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地球の墓標、宇宙の海  作者: 冬野夏
episode B
93/111

89


男は次の瞬間、額辺りに右手を当てた。

それから、指を浸透させるように食い込ませると、右手は頭部に陥没した。


な!なにをやってるんだ!?いったい?

その光景には畏怖することより唖然としており、

見つめる以外になす術がなかった。


男は右手を頭に埋めたまま近づいてくると屈み、

その右手を取り出した。

額の部分を見せ付けるように。


「…から?」

強制的にも見せ付けられたその頭皮の先には、グロテスクなものが目に映ると構えていたのだけど杞憂であり、赤々とした物もなければ汁がたれている事もなく、ただ空洞としての形相を見せるのみだった。


「うそ…?」

横でユーコも驚愕したような表情で目を見開き、両手を口元に当てている。


「ああそうだ」

男は立ち上がり、再び見下ろす視線を僕らに投げかけると

「満足したか?」

と訊いてくる。

僕としては満足どころかより聞きたいことが増えた、倍増したと言っていいほどで、満足させてくれるというなら僕は一介のマスコミみたいに質問攻めするだろう。


「いれもの、みたいなものだ」


そうした思念を読み取ったように男が先手を打って喋り、その言葉は僕からしても複数の意味を持っているよう感じられた。


「いれもの!?」

反射的となって先にユーコが訊ね、言おうとしたことを盗まれて僕は少々むすっとしてこいつの顔を一瞥、それから男の返事を持った。

しかし相手の返事は頷きのみ。


「じゃあ、ぬいぐるみってことなの?」

ユーコの言葉に男は曖昧に頷く。

そうした光景を見ていて僕も我慢できなくなって、何か質問をしよう!と思い、考えもまともにまとまらぬままに口を開いた。


「ええと…そこに魂は?」


なんて訊いてしまった。思わずにも。

魂!

さっきその言葉を発して大いに笑われたにもかかわらず、だ。

だから言ってしまったあと、顔が急に火照って感じた。

…幸いなのは、このときにおいては誰も声を上げて笑わなかったことであり、多少なりとも深刻とした雰囲気に人知れず感謝した。


「魂?その概念はともかく、魂として、それを定義するものとはいったい何だ?」

男は首をゆっくり回し、僕のほうを真っ直ぐ見て問い返してくる。

僕は困惑した。

そんな定義、知るわけがない。

むしろ僕が聞きたいぐらいだ!

そうした言葉は喉元まで出ては引っ込み、ここは何でもいいからとにかく返事を。


「それは…その」

「自分が自分であるとする、”何か”でいいんじゃない?」

ユーコが隙をつくように口を挟むと、「ほう」と男は興味を示す感嘆を吐き、腕を組んだ。

「では、その”何か”とはなんだ?」

「わからないわ。あなたはわかるの?」

「その”何か”が”脳”と言ったら、どうする?」

男は挑戦的に訊ねてくる。




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