、まあここで、死体を見つけるとは思ってなかった。体だけは本物だと思っていたんだけどな・・・」
「なるほどね~~~。勉強になりましたよ、明日からはもっとうまくやりますよ、ついでに新しい先輩にもアドバイスしてあげてくださいよ」
僕の声に応じるように鏡から無数の先輩が滲みでるように現れる。
「お前らは何なんだ・・・俺はてっきり本物が悪霊に乗り移られているんだと思っていたのに・・・完全な偽者だったなんてな」
「さあね~悪霊でも亡霊でも好きに呼べばあ?僕はね~むか~し、むかしここにあった村に住んでたんだけどね、夜盗っていうの?村が襲われて僕は殺されたんだあ、でも他の子が死んだ理由は色々だよ。僕が死ぬ前からここに居た仲間もいるからね~。後ね~一つだけ教えてあげるよ~。そこに倒れてる本物の後輩さんは、まだ死んでないよ。先輩が水浴びしてる時にここにきたから入れ替わっただけだよ」
「なんだと!」
「くすくすくす、さて本当かな~それとも嘘かな~~~死んでるかな~~生きてるかな~~」
「ちっ・・・これでどうだ」
突然先輩が懐に手をいれ何かを取り出し投げつけてきた。これは・・・清めの塩!
「く、何でそんなものを・・・・」
あ、なんだか苦しい。これが塩の力なのか・・・・・。
「心霊スポットに来るんだ、準備位するだろうが」
「ぐ、思うように動けな~~~い。せんぱ~~~い逃げないで下さいよ~~~~ウケケケケケケ」
「おい、しっかりしろ逃げないと本当に殺されるぞ」
後輩さんを担いで逃げる気かな~逃げられるかな~くすくす。
僕が、ミラーハウスから出れば、二人は入り口の門に向かっている。
みんな、おいで~~~逃がしちゃ駄目だよ~~~~。
僕の呼びかけで皆が集まってくれる。僕たちはみんなここの仲間だ。
おじちゃ~~ん、あそぼ~
あそぼ~~
クスクスクスクス
ケケケケケケケ
「や、やめろおおおおお、ば、化け物め、来るなああああ、近づくなああああ」
「僕たちを化け物だなんて、ひどいよ~~」
「そうだ、そうだ、皆僕たちにひどいことをするんだ」
「ぼくらは待ってたのにお父さんたちは来てくれなかった」
「熱かったよ~すごく熱かったんだよ、あのおじさんたちが、ぼくの足をきったから火事なのに逃げられなかったんだ」
「あのおじさん?・・・・・あれは・・・あの、覆面のあいつらは、なんだ!」
「あのおじさんはね~その後輩さんがしってたよ。おじさんたちはね、キョウシンシャなんだって。ぼくたちはキョウシンシャにつかまって、ひどいことされて、しんじゃったんだあああぁぁぁ」
「でも、いまは仲良しだよ~イヒヒヒヒヒヒ」
「そうだよ皆仲良しだよ、おじさんも死んで仲良くしようヨオオ」
「さあ一緒におじさんも僕たちと仲良くしよう・・・」
クスクスクスクス
クスクスクスクス
「みんないっしょは、楽しいよおおお」
「や、やめ、やめてくれええええええええええ」
あ~あ、いい大人がズボン濡らしちゃって恥ずかしいね。
「往生際が悪いなあ、もういいよ、やっちゃって」
「あ?」
ガブ・・・ブチン
ゴフ
あはははは、おじさんたら目を見開いて信じられないって顔してるよ、笑っちゃうね。
ケケケケケケ
「あぁ...」
「さっき偽者かもって言ったのに、つれてくるから・・・・おじさんだまされちゃったね」
「・・・・・」
「あ、おじさん喉食べられちゃったから、もう話せないんだね。でも大丈夫、直ぐ僕らの仲間になれるから。皆~~~今日は新しい仲間が二人も増えたよ~~~今日はパーティーだ」
「おおおおおおおお、怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨」
「ここが、裏野ドリームランドか」
「なあ、マジではいるのか?ここ絶対やばいって、本物の心霊スポットだって話だから、やめようぜ」
「そうよ、健二の言うとおりよ、私さっきから寒気がして、見てよこの鳥肌」
「あれ、なに咲きって霊感少女だったん」
クスクスクスッ
また、おともだちがきたね
きたね、今日はおねえちゃんが出来そうだよ
じゃあ皆で歓迎してあげようね
そうだね。クスクスクス
おともだちクスクスクス
うふふふふさあ、おともだちと踊ろう
あはははは楽しい楽しいお祭りだ
あはははははははははははは
―完-
先輩後輩の名前?
登場人物がほぼ二人なのであえて名無しです。