表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地球の墓標、宇宙の海  作者: 冬野夏
log 2
90/111

8.5


目が覚めると、我輩は豚で、人間ではなかったのである。

だが我輩は確かに人間だったはずであり、そうでなければ人間として生きていた過去の記憶も、こうした思弁も成さえないはずであるのだから。

はてこれはいったいどういうことか?


しかし我輩、豚であるというのだけは確かで、トンそくなる表象を得た太くずんぐりとした手足は四つで地面につき、四つんばいの姿が自然であり楽な体勢。重力に従えば自然となる姿勢がこれであり、鏡像認識として映る姿は豚だった。皮肉にもその認識が己を人間であったと確信させ、鏡像認識できる豚など聞いた為しがない。鏡像として己を豚と認識できる事実が、自分を人間であると意味づけたのだ。


されどそれは寧ろ間違いである可能性。

鏡像認識できる己、それは「魂」と換言してもよかろう。

すなわち己の魂は己であり、己の魂は元には人間としての体の鞘に収まっていたのだと、思うのだ。


だからこそ、我輩はこの状況に大きく戸惑う。

豚としての肉体、豚としての魂がそこにないからである。



にもかかわらず我輩の身体は豚であり、

いざ喋ろうにも「ブヒブヒ」といった言語未満、言葉の幼虫しか出ず、もどかしい。

ぶひぶひ。

ぶひぶひ。

ぶひぶひぶひ。

ぶひぶひぶひぶひぶひ。



いくら喋ろうとも徒労に終わるのみ。

意思の疎通は難しい。

困ったものだ。



我輩の魂は「人間」で、しかし我輩は「人間」ではない。

「魂」は「人間」ではない。

さすれば「魂」が「人間」でないなら、「豚」でどうして困るのか。

困るのだから仕方ない。




ぶひぶひ。

ぶひぶひ。

ぶひぶひぶひぶひ。

ぶひぶひぶひぶひぶひぶひぶひ。



もどかしい。


臭い。




はて。

どうしたものか。

どうしたものか。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ